『GUNDAM SONG COVERS 2』インタビュー

森口博子が語る、ガンダムソングに込められたものと歌うことへの使命 「根底には“生きる”というメッセージが流れている」

亡きディレクターの教え「言葉を大切に」を守った35年

ーー「いつか空に届いて」は、武部聡志さんとコラボしています。武部さんのピアノは、愛情に溢れていますね。

森口:そうなんです!! 武部さんには、20代の時にシングル『その胸の中でずっとずっと』やアルバムなどでお世話になったことがあって、それ以来約20年ぶりでした。楽曲の持つエバーグリーンな世界を大切にしたいとお話をしたら、本当に美しくて心地の良いアイリッシュな世界に仕上げてくださいました。武部さんの風を感じる演奏とアレンジはもう流石です!! これも同時レコーディングだったんですけど、ピアノが私に寄り添ってくださって、私も安心して歌うことができました。武部さんに「博子ちゃんのボーカルは、すごく言葉がはっきり届いて気持ちがいいね」と言っていただいたのは、すごくうれしかったです。

ーーそれは森口さん自身、ずっと意識されていることなんですか?

森口:これは17歳の時のデビュー曲、アニメ『機動戦士Zガンダム』のテーマソング「水の星へ愛を込めて」をレコーディングした時に、当時のディレクターさんから言われた言葉でもあったんです。「この曲は、君が大人になって何十年経っても歌える曲だから、言葉を大切に、特に語尾を丁寧に歌ってほしい」と。それに「君には何十年と歌える歌手になってほしいし、絶対になれるから」と言ってくださったことが、今でも忘れられません。言霊パワーで現実になりました。それ以来、言葉を大切にすることが、歌手としての森口博子の基本になりました。そのディレクターさんは40代でお亡くなりになって、思い出すと今でも泣けてしまうのですが、きっと天国でよろこんでくださっていると思います。

ーーいろいろな愛情に恵まれたからこそ、今があり今作があるということですね。ほかにもBonus Trackに収録の「限りなき旅路」は、コーラスグループのVOJAが参加されていて。

森口:この曲は、BS11のレギュラー番組『Anison Days』でカバーさせていただいた時に、説明のつかない涙がこぼれたという経験があって。菅野よう子さんこのスペイシーソングの極みだと呼べるダイナミックな楽曲を、何とかたくさんの人にお届けしたいと思って、「森口博子枠」を勝手に作って収録させていただきました。「限りなき旅路」は人間賛歌というか、命の賛歌というものを感じて大勢で歌う絵が浮かんで、壮大なコーラスワークにしたいと思っていて。アレンジャーの時乗浩一郎さんに相談して、VOJAさんとのコラボレーションが実現しました。オリジナル色は残しつつゴスペルのようなコーラスを加え、森口博子らしさやソウルフルな部分を、最後のフェイクで思う存分アドリブで入れさせていただきました。

ーーこの曲を聴くと、胸が熱くなりますね。コロナ禍を頑張っているすべての人を、鼓舞させてくれるような力強さを感じます。

森口:ファンのみなさんからも、「涙がこぼれた」や「生きる力をもらいました」「聴き終わって、泣きながら拍手しました」と言っていただけました。私自身、選曲した時は緊急事態宣言が発令されるとは思っていなかったのですが、まさしくそういった意味を感じてもらえます。私は歌詞の〈わき出るような痛みに突き動かされ〉というフレーズが大好きで。長く生きているとこの地球上でいろんなことが起きて、今現在も目に見えないものと私たちは戦っていて。人間はそうやって痛みに突き動かされながら、次の扉を開けるために生き抜いていかなければいけないんだと、私自身も突き動かされるものを感じながら歌いました。「生きる」ということは、まさしく「限りなき旅路」なんだ、そしてガンダムの歴史も“永遠”という気持ちを込め、「To Be Continued」の意味で最後に収録しました。

ーーまた寺井さんのほかにも、前作に引き続いてギタリストの押尾コータローさんとピアニストの塩谷哲さんが参加。押尾コータローさんとコラボした「あんなに一緒だったのに」は、『機動戦士ガンダムSEED』エンディングテーマで、若い世代のファンには特に知られている楽曲ですが、ギター1本のアレンジはすごく意外でした。

森口:これは絶対に、押尾さんのギター1本で歌いたいと思って。最初は音数少なくシンプルに始まって、2コーラス目でバッと梶浦由記さんの作るドラマチックで熱い世界に入ったら、きっと格好いいんじゃないかと思いました。押尾さんのスパニッシュでパーカッシブなギターが、見事に格好よくハマりましたね。『ガンダムSEED』ファンのみなさんからも、「こういうのもアリですね」や「ギターが格好いい」など、うれしい反響をたくさんいただきました。

ーー押尾さんとふたりで、バトルするような雰囲気も?

森口:前作では「哀 戦士」という曲をコラボさせていただいたのですが、同時レコーディングでアイコンタクトを取りながら、高まり合うようなセッションでした。今回は緊急事態宣言後だったので、同時レコーディングはできなかったですけど、そこにいるはずのない押尾さんとアイコンタクトが取れた映像が見えたんです。それがOKテイクに。ソーシャルディスタンスによって1音1音がさらに愛おしく感じられ、求め合うような熱量が感じられる曲になりました。

ーーまた塩谷哲さんとは、「一千万年銀河」をコラボ。

森口:塩谷さんのピアノがとにかく透明感にあふれていて、私は「ピアニッシモの王子」と呼んでいるのですが、やさしさの中にも力強さや意思が感じられるタッチが本当に絶妙です。同時レコーディングで、お互いの息づかいが感じられるような心の距離感で、レコーディングスタジオがまさしく宇宙になっていました。塩谷さんのピアノの響きは、まさしく銀河のキラメキです。ガンダムを知らなかった方でも、「ピアノのイントロだけで泣けました」と言っていただけたので、より多くの人に聴いてほしいですね。塩谷さんとは前作の「フリージア」と今回のこの楽曲と2曲、レコーディングしたキングレコードのスタジオでMVを撮影しましたが、とにかく映像が美しいんです。あんなにうっとりするレコーディングスタジオはないんじゃないかって。是非、浸ってみていただきたいです。

関連記事