乃木坂46 白石麻衣、スーパーアイドルとしての有終の美飾る ファンの胸に深く刻み込まれた卒業ライブレポ

 2020年1月7日に乃木坂46からの卒業を発表し、3月25日に自身がセンターを務める乃木坂46としてのラストシングル『しあわせの保護色』をリリース。そのまま5月5から7日の東京ドーム公演をもってグループを去る予定だった白石麻衣。しかし、2月頃からじわじわと感染拡大し始めた新型コロナウイルスの影響により、(本来なら、2017年11月以来二度目となる予定だった)5月の東京ドーム公演は中止に(そもそもコロナの影響で、開催自体4月末に明かされたのだが)。以降は乃木坂46に籍を残したまま、世の中の状況を見つつソロ活動を中心に続けてきたが、ついに白石が乃木坂46から去る日が訪れた。結果としては卒業発表から約10カ月も経ってしまったが、ファンやメンバーにとっては予想外に長く「乃木坂46の白石麻衣」の姿を目に焼き付けることができたのではないだろうか。

 10月28日、配信ライブという形にはなってしまったが、白石の卒業ライブ『NOGIZAKA46 Mai Shiraishi Graduation Concert 〜Always beside you〜』は無事行われた。開演直前に一部プラットフォームではアクセス集中により視聴できないというトラブルもあったが、これも現在の日本を代表するトップアイドルの卒業公演ならではと言えるかもしれない。

 ライブはドラマ仕立ての映像演出からスタートする。テレビで歌い踊る白石の姿に見とれる少女。画面には「ずっとこの時間が続けばいいのに」の文字が表示され、白石とともにある少女の日常が描かれていく。しかし、突然訪れた白石の卒業発表。少女は「いつか白石さんのような女性になりたいです」と胸の内を綴ったファンレターを送る。

 この映画のワンシーンを切り取ったような映像に続いて、乃木坂46のライブには欠かせないオープニングSE「OVERTURE」が流れ始める。どこまでが現実で、どこからが虚像なのか。いまいち把握できぬまま、ドラマの続きが描かれていく。学校から帰宅した少女のもとに、乃木坂46の贈り物が届く。開けてみると、中には白石を模した人形が。すると画面が切り替わり、その人形のパッケージを小脇に抱えた白石の姿が映しだされる。あれ、これも収録? などと呆けていると、そのまま白石が「オフショアガール」を歌い出し、卒業ライブが本格的にスタートするのだ。しかも、白石のすぐそばにはドラマに登場した少女の姿があり、人形を直接プレゼントする……この「収録映像」と「リアルタイムで起きていること」が曖昧に感じられる演出こそ、配信ライブならではの試みだろう。オープニングから度胆を抜く展開に、途中まで曲が耳に入ってこなかったほど驚かされた人も、きっと少なくなかったはずだ。

 過去の卒業メンバーの中には恒例行事となったバースデーライブや『真夏の全国ツアー』の一環で卒業ライブを行うものも少なくなかったが、中には生駒里奈や若月佑美、衛藤美彩のように企画色の強い卒業ライブを行う者もいた。今回の白石の場合は後者に含まれるスタイルで、全編見終えて気づかされたのはアンコール2曲を含む全23曲すべてに白石が参加したという事実だ。配信ということで視聴者の集中力を極力削がないようにMCを少なくし(それでも白石のみ衣装替えのためステージから捌け、ほかのメンバーがMCでつなぐ場面もあった)、場合によっては曲と曲の間に歩きながら重ね着していた衣装を脱ぐなんて場面もあったほどだ。その無駄を削ぎ落とした構成は、同じ坂道グループの日向坂46や欅坂46(現・櫻坂46)が過去に行った配信ライブを踏襲していると言えるかもしれない。

 また、配信ライブということもあってセットや演出も非常に凝ったものが多かったのも印象に残っており、ステージらしいステージが一切登場せず、メンバーは常に平場でパフォーマンスしているように見えた。そして、曲ごとに歌う場所(セット)を移動する様は、今年7月に行われた欅坂46の配信ライブに近いものを感じる。が、欅坂46がもっと映画的、演劇的に感じられたのに対し、乃木坂46の場合はもっと親しみやすさの強い、言ってしまえばテレビ的な要素が強く伝わってきた。これはどちらのほうがスケールが大きいとかどちらが優れているという話ではない。むしろ、スタート時はテレビを主戦場に戦ってきた乃木坂46らしいとも思うし、彼女たちが持つポップさにも当てはまるものがあり、卒業ライブならではの重苦しさを和らげる効果にもつながったのではないだろうか。

 選曲については、おそらく白石が最後に歌いたかった楽曲が中心なのだろう。常に彼女がセンターに立ち、過去には叶わなかった「あの曲の白石センターバージョン」を思う存分に楽しむことができた。「おいでシャンプー」では白石を中心に、左右に大園桃子、遠藤さくらという次世代を担うメンバーが並び、白石が築いてきた9年の歴史と、これから先に3期生、4期生が築いていく未来が交差する瞬間を捉えたような絵だった。

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