『ねえみんな大好きだよ』インタビュー
銀杏BOYZ 峯田和伸、“正気”で挑んだ新作と自由な音楽活動を続ける理由 「どこか一つに属さない、不安定な場所にずっといたい」
銀杏BOYZ、6年9カ月ぶりのアルバム『ねえみんな大好きだよ』が10月21日にリリースされた。俳優として峯田和伸が様々なフィールドに進出していく中で、銀杏BOYZはその音楽性の核をますます研ぎ澄ませながら、今回の新作にたどり着いた。世の中の激しい変化を肌で感じながらも、ミュージシャンとしてはしっかりと地に足をつけて活動していることが感じられる作品である。と同時に、そんな峯田がどこまでも伸び伸びと自由度の高い制作を続けていることが、『ねえみんな大好きだよ』という作品の面白さと奥深さに繋がっている。そんな最新作を通して、峯田が近況や理想、コロナ禍の今思うことを語ったインタビューをここに。(編集部)
どんどん表には出ていくけど、音楽では好き勝手できる
ーー前作『光のなかに立っていてね』が9年ぶりのアルバムだったのに対して、今回の『ねえみんな大好きだよ』は6年9カ月ぶりのアルバムになるわけで、これを「意外に短いインターバルだった」と言えるのかどうかは悩ましいのですが、一つだけ言えるのは、前回の9年間よりも今回の6年9カ月間の方が、世の中は大きく変わりましたよね。
峯田和伸(以下、峯田):変わった変わった。人の考え方とかね。
ーーメンバーと作るのとサポートメンバーと作るので、アルバムの作り方も全然変わったと思うんですけど。
峯田:『光のなかに立っていてね』は、メンバーと一緒に長い期間スタジオに閉じ篭って地下から怨念をバーッと出すみたいな、そういう作品だったけど、今回はもう篭る必要がなかったんだよね。サポートメンバーとはスタジオでしか会わないという関係性の中で、前作から時間こそ空いちゃったけど、煮詰まったりすることなくできたんだよね。
ーーでも、今回の『ねえみんな大好きだよ』を聴いて、自分は峯田和伸というのはポップアーティストというより、もっと古典的なアーティストなんだなって思ったんですよ。画家とか映画監督とかにも、新しい作品を作るんだけど、結局それが毎回同じモチーフの人っているじゃないですか。そういうタイプのアーティスト。役者業とか全部を含めた峯田和伸はポップアーティストかもしれないけど、音楽家としての峯田和伸はあくまでもそういうオーセンティックなアーティストなんだなって。
峯田:毎回1stアルバムを作ってる感じ。作品ごとに色を変えるとかじゃなくて、過去の作品をアップデートしていくことでしか作品を作れない。その時、その時、過去の作品を上書きしていくような感じで。
ーー新曲をライブでやって、レコーディングでアレンジや歌詞がちょっと変わって、またその次のライブでアレンジが変わっていく、あるいは何年も経ってから別の曲のモチーフになっていく。そういうものの作り方をしているミュージシャンって、実はあんまりいないじゃないですか。レコードという複製芸術が生まれて以降、普通はレコーディングが曲の完成形で、ライブではそれを再現することを求められるわけで。そのことが、こうして作品を重ねることではっきり見えてきた感じがしてるんですよね。
峯田:『ねえみんな大好きだよ』を作っていて思ったのは、作り方は全然違うんだけど、結局前作と同じなんだよね。アルバムの前半はノイズから始まって、前回は「光」、今回は「生きたい」っていう重ための曲が後半にあって、その後に前回は「ぽあだむ」、今回は「GOD SAVE THE わーるど」みたいなポップな曲がきて、前回は「僕たちは世界を変えることができない」、今回は「アレックス」っていう機械的な8ビートの曲で終わるっていう。一緒なんだよね、作品の構成が。
ーー楽曲やリリックのリファレンスというか、もはや峯田さんのオブセッションだと思うんですけど、例えばThe Stone Rosesのような1989年のマンチェスター・サウンドだったり、レオス・カラックスだったり、それも前回からずっと引きずってきているものですよね。
峯田:うん。これから後、20年、30年、どれだけ音楽をやっていくかわからないけど、ずっと1枚の絵を描いていくんでしょうね。
ーーそういうバンドは、ライブで過去の曲をやってもその曲がずっと古くならない。
峯田:商業ベースじゃないってことなんだろうね。1年に1作とか、2年に1作とか作ってたら、無理をしてでも変化しなきゃいけないんだろうけど、そういう必要もないからね。俳優めいた活動で、どんどん表には出ていくようになってるけど、その分、音楽では好き勝手できるようになっちゃって。
ーーまあ、昔から好き勝手やっていたとは思いますけど(笑)、今の状況は傍目からも本当に理想的だと思いますよ。
峯田:どうなんですかね。自分ではわからないけど、ずっとストレスはなくやれてますね。
ーーだって、それこそ作品の制作期間にせよ、ライブの形態にせよ、ギャラの配分にせよ、バンドとしてやってた時よりもはるかに自由度が増してるでしょ?
峯田:それは本当にそう。サポートメンバーにも、自分のバンドがあったりするからね。だから、お互い愛人同士。奥さんや恋人とは違うから。
ーーその喩え、バンドメンバーが全員抜けたばかりの前作タイミングでも言ってましたけど、本当にそれでうまく回ってるってことですよね。
峯田:ライブやレコーディングの過程で、サポートメンバーとのバンド感も強くなってきたしね。今のメンバーで、ここ3年くらい固まってきたから。
ーーいいとこ取りじゃないですか。
峯田:うん。
世の中も音楽もわかってない中学生が「うわああああ」って思うものを作りたい
ーーでも、最初の話に戻ると、この6年ちょっとで本当に音楽業界もそうだけど、社会全体が変わったと思うんですよ。そこに対してどのようにアジャストし、どのように抵抗し、どのように作品に反映してきたと思いますか?
峯田:この6年でいうんだったら、世の中はSNSを中心にもっと加速していって、もっと情報量が多くなって、そんな環境の中で人の集中力が5分くらいしか続かなくなってきたと思うんですよ。自分から取りに行かなくても、向こうからどんどん情報が襲ってくるから。
ーーそうですね。それに関しては、シャットアウトしたいと思うような気持ちはない?
峯田:ない。別にそれでいいと思う。俺も含めて、みんな麻痺しちゃってるけどね。
ーー特に生活も変わってない? 相変わらずエロ画像を収集して。
峯田:うん。それでスマホの容量パンパンで。
ーークラウドを使えばいいのに。
峯田:ああ、クラウドはダメ。俺の画像コレクションは漏洩したら大変なことになるから。
ーー(笑)。でも、そういうことも、6年前と比べてあまり無邪気に言えなくなってきてるじゃないですか。
峯田:そうですよ。もう笑えなくなってきてますから。世相的にね。
ーーそれこそ、銀杏BOYZのシグネチャーである、若い女の子の写真を使った作品のアートワークだって、「中年男のくせに気持ち悪い」みたいなことを言われかねない時代で。
峯田:言ってる人もいるかもしれないね。でも、銀杏BOYZに関しては、俺、全部責任負えるんで。
ーーなるほど。
峯田:だから、周りがどうなってるかもわかってるんだけど、そこにあんまり合わせようとも思ってないんだよね。責任は自分でとれるから。それが自分で責任を負えない範囲、例えばNHKのドラマに出てる時だったら、何かあったらNHKにも共演者にも迷惑かかるだろうなって思って気をつけたりもするけど。でも、銀杏BOYZに関してだったら何でも責任負えるから。そこは好き勝手やらせてもらうよ。
ーーでも、ドラマや映画って撮影からオンエアや公開まで結構あるし、これだけ出てるとほとんど空白期間がない気もしますが(笑)。
峯田:まあね。大河とか長いからね(笑)。でも、俺、そもそも悪いことしてないからさ!
ーー(笑)。確かに、そういう体質じゃないですよね。
峯田:そう。お酒も飲まないし。「正気でいること」っていうのが、自分にとっては大事なんだろうね。
ーー「正気でいること」?
峯田:うん。世の中がどんなことになっても、音楽業界がどんなことになっても、そこで自分は正気でいないと曲のビジョンって生まれないし。生活が乱れてると、やっぱり曲って浮かばないですよ。
ーーああ、そうなんだ。でも、自分もちょっと参加させてもらった、この間刊行された書籍『ドント・トラスト銀杏BOYZ』の菅田将暉さんとの対談の中でも言ってましたけど、20代の頃はいつ死ぬかわからないような精神状態で活動していた時期もあったわけじゃないですか。あの時期も近くで見る機会はありましたが、明らかに狂気の世界だったと思うんですよ。そこから現在の正気に至るまでの道筋というのは、どういうものだったんだろう?
峯田:うーん......自分の周りにいろんな世界があるとして、当時も想像はできたんだけど、行ったことがなかったから、想像で自分の都合のいいように世界を見てきて。でも、30代、40代ってなっていくに従って、実際にいろんな世界を見ることができるようになって。それは芸能界でもそうだし、昨年初めて行ったロンドンでもいいんだけど。昔は9:1で自分の見たい世界だけを見てきたけど、それが今は6:4くらいで、現実が4くらいを占めるようになった。そういうことなのかもしれないな。
ーーなるほど。その「正気」っていうのは、今回のアルバムを読み解くキーワードかもしれませんね。
峯田:27歳くらいかな......ツアーで骨折したり、いろいろやらかしたりしてた時は、それでも半分は自分がコントロールできる部分でやってたことだし、残りの半分はあの時代の空気もあった。2005年〜2007年あたりの空気に引きずられて、自分のコントロールができないところまでいっちゃったんだと思う。だから、あの頃から比べてどうだったっていう話をされると、答えようがないんだよね。なんだろうな......暗闇の中で自分の指先を血だらけにして何かを掘ってるような感覚があって。それだけ当時は模索してたってことなんだろうけど、あの姿を見てくれていた人が今は大人になって、ミュージシャンでも、お笑い芸人でも、写真家でも、何かをやるきっかけになってきたんだとしたら、それは無駄じゃなかったんだろうなって。あの時はキツかったし、そのせいでメンバーもみんないなくなっちゃったけど、そうやって、あの時の俺たちがきっかけとなって生まれたものもあるんだと思うだよね。
ーーそれは本当にそうだと思います。
峯田:当時は「こんなことやってていいのかな?」って不安でしょうがなかったけど、だからこそ、やってよかったんだと今は思う。
ーー20代の頃の自分を裏切っちゃいけないとか、そういうことを思ったりもしますか?
峯田:示しはつけなきゃとは思いますよ。でも、当時の俺が今の俺を見たら、「だっせえな」って言ってると思うよ。でも、それでいいと思う。
ーーなるほど。
峯田:それにね、まだまだ届いてないと思う。今の中学生にも、ちゃんと届くような作品を作りたい。
ーーノイズのウォール・オブ・サウンドに大半が覆われていた前作と比べたら、音楽的にはかなり敷居は低くなっていると思うけど。
峯田:まだまだこれから低くなっていくと思う。昔からの変わらない理想は、俺が初めてロックを聴いた時がそうだったように、まだ世の中のことも音楽のことも何もわかってない中学生が「うわああああ」って思うものを作りたいってことだけだから。
ーーそこにだんだん近づいてきているという実感はある?
峯田:うん。でも、まだまだいけると思ってます。