『長岡米百俵フェス ~花火と食と音楽と~ 2020』が示した未来への道しるべ ぬくもりと不屈の精神で踏み出した一歩

 今年は新型コロナウイルス感染拡大によって多くの音楽フェスが開催中止の決断を迫られたが、徐々に感染拡大防止のガイドラインを徹底した上で開催する音楽フェスも増えてきた。そんな中、有観客の音楽フェス『長岡米百俵フェス ~花火と食と音楽と~ 2020』(以下、『米フェス』)が、10月10日、11日に新潟県・長岡市の東山ファミリーランドにて開催された。この『米フェス』もまた、感染対策を徹底しながらエンターテインメントの新たな一歩を踏み出すフェスとなった。本稿では、2日間の模様を交えながら、『米フェス』に感じたぬくもりと強い精神についてご紹介したい。

 今年の『米フェス』は新潟県民限定でのチケット販売となった。これは前述したように新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から取られた施策だ。スタンディングゾーンに入場する際は、フェイスシールドの着用が義務付けられ、ライブ中の歓声は厳禁となり、飲食エリアの購入はLINEサービスを利用して注文と商品完成時の通知による混雑の緩和と、とにかく感染を防止する取り組みが徹底されていたことが印象深い。また、オンラインでの生配信も行われ、会場に居ずとも『米フェス』の雰囲気を楽しむことができた。

 開演前、オンライン配信では会場内の模様が映し出された。印象的なのは飲食ブースの模様だ。フェス飯と言えば、丼ものや串ものが多いが、この『米フェス』ではその名にふさわしく「塩おにぎり」が販売されていた。日本人のソウルフードのひとつでもあるおにぎり。お米の産地であるこの新潟という土地ならではのフェス飯のなんと美味しそうなことか。配信を見ていた誰もがきっと、おにぎりを食べたくなったことだろう。

 1日目は長岡市長の挨拶からスタート。この長岡という街は全国屈指の規模を誇る花火大会が有名だが、今年はコロナの影響で中止となってしまった。そんな厳しい最中でもこのフェスが開催できること、それにはたくさんの対策が講じられたこと、来場者や関係者への感謝を真摯に語る姿が印象深い。長岡という街とこのフェスの強い関係性が垣間見えた瞬間だろう。

 今回の『米フェス』は2日間を通じて、新潟や長岡市出身のミュージシャンが数多く出演した。1日目のオープニングアクトを飾った、アコースティックギターとルーパーを駆使した独特のサウンドと歌が絡み合うパフォーマンスを展開した伊津創汰。いとこ同士の関係から生まれる、息がピッタリと合った掛け合いと素朴であたたかい音楽が特徴のひなた。艶やかな音色とこぶしが印象的な歌声が特徴的な中澤卓也。新潟という土地、長岡という街で開催されるフェスだからこそのラインナップであり、主催者、そして出演者双方の土地への愛情を感じるステージばかりであった。

 長岡と『米フェス』の関わり合いは出身のミュージシャンに限らない。名古屋を拠点とするTEAM SHACHIのステージでは地元の学校に所属する吹奏楽部とのコラボレーションを披露。地元学生とのコラボをTEAM SHACHのメンバー、そして吹奏楽部のメンバーの両者ともに心から喜び、楽しんでいた姿が印象的だ。

 今やテレビで見ない日は無いファーストサマーウイカはアニソンカバーを披露。「Butter-fly」(和田光司)や「限界突破×サバイバー」(氷川きよし)など、国民的ヒットアニソンナンバーを乱れ打ちし、子供から大人まで楽しめるステージとなった。元・歌のおにいさんの横山だいすけによるパフォーマンスは、大人もこの瞬間だけは子供のようにはしゃごうという遊び心に満ちたステージに。会場内にキッズパークと呼ばれる子供向けのエリアがあることも相まって、全体を通して幼い子供たちにも楽しめるようなフェスとなっていた。

 芸能界の今をときめく俳優・タレントの出演も見逃せない。NHK連続テレビ小説『スカーレット』にも出演し、俳優としてもマルチな才能を見せる松下洸平は、明るくポジティブで気負わない伸び伸びとした歌声を届ける。星野源へのリスペクトの想いを語り、「SUN」のカバーを披露すると会場からは大きな拍手が起こった。2日目にはつるの剛士が登場。自身のオリジナル曲だけでなく、プリンセス プリンセスの「M」や中島みゆきの「糸」など、名バラードのカバーも披露。普段バラエティ番組では見せないような真剣で真っすぐな表情のギャップに思わず見とれた人も多かったのではないだろうか。

 音楽シーンの最前線に立つミュージシャンの出演も多かった。1曲目の「君に出会えたから」から観客のタオルが舞った初日のmiwaのステージは、ヒットチューン満載のセットリストと彼女らしいキュートさ、そして『NHK紅白歌合戦』にも出演した経験値に裏打ちされた音楽家としての貫禄を存分に見せつけるライブとなった。ポップロックバンド、wacciが日常のさり気ない瞬間と、そこから生まれる感情の機微を繊細で軽やかな演奏で描くと、長岡の地には哀切の風が吹いた。バイオリンによる幻想的な旋律とディストーションが効いたギターサウンドが織り成し生まれる独創的な世界へ誘ったBIGMAMAも、見る者全てを演奏で惹きつける。初日のトリにはサンプラザ中野くんが登場。往年のロックナンバーを惜しげもなく披露し、年齢を感じさせないパワフルなパフォーマンスで初日のトリにふさわしい祝祭感を創り出した。2日目のトップバッターを飾った琴音は、息を吐くようなハスキーボイスが作り出す壮大な世界と、高校生とは思えない安定した歌い様に歌うことへの覚悟を感じるステージングを魅せる。半崎美子は全編を通し、見ている観客の胸を貫くような愛の念がこめられたポップバラードを長岡の地に響かせた。オンラインでの配信はなかったものの、初日には天月-あまつき-、2日目にはC&Kも出演し、会場を沸かせた。

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