Kizuna AI×花譜コラボ曲「ラブしい」インタビュー
川谷絵音に聞く、Kizuna AI×花譜コラボ曲で感じたバーチャルアーティストの特異性「この先は有利というか、可能性しかない」
最近は生身がバーチャルにどんどん近付いている
ーー川谷さんにとっても新鮮な体験だった、と。「ラブしい」の制作を踏まえて、バーチャルアーティストの可能性についてどんな風に捉えていますか?
川谷:うーん、なんでしょうね……。米津玄師も出演した「フォートナイト」のバーチャルイベントもそうですけど、現実にいる人がアバターになったり、最近は生身がバーチャルにどんどん近付いていて。VTuberはその先駆者だし、時代に合ってるのかなと思いますね。この先どんどんバーチャルが広がっていくなかで、VTuberは有利というか、可能性しかないという感じです。もちろん誰もが出来ることではないし、狭き門だと思いますけど、YouTubeは老若男女はすでに一般化しているし、Kizuna AIさん、花譜さんの存在ももっと広がっていくと思いますね。
ーーバーチャルな表現が浸透することになって、音楽自体にも影響があると思いますか?
川谷:音楽に関しては、ストリーミングによってすでに変わっちゃってますからね。僕らの世代は、お気に入りが1曲あればアルバムを買ってたんですよ。そうすると好きな曲以外も必然的に聴くことになるし、アーティストやバンドの側も、アルバムのなかでいろんな表現をする意味があったんです。いまは基本的に“単曲”が中心だから、有名な曲があると、そのイメージしか持てなくなってしまう。アルバムのなかでいろんな曲を提示する意味がないというか、そもそもアルバムを出す意味もなくなってるんですよね。そういう部分でもVTuberは有利ですよね。そもそも単曲メインだし、MVとふだんの活動のイメージが同じ世界観でつながっているのも、いまの状況に合ってるなと。やっぱりいまの時代にハマってるんでしょうね、VTuberは。
ーー川谷さんは「ラブしい」以外にも、「美的計画」(川谷絵音の作る曲を色んなボーカリストに歌ってもらうプロジェクト)を立ち上げたり、BENIさん、坂本真綾さんに楽曲提供するなど、作家、プロデューサーとしての活動も広がっていて。これは意図的なものですか?
川谷:いや、自分から「やります」って募集したわけではないので、たまたま重なっただけですけどね(笑)。「美的計画」は、「自分では歌えない曲を人に歌ってほしい」というところから始まっていて。アーティストさんへの楽曲提供だと、いろいろな条件が絡んでくることもあるし、完全に好きなように作るのは難しいこともあって。制限があるほうがいいこともあるんですけど。「ラブしい」も“VTuber同士のデュエットで、テンポが速くて”という条件のなかで出来た曲だし、制限があるからこそやれることもあるので。ただ一方で、まったくストレスフリーに楽曲提供をやれる場所も欲しかったんですよね。「美的計画」は自分のバンドで見送った曲だったり、新しいアイデアを試すこともできるんですよ。けっこう好きなようにやってます。
ーー「美的計画」の第一弾は、川谷さんがTwitterで開催した弾き語り企画で選ばれた“にしな”が歌った「KISSのたびギュッとグッと」。SNSやTikTokなどで見つけたシンガーをフックアップできる機能もあるのでは?
川谷:そうですね。もっと気軽にやりたいというか。海外のアーティストって、いきなりDMで連絡してきて、「一緒にやろうぜ」って言ってくるんですけど(笑)、日本人はそうじゃなくて、連絡するときも「(作品を)聴いてください」という感じなんですよ。自分としては出来るだけ壁をなくして、自由にやられる雰囲気を作りたいんですよね。
ーー実際、SNSなどで才能のあるアーティストを見つけられることも多い?
川谷:それはすごくあります。花譜さんも一人でネットにアップしてた歌がきっかけだったそうなんですが、すごい才能がいっぱいいるので。Twitterの弾き語り企画のときに選んだ5人のなかにYOASOBIの幾多りら(ikura)さんもいたんですけど、そういう人たちと知り合いたいし、機会損失をしたくないんですよね。
ーーちなみに美的計画は女性シンガー限定なんですか?
川谷:そういうわけではないですけど、もともと男性の声のストライクゾーンが狭いんですよ、僕は。楽曲の音域も広めなので、男性シンガーだと歌うのが難しい場合もあって。
楽曲提供/プロデュースワークは“J-POPっぽくしない”
ーーBENIさんに提供した「だけど放て」はどんな経緯で制作したんですか?
川谷:BENIさんはもともと知り合いだったんですよ。安良城紅名義の頃から聴いていたし、ドラマの主題歌としても耳なじみがあって。ちょっとロマンティックな感じですけど、自分が昔、聴いていた人に曲を作るっていうストーリーがいいなと思ったんですよね。
ーーBENIさんとしては、新しいテイストの曲を川谷さんに作ってほしかったのでは?
川谷:そうですね。2曲作ったんですけど、もう1曲のほうは、これまでのBENIさんのイメージに近い曲で。採用された「だけど放て」は違う方向性の曲なので、新しいテイストを望まれていたんだと思います。この曲、ギターをichikaくんに弾いてもらったんですよ。ichikaくんのギター以上に目立てるボーカリストはほとんどいないと思うので、ふだんの楽曲提供のときは呼ばないんですけど、この曲には合うかなと。実験的なところもあるけど、この楽曲だからこそやれたことだと思います。アウトプット先が多ければ多いほど、そのぶん、いろんなことが試せるんですよね。
ーー坂本真綾さんに提供した「ユーランゴブレット」「細やかに蓋をして」の時はどんなやり取りがあったんですか?
川谷:打ち合わせのときは、ジェニーハイのある曲を挙げてもらったんですけど、僕はアマノジャクだから、ぜんぜん違う曲を送ってたんです(笑)。それが「細やかに蓋をして」だったんですけど、「いい曲なんですけど……」みたいな感じだったから、もう1曲、アップテンポの「ユーランゴブレット」を投げて。結局、どっちも採用してもらったんですけどね。オファーを受けてから数日、最短だと1日で曲を送るんですよ。ボツになってもすぐに違う曲を送るし、ボツになった曲は他のバンドで試すこともあって。BENIさんに送って採用されたなかった曲も、DADARAYでやってるので。indigo la Endだけですね、時間がかかるのは。
ーーでは、楽曲提供、プロデュースにおいて、いつも意識してることといえば?
川谷:J-POPっぽくしない、というのはあるかも。楽器が大事なんですよ。歌を目立たせるために楽器を控えめにするのではなくて、インストとしても成り立つように作るのはこだわってますね。
ーーボーカリストの個性を出すことはあまり考えてない?
川谷:僕が作る曲の譜割りって、めちゃくちゃ難しいんですよ。メロディの起伏もあるし、音域も広いから、歌いこなすだけで、その人にとっての新しい世界が広がるんじゃないかなって思います。
ーーなるほど。川谷さんは圧倒的に多作だし、ライブが出来ない現状において、さらに多くのシンガーやアーティストから曲を求められることも増えそうですね。
川谷:あんまり意識してないですけどね、そこは。適応能力はあるほうだと思うし、どんな状況になっても、「何でもいいかな」って。ライブが出来なくなって、「ライブをやることで活動のリズムを作ってたんだな」と気付いたけど、それが何かにつながったわけでもなくて。ライブがなければ、曲を作るしかないですからね。バンドをいっぱいやってるから、必然的に作らなくちゃいけないし(笑)。
ーーどうなるか分からない以上、それが正論かもしれないですね。では、川谷さんにとって楽曲提供やプロデュースのおもしろさとは?
川谷:その人を知れることかな。いままで接してない人でも、楽曲提供すると自然に詳しくなるし、興味が湧くじゃないですか。その人が新曲を出せば、「どんな曲だろう?」って気になって聴いたり。あとは自分の作った曲を聴いて、僕がやってるバンドの曲に興味を持ってくれるかもしれないし……一番はそれかな。
ーー相手を知れば、曲の方向性も見えてくるんですか?
川谷:そうですね。声を聴けば、自然と曲が頭のなかで再生されるので。もちろんその人がカッコいいかどうか、自分が好きかどうかも大事だし。ただ、僕はプロデューサーではないし、プロデューサーと呼ばれたくもなくて。やっぱりバンドがメインですからね、僕は。
■リリース情報
Kizuna AI×花譜コラボシングル『愛と花』
タイトル:愛と花 -AI edition- / -KAF edition-
発売日:2020年9月23日(水)
アーティスト:Kizuna AI × 花譜
商品番号:KTR-017 / KTR-018
レーベル:KAMITSUBAKI RECORD
価格:¥1,500(税込)
予約URL(BOOTH):愛と花 -AI edition-、愛と花 -KAF edition-
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愛と花 -AI edition-
愛と花 -KAF edition-
<収録曲>
M1「ラブしい」作詞・作曲・編曲:川谷絵音
M2「かりそめ」作詞:ぽん/作曲・編曲:小島英也
M3「ラブしい(Instrumental)」
M4「かりそめ(Instrumental)」
M5「VMZ RADIO」
■関連リンク
ZONe「IMMERSIVE SONG PROJECT」
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