『IDOL舞SHOW』インタビュー

『IDOL舞SHOW』プロデューサー×斎藤滋×冨田明宏×木皿陽平 座談会 コロナ下で顕著化したアニソン/アイドルコンテンツの課題

 音楽バトルプロジェクト『IDOL舞SHOW』より、NO PRINCESS、三日月眼、X−UCの3ユニットが2ndシングルを10月7日にそれぞれリリースした。『IDOL舞SHOW』は、音楽プロデューサー・斎藤滋、冨田明宏、木皿陽平の3名が、それぞれのアイドルユニットを率い競い合うプロジェクト。諏訪ななか、Machico、木戸衣吹ら人気声優〜若手まで、多数の女性声優がメンバーとして参加している。

 リアルサウンドでは、プロジェクト発起人であるユニバーサルミュージックジャパン・工藤智美プロデューサーと、各グループの楽曲面を担う音楽プロデューサー・斎藤滋、冨田明宏、木皿陽平にインタビュー。これまで様々なアニメ・声優音楽作品に携わってきた四者が、『IDOL舞SHOW』立ち上げからの約1年間、そして新型コロナウイルスによって激変したエンタメ市場をどう捉えているのか。今浮き彫りになるアニメ・アニソン業界の課題からアイドル音楽のこれからが垣間見えるインタビューとなった。(編集部)

プロジェクト始動からの1年を振り返る

ーー『IDOL舞SHOW』プロジェクトが始動してから約1年経ちました。プロジェクト発起人の工藤さんの目には、ここまでの流れはどう映りましたか?

工藤智美(以下、工藤):去年の10月に立ち上がって、ようやくコンテンツとして掴めてきたところに新型コロナウイルスで中断してしまって。ただ、1stイベントからシングルリリースまでの実感でいくと、10年ぐらい前にこういうことをやっていたな、古き良き時代が帰ってきたみたいなコンテンツになったなと。新しいと思って始めたんですけど、気づけばすごく懐かしいものができてしまい、自分的には初心に戻れたし楽しくやれている。ただ、それがまだお客様にまでは届ききっていないけれども、出演者やスタッフと共有できてきた気はしています。

ーー「懐かしさ」の要因は何だったんでしょう?

工藤:関わる事務所がすごく多くて、音楽プロデューサーが各ユニットに1人ずつというコンテンツはそんなにないんですよね。リレーションが複雑すぎて時間との戦いになり、最後は勢いじゃないと乗り切れなくなる。そういうノリを昨年10月の豊洲PITでのライブ(参考:『IDOL舞SHOW』各グループが発揮した音楽的強みと個性 1stイベントで繰り広げた熱戦を振り返る)に向けた流れで感じて、10年前、15年前の声優業界を思い出したんです。それに、ライブを観に来てくださった関係者がみんな「これは懐かしいね」と言っていて(笑)。

冨田明宏(以下、冨田):あの日がお披露目でしたし、しっかり着地してよかったですよね。

工藤:キャスト決定からレコーディングをバタバタとやって、リハーサルもバタバタ、そこからの本番だったから、すごく一生懸命やらないとステージが成り立たないので、キャストのみんながものすごく集中していましたし。

木皿陽平(以下、木皿):斎藤さんのところ(NO PRINCESS)はダンスが激しかったから、大変だったんじゃないですか?

斎藤滋(以下、斎藤):そうですね。10月のライブを観た印象ですが、いい意味でインディーズ感みたいなものが伝わってきて。今って頑張って整えて、しっかり作り上げたものを見せるというプロジェクトが多いと思うんですけど、NO PRINCESSやIDOL舞SHOWに関しては前述の「勢いで乗り切る」というのが工藤さんが感じる懐かしさに繋がっているんだなと思いました。ライブが始まる前までは勢いで乗り切るとは言えども「大丈夫かな?」と心配だったんですけど、終わったあとに「むしろこの良い意味での『懐かしさ』が発する面白さがIDOL舞SHOWの個性なのかもしれない」と。それは工藤さんのカラーだと思うんですけど、工藤カラーを突き詰めていった先に面白さが出てくるんじゃないかと、改めて思いましたね。

冨田:そういう意味では、コロナがやってこなければたぶん『IDOL舞SHOW』は、もっとお客さんを巻き込んでみんなで作っていくコンテンツになっていたんだろうなと思うんです。それこそ今回は声優未経験の方がいたりとか、そこも含めてすごくカオスなんだけど、そもそもオリジナルのコンテンツって広がるのにすごく時間がかかるじゃないですか。その「面白そうだな」という胎動が見えたときに、コロナが来ちゃったなという感じがあって。だから、去年のライブに関しては観ていた関係者には「曲がすごく良いし、キャストもみんな一生懸命だし、荒削りだけど原石みたいな感じがする」とワクワクしている人も多かったんですよね。

工藤:だから、中止になった4月のライブ(※4月5日、神田明神ホールで予定されていた『そろいぶみ!IDOL舞SHOW〜神田みょー陣〜』)をやれていたらどうなっていたのかなって、すごく思いますね。

冨田:10月は一部メンバーが不参加で、4月のライブで勢揃いするはずでしたし。もしお客さんも含めて「懐かしい」とか「カオスだな」とか、同じような印象を持っていたんだとしたら、参加意欲がより芽生えていたかもしれないですね。すべてifの話になっちゃいますけど。

生まれてから育つまでの過程を3つ同時に見られる贅沢さ

NO PRINCESS

ーーその10月の1stライブイベントで披露された各ユニットの楽曲は、今年1月8日にCDリリースされています。改めて各ユニットの1stシングルを今どう捉えていますか?

工藤:お三方のおかげでユニットカラーがすごくはっきり出て、クオリティも素晴らしいものに仕上がったと思っています。デモのときから良かったんですけど、レコーディングをしたものはさらに良くなっていましたし、振り入れをしたらさらに良くなって、ライブで披露したら完全に確立したなと。楽曲が生まれてから育つまでの過程を3つ同時に見られる贅沢さに、私としては得した気分でしたね。

ーー木皿さん、X-UCの1作目『カレント・ザナドゥ』はいかがでしたか? 1年前のインタビュー(参考:斎藤滋×木皿陽平×冨田明宏に聞く、二次元アイドルコンテンツの現在と新プロジェクト『IDOL舞SHOW』の展望)の時点ではメンバーはまだ選考途中で、「工藤さんに委ねたり自分からも意見させていただいて進めています」ということでしたが。

工藤:キャストは私のほうで決めたので、木皿さんは初めましての方が多かったんですよね。

木皿:そうですね。工藤さんに決めてもらったほうが、逆に新しくて面白いかなと思ってお任せしたんです。知っている人は何人かいましたけど、歌がうまいかどうかを含めて探ったのが1stシングルでした。楽曲に関しては、ちょっとモヤッとした若者の感情を反映させた曲調を意識して、メロディもちょっとマイナー調のメロウな感じにしました。

ーーNO PRINCESSの『Truth or Dare』についてはいかがですか?

斎藤:最初にまずダンスユニットですよということを工藤さんからお伺いしていて。ダンスユニットも昨今いろいろありますが、工藤さんからいただいたNO PRINCESSのイメージの中にアーティストの例として「SPEED」とか、わりと懐かしいキーワードがいくつかあったんです。それで制作を進めていくうちに、今のバリバリ最先端なものよりもちょっと懐かしめの方向がいいのかなという気がして、90年代のJ-POPメロディをイメージしつつ、でもサウンドは現代的なものという意識で作りました。

三日月眼

ーー三日月眼の『FANATIC!』はいかがでしょう?

冨田:工藤さんからいただいていたお題に、王道アイドルというテーマがひとつあって。世代によってアイドルの王道って千差万別あると思いますが、おそらくもっともアイドル業界の中で長く続いているであろうハロプロ(ハロー!プロジェクト)系と、声優さんたちが歌うことを考えてキャラソン感みたいなものをあわせてみようかなと考えました。三日月眼の場合、木戸衣吹さんと中島由貴さんは若いけどキャリアもあり、岡咲美保さんは声優さんとしてのキャリアは当然あるけどそこまでソロで歌ってらっしゃる印象はなかったんですね。ただ、3人ともすごく技術はあるし、偶然にもみんな年齢がほぼ一緒。そういう部分が曲の勢いに付与するかもしれないと考え、歌い分けもだいぶ意識しました。ソロパートがたくさんあって、表現が裸にならないとうまくないと成立しないところがあるので、そのへんは3人にも「頑張ってね」と結構言った気がします。

工藤:一方で、X-UCは10人の迫力が段違いですよね。ステージに登場したときの「キター!」感は大きいですし。

木皿:数の暴力ですよね(笑)。豊洲PITのときは残念ながら8人での出演でしたけど、それでも感じましたから。

冨田:それに対して、3人組の三日月眼と4人組のNO PRINCESSは「私が行く!」「次は私が行く!」と、アクロバティックに入れ替わっていく。そのへんの違いは面白かったなと思います。

X-UC

ーーNO PRINCESSは、特にダンスが大きな武器ですよね。

工藤:そうですね。リハーサルのときもNO PRINCESSの4人はずっと練習していて、休憩中も練習するほどストイックで、撮影の合間もみんなイヤホンで曲を聴きながら振りの確認をしていて、お互いで相談しあったりとかしているし。曲と振り付けのイメージにぴったり合っている、奇跡の4人ですね。

斎藤:本当に一生懸命ですよね。確かにストイックというイメージは僕にもあります。

冨田:実は、3ユニットそれぞれ振付師さんが違うんですよ。その振付師さん同士のバトルもありますよね。

工藤:プロデューサーの3人は特に負けたくないとは思っていないみたいですが(笑)、振付師さんたちが一番負けたくないと思っていて。「ほかのユニットはもうまとまっているの? 負けたくないんだけど!」って意識してますから。

冨田:アイドルは対バンイベントがすごく多いじゃないですか。その雰囲気に似ていますよね。女の子たちも自然とそういう環境に置かれると、「負けたくない」という意識が芽生えるのかもしれませんし。

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