決意を奏でるスフィアン・スティーヴンス、名盤の風格感じるデラドゥーリアン……時代を歌うシンガーソングライターの注目作5選

Yves Jarvis『Sundry Rock Song Stock』

Yves Jarvis『Sundry Rock Song Stock』

 10代の頃から路上で歌い、アン・ブロンド名義で音楽活動を始めたカナダのシンガーソングライター、イヴ・ジャーヴィス。今回のアルバムを制作するにあたって、ジャーヴィスは屋外に仮設スタジオを作り、そこに楽器を持ち込み、オープンリール式のアナログテープでレコーディングを行った。楽器の音色だけではなく環境音や空気感も曲に取り込むというレコーディングのアプローチは、敬愛するサン・ラからの影響だとか。歌声と同じくらい、時にはそれ以上にサウンドや音響にこだわってきたジャーヴィス。その特徴のひとつである、歪んだローファイな音が生み出す、サイケデリックな感触は本作でも健在。だが、前作に比べるとシンプルにまとめられており、浮遊するようなメロディや繊細な歌声がより際立っている。フォーク、R&B、プログレ、現代音楽など様々な要素が、ジャーヴィスというフィルターを通してシンプルな形へと結晶化した歌は、不思議な安らぎを感じさせる。

Yves Jarvis - "For Props" (Lyric Video)

Daniel Romano『How Ill Thy World Is Ordered』

Daniel Romano『How Ill Thy World Is Ordered』

 ダニエル・ロマーノもジャーヴィスと同じくカナダ出身のシンガーソングライター。ポラリス音楽賞を受賞したほか、ジュノー賞にノミネートされるなど、カナダのインディーシーンでは知られた存在だ。コロナで音楽活動が困難ななか、そんな状況に立ち向かうように今年アルバムやEPを立て続けに9作もリリースしてファンを驚かせ、本作は記念すべき10作目となる。これまで作品ごとにスタイルを変えてきたが、本作はホーンセクションやコーラスを加えた分厚いバンドサウンドで聞かせる爽快なロックンロール。人懐っこいメロディに天性のポップセンスが光っている。70年代ロックのグラマラスさをモダンに昇華しているところはFoxygenやThe Lemon Twigsあたりに通じるところもあるが、得意のカントリーロックのテイストも曲に豊かな味わいを与えている。コロナに負けない、という気合いが伝わってくるステイホームの強い味方。

Daniel Romano's Outfit - A Rat Without A Tale [OFFICIAL] 2020
RealSound_ReleaseCuration@Yasuo Murao20201004

■村尾泰郎
音楽/映画ライター。ロックと映画を中心に『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』『CDジャーナル』『CINRA』などに執筆中。『ラ・ラ・ランド』『グリーン・ブック』『君の名前で僕を呼んで』など映画のパンフレットにも数多く寄稿する。監修/執筆を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)がある。

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