『SKY-HI’s THE BEST』インタビュー

SKY-HIが語る、アーティストとしての充実と渇望の日々 インディーズ~現在、新事務所&レーベル設立の舞台裏も

渇望や悩みもかなりあった『OLIVE』〜『JAPRISON』期

ーー『カタルシス』はオリコンチャート5位を記録。2016年の夏には大型ロックフェスに出演するなど、SKY-HIの存在感が幅広く浸透しました。そういう意味でもターニングポイントになった作品ですよね。

SKY-HI:ある程度の評価を得られたのは良かったと思います。ただ、クリエイションに関しても力を付けられたと思うけど、今度はボーカルの甘さが気になって。「カミツレベルベット 2020」「アイリスライト 2020」「Seaside Bound」もそうですけど、ベストに入れた曲はほとんどボーカルを録り直してるんですよ。「ここのラップが気になるな」という箇所も多いし。それ以外はいいアルバムだと思います(笑)。こういう構築性のあるアルバムをもう一度作る必要があると思ってるんですけど、なかなか難しいですね。

ーーそして2017年1月に3rdアルバム『OLIVE』を発表。ベストアルバムには「ナナイロホリデー」「Double Down」「十七歳」「Walking on Water」「クロノグラフ」などが入っていますが、全体を通し、ポジティブなメッセージが感じられる作品です。

SKY-HI:良いメンタルですよね、アルバム自体は。「スマイルドロップ」以降、“がんばったら何とかなる”ということが身に染みていて。「このクオリティでは物足りない。もっと先にいける、もっと良くなる」と繰り返してきたし、その成果は出ていると思います。そのぶん、ちょっと善性が強すぎる気がしますけどね。「Walking on Water」のようなエッジのある曲をもう少し膨らませたほうが良かったし、あとはボーカルプロダクションですね。喉の手術をした直後のアルバムなんですけど、それにしてももうちょっと上手く歌ってほしい(笑)。

『OLIVE』

ーー本当に満足しないですね(笑)。「Double Down」に代表される、“おまえら、手のひら返しやがって”という気分の曲もいいですよね。

SKY-HI:ボースティングというか、「Double Down」みたいな歌詞が書けたのもいいことですね、確かに。世の中の違和感みたいなものに対して、ちょっと強気に出てるというか。「Walking on Water」もそうだし、言行一致になってきてますね、このあたり。ただねぇ、やっぱり脇が甘い(笑)。惜しいんだよなあ。

ーークオリティと知名度が上がったことで、活動はやりやすくなった?

SKY-HI:それもあるけど、根っこは変わらないんですよ。ずっと渇望はついて回るし、それなりにイライラしてるし、悩みもあるので。『OLIVE』の善性の強さ、さらにポップスとしての強度を高めようする意思と同時に、渇望や悩みもかなりあったと思います。最初の武道館ライブ(2017年5月)のタイミングでもあったんですけど、「ちょっと待てよ」と心のなかのキムタクが(笑)。

ーー(笑)。当時の悩みの根本はどこだったんですか?

SKY-HI:うーん……。日本の芸能システムがこのまま変わらず、それに適応した楽曲を作る力が付いたとして、自分はその一部になるのかなと。ずっとモヤモヤしたものを感じていたし、目立つようになればなるほど、いろんなところから石が飛んできて。精神的には地獄でしたね。

ーーそこから抜ける方法やきっかけはなかった?

SKY-HI:ないです。だって、どうしようもないから。身近なスタッフや友達、THE SUPER FLYERS以外、信頼できる人はいなかったので。

ーーそのシリアスな思いは、2018年2月のアルバム『JAPRISON』にも反映されている?

SKY-HI:『OLIVE』から『JAPRISON』の流れを言語化すれば、そういうことになるでしょうね。

ーーなるほど。サウンドメイク、プロデュースワークについてはどうですか? 斎藤宏介さん(UNISON SQUARE GARDEN)、starRoさん、UTAさん、SUNNY BOYさんから亀田誠治さん、蔦谷好位置さんまで、幅広いジャンルのクリエイターが参加しながらも、これまでのキャリアのなかでも、もっとも海外のヒップホップと親和性の高い作品だと思いますが。

SKY-HI:うん、そうですね。クリエイションについては、何も言うことがないと思います。あるとすれば、アルバムの構築性かな。伝えたいことと、伝え方のバランスみたいなものが、『カタルシス』ほどのレベルには達してない気がするので。『JAPRISON』の制作の時期は、どうしても自分の主観がブレざるを得なかったし、そこは惜しいところですね。ただ、『JAPRISON』のツアーはすごく良くて。ライブショーとして完璧だったというか、満足してますね。振り返ってみると、ツアーは全部、納得できてるかな。アルバムにはずっとダメ出ししてますけど(笑)、ツアーの映像は見直してみても「最高だな」と思えるので。

『JAPRISON』

ーーライブが唯一の救いの場所だった?

SKY-HI:そうですね。まあ、すべては繋がっているから、いいツアーをやった後は「ライブパフォーマンスの良さを制作に表し切れてない」と思っちゃうんだけど(笑)。それはたぶん、これまでのインタビューでも言ってたんじゃないかな。

ーーいい曲が多いですけどね、『JAPRISON』も。ベストアルバムに入っている曲だと「New Verse」「Marble」「Persona」とか。

SKY-HI:確かに(笑)。最近の曲もみんな好きなんですよ。「そこにいた」も「Sky's The Limit」も「#Homesession」も「Sexual Healing」も。そう考えると、早くアルバムを出したほうがいいのかも。でも、ベストアルバムに入れちゃいましたからね。まとめました、これまでの活動をすべて。

マネージメント&レーベル会社設立の背景

ーーベストアルバムでキャリアを総括したことで、何か気づいたことはありますか?

SKY-HI:ずっと冷静になれる状況ではなかったな、と思いましたね。心身ともにあまりにも忙しすぎた。本当は心身のどっちかに余裕を持って、クリエイションに身を投じる必要があったんじゃないかなと。

ーー楽曲自体はどうですか? リマスタリングを施して、サウンドメイクも更新したことで、満足度は増したと思うのですが。

SKY-HI:うん、それはすごくあります。この前、YouTubeでベストの収録曲を流しながらホームパーティー(8月21日に配信された「SKY-HI's THE BEST 全曲試聴ホームパーティー!」)をやったんですよ。しゃべりながら聴いて、曲は途中で切ってたんですけど、それでも「いいな」って思って。いままでは昔の曲を聴くのが恥ずかしかったんですけど、リマスタリングしたことで、それもなくなったし。

ーー自身の成長も感じたり?

SKY-HI:それもあるんですけど、成長が見えるのって微妙ですよね。早い段階で完成されてるアーティストだったら、昔の曲を聴いてもそんなに恥ずかしくないと思うんですよ。自分の場合はそうじゃなくて、成長曲線がしっかりあるので、だいぶ恥ずかしい(笑)。そのぶん、得たものはいろいろありますけど。傾向と対策というか、自分が抱えている問題点がすごく見えたり。若いアーティストに相談されたときも、たいていのことは「あーなるほど」と共感できるというか、当事者にしかわからない葛藤があるということも含めて想像することは出来るから、どんなことで悩んでても小さい悩みだと思わないしちゃんと話を聞きたいと思えます。完璧な人のコンプレックスもそうだし、不完全だと自覚してしまっている人の弱さもそうだし。それがわかるのは、自分自身があがきながらやってきたからだと思います。「よくがんばってきたな」と思うし、客観的に見ても好きなアーティストですね。

ーーヒップホップを軸にしながら、メジャーシーンでこれだけリリースを続けているアーティストもいないのでは?

SKY-HI:そんなことないですよ。クレさん(KREVA)とか、ずっとやってるわけだし。まあ、確かに特殊かもしれないですね、自分は。ここまで帰属する場所がないアーティストは滅多にいないと思うし、ただ、もうそういう人が出てきてほしくないなって。この孤独感はなかなか辛いものがあるので。

ーーシーンに属さず、基本的に個人で戦ってきたというか。

SKY-HI:そうかも。圧倒的な個人主義は、ものすごく優しい力になり得ることもわかりましたね。集団でいると、必ず周りの意見に影響されると思うんだけど、自分はそうじゃないから物事や人に対してシンプルに向き合える。それは信じてるものがないとも言えるし、同時にいろんなものを信じていることと同義な気もして。そういう体験を重ねると、人に優しくなれるんですよ、ブルーハーツばりに(笑)。

ーー(笑)。今回のベストアルバムが一つのピリオドだとしたら、その先の展開はどうなりそうですか?

SKY-HI:まず9月26日に千葉の実家から『実家ワンマン』をやります。その後は、3年以上前から考えていたことがあって、引き続きそこに向けて動く感じですね。マネージメントとレーベルを設立するんですよ。エイベックスとも非常に前向きな関係でして、どっちかっていうと、HIROさんがLDHを作ったことに近いかもしれない。将来有望な若手も「一緒にやりたい」と言ってくれてるので、そのことも一緒に発表しようと思ってます。あと、ボーイズグループを作ろうと思っていて、2021年からオーディションをはじめようかなと。いろいろあるんですけど、何が困るって、マジで銀行が渋いんですよ、いま。

ーー起業家の話ですね、それ(笑)。レーベルを立ち上げた、一番大きい理由は?

SKY-HI:価値観の創生ですね。今日の日本の音楽業界の課題もあるんですけど、いま状況というのは、韓国はおろか、東アジアの様々な国に後れを取りつつあって。Awichとかが風向きを変えつつありますけど、東アジアの音楽にこれだけ世界的な注目が集まっているなか、日本だけが駆逐されるんじゃないかという危機感があって。言葉を選ばずに言えば、今、日本のアーティストの音楽を聴くメリットということは、日本語が聴けること以外、何もないような気がして…...そこまで行くと極端すぎる言説だけど(笑)。

ーーなるほど。

SKY-HI:従来のやり方を否定しているわけではなくて、理解している部分もあるんだけど、20年くらい前から続いているものを塗り替えるのは無理だなと。であれば、まったく新しいものを作るしかないし、そのほうが可能性が高いと思うんですよね。そのための身体と心の準備が出来たので、やるしかないなと。カテゴライズやジャンルでマーケットを決めるのはナンセンスだし、さっきも言ったように、自分が苦しんでいたことを若い世代のアーティストに味わってほしくないので。「居場所がないなら、作っちゃえばいいじゃない」っていう、マリー・アントワネットばりのスタンスですね(笑)。

ーー素晴らしい。もちろんSKY-HIも継続なんですよね?

SKY-HI:継続どころか、秋口には新曲を出そうと思ってますし、客演のオファーも面白い話しが来ているので。絶好調です。

『SKY-HI’s THE BEST -RAP BEST-』
『SKY-HI’s THE BEST -POPS BEST』
『SKY-HI’s THE BEST -COLLABORATION BEST』

■リリース情報
SKY-HI『SKY-HI’s THE BEST』
9月23日(水)発売
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※期間限定スペシャルプライス 各¥900(tax in) 
SKY-HI’s THE BEST -POPS BEST-
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