『青嵐のあとで』『Evergreen』インタビュー

sajou no hanaに聞く、三者三様な感性から生まれるアニソンの核 『ダンまち』『超電磁砲』ED曲制作を振り返る

野球でたとえるなら僕はイチロー、キタニくんは松井秀喜(渡辺)

――お互いのミュージシャンとしての魅力についてはどう感じていますか? 

渡辺:キタニくんについて思うのは、sajou no hanaという器に収まりきらないほど凄い人だと思ってる、ということですね。作家としては、僕とは全然違うタイプの人だと思っていて、勝手なイメージですけど、自分をしっかり出すタイプの人で。

――確かに、アーティスト的な意識の強い人、というイメージかもしれません。

キタニ:僕自身もそう思います。僕は作家業もしていましたけど、途中でどんどん脱落していった人間なので。一方で、渡辺翔という人は冷酷なメロディマシーンで――。

渡辺:(笑)。

キタニ:それに対する「すごいな!!」という気持ちが、やっぱりあります。100発100中でいいメロディを書くのって本当に難しいことですけど、それを実際にやっている人が目の前にいると、「すげえなぁ……」って。

渡辺:僕はたぶん、野球でたとえるならイチローのように、とにかく出塁するのが得意なタイプだと思うんです。一方で、キタニくんは――。

キタニ:松井秀喜ですか?(笑)。

渡辺:そう(笑)。僕からすると、「そんな飛距離出ないわ!」って思う存在です。なので、僕は僕で羨ましい部分を感じますね。

sana:翔さんの曲はメロディが難しくて、最初に曲が来た段階では「分からん……!」という感情になるんです(笑)。でも、そこから色んな過程を経ていくうちに、どんどんよさが分かってくるような感覚があって。一方でキタニさんの曲は、仮歌を入れてくれているデモの段階から、「いい!」となるような、直球の分かりやすさがあるような気がします。そんなふうに、色んなタイプの曲を歌うことができるので、毎回挑戦だなって思います。

sanaさんは純粋に歌が上手いのにどんどん進化している(キタニ)

sana

――では逆に、渡辺さんとキタニさんが思うsanaさんの歌の魅力と言いますと?

渡辺:今は、大きく言って2つの魅力を感じます。ひとつはsanaちゃんがsajou no hanaに入ってから出てきた、もともとのものよりも優しい歌い方で、もうひとつは初期の頃のような、感情をストレートに伝える、ソウルフルで歌に圧があるような歌い方で。

――最近の「青嵐のあとで」を聴かせていただくと、その2つの魅力がひとつの曲の中に混在していて、よりすごいものになっているようにも感じます。

キタニ:おっしゃる通りで、sanaさんはそもそも純粋に歌が上手いのに、そのうえどんどん進化している人でもあるので、たとえばメロディを書いていても、「sanaさんならもっといけちゃうかな」と、歌い手の歌いやすさを考えずに書けてしまうんです。純粋にメロディとしていいものを書けば、それをしっかり歌ってくれる人がいるのは本当に助かります。

渡辺:僕も、決して忘れていたわけではないんですけど、作家業では無意識のうちに「ここら辺で止めておこう」「キーはこの方が歌いやすい」「メロディはいいけれど、これだと上手く表現できなくて結果的にいい曲にならないんじゃないか」と、色々と考えてしまうようなことがあったんです。でも、sajou no hanaではそこから解かれたような感覚があります。

――リミッターを外してくれる存在なんですね。難しいメロディになるはずです(笑)。

渡辺:(笑)。「これでもいけるんじゃないかな」という感じでつくれば、それをしっかり歌ってくれるというか。別に難しい歌が好きというわけではないんですけど、sajou no hanaでは僕もそうやって自由にやってみた結果、難しい曲が多くなった、という感じです。

――では、いくつか具体的に楽曲の制作過程についても聞かせてください。今年8月にリリースされた『とある科学の超電磁砲T』の後期EDテーマ「青嵐のあとで」は、これまでのsajou no hanaの楽曲とは大きく雰囲気が違う、爽やかな王道感を感じる曲でした。

キタニ:以前EDテーマとして「Parole」を提供した『とある科学の一方通行』のときは、作品の雰囲気もシリアスで、これまでのsajou no hanaの雰囲気をそのまま出せばよかったんですけど、この作品の場合は、同じ世界にはあるけれど、登場人物たちはシリアスにバトルだけをするわけではないし、能力がない友人との人間関係にもクローズアップする部分がある作品で。だからこそ、人肌の温かみが感じられるものを書かないと、「作品にも合わないし、sajou no hanaとしても成長できない」「バンドとしてひとつ踏み出していかないといけない」と思っていました。それで、思いきり「ド直球の明るい曲を書いてみよう」と思って、僕からデモを投げたんです。「こんな感じになりましたけど、どうですか?」と。

sana:そうですね。それを聴いて、「新しいな」と思いました。

渡辺:もちろん、楽曲のテーマを考えると「爽やかな曲がくるだろうな」とは思っていたし、いつかはそういう曲をやる機会もあるだろうと思っていたんですけど、かなり振り切っていたので、最初は「おお!」という印象で。世間的にはめちゃくちゃ明るいというわけではないとは思いますけど、僕らの曲の中ではかなり明るい雰囲気の曲になりました。

――作品との相乗効果でこれまでになかった新しい側面が引き出されていくのは、アニメのタイアップ曲ならではですね。タイアップ作品と、自分たちの作家性とのバランスについては、みなさんの場合はどんなふうに考えているんでしょう?

キタニ:個人的には、タイアップ作品だからと言って作品に寄り添いすぎるのは、あまりいいことだとは思っていなくて、作品の魅力を伝えると同時に、自分たちのワークスとしてもいいもの/やりたいものでもあることが大切だと思っています。なので、その割合としては半々ぐらいが理想なのかな、と思います。

渡辺:作家としての提供曲で、なおかつタイアップ曲の場合は、作品ありき/アーティストさんのストーリーありきの楽曲を書くわけですが、sajou no hanaの場合は、歌詞に自分自身のことが反映されていたりもするので、アニメの魅力と、僕らのパーソナルなものが2つとも立つような形にしたいと思っています。sajou no hanaの曲は、それが余計に明確なのかな、と。アニメだけを観ている人が「こういう歌詞なんだな」と感じることと、僕らのことを踏まえて感じられる意味とが、角度を変えると絵柄が変わるホログラムのようにひとつになっていたらいいな、と思っていますね。

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