RADWIMPSの楽曲が連想させる“夏” 「夏のせい」や「セプテンバーさん」から野田洋次郎の視座を読み解く

 RADWIMPSが9月2日に『夏のせい ep』をリリースした。表題曲「夏のせい」は8月26日放送の『2020 FNS歌謡祭 夏』や9月4日放送の『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)でも披露され、夏夜を優しく彩った。作詞作曲を担当する野田洋次郎(Vo/Gt/Pf)は「僕ら、季節をテーマにした曲ってそんなになくて」とコメントしていたが、夏を連想させる楽曲はいくつかある。本稿ではRADWIMPSが描いてきた“夏”に焦点を当て、野田洋次郎の夏に対しての視座を読み解いていきたい。

RADWIMPS『夏のせい ep』

 様々な題材を通じ、未知の語彙で織り成す描写で驚きの着地点へと物語を運ぶのが野田の書く歌詞の魅力だ。夏という普遍的なモチーフと対峙し、その高揚感を独自の言葉遣いで言語化した「夏のせい」。この曲は夏にまつわる断片的なやり取りやシーンを積み重ねつつ、〈夏のせいにして 僕らどこへ行こう〉のフレーズを随所に巡らせて螺旋階段のように気分を昂らせていく。描写に連動して壮大に移ろっていくアレンジも巧みだ。

夏のせい RADWIMPS MV

 幼少期から青春期にかけて夏は開放的な季節として、どこまでも続く永遠を思わせる時間として我々の記憶の中に刻まれていく。詞の筆致や緻密な編曲が夏の空気を想起させていくのはもちろんだが、野田の伸びやかな歌声そのものが無限に広がった夏めく世界の姿を創出する。「夏のせい」は何でも出来てしまいそうだったあの夏を眼前に立ち上げ、何かが起こりそうな高揚感を劇的に活写したのだ。

 新海誠監督の映画に提供した楽曲にも夏を描いた曲が多い。昨年公開の『天気の子』の主題歌「グランドエスケープ feat.三浦透子」は、現在地からどこか遠くへと逃避行していく様を夏のイメージを引き連れながら描き出した。夏空が銀河へと突き抜けゆく絶景を想起させ、至上の興奮をもたらしてくれる。2016年の大ヒット映画『君の名は。』の終盤で流れる「スパークル」は、歌詞中に〈八月のある朝〉が示される。君と僕の強い結びを多次元的な場面展開で歌い上げる大曲だ。そこに通奏する夏のムードは楽曲の雄大さとも呼応する。この歌のスケールを映し出すのには、夏という季節がうってつけだ。

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 「夏のせい」とこの2曲は共通して1000年単位での悠久なる時流についての言及がある。永遠にも思える時間軸の中、今しかない瞬間、ここしかない刹那を捉えた曲だ。〈「行け」と言う〉という言葉を機に眩いエンディングに突入する「グランドエスケープ」、ギリギリの世界で〈生きて抜いていこう〉と誓う「スパークル」。この2曲も不可能が可能になるその予兆、「夏のせい」にも描かれたような“奇跡の一歩手前”が美しく結晶化されているのだ。

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