デュア・リパ『クラブ・フューチャー・ノスタルジア』は世界のポップミュージックの俯瞰図に 星野源ら参加の経緯と魅力に迫る
さて、今回発表されたのは、その『Future Nostalgia』をリミックスした『Club Future Nostalgia』である。本作にはマドンナ、ミッシー・エリオット、グウェン・ステファニー、マーク・ロンソン、BLACKPINKといった錚々たる面々が名を連ね、唯一の日本人アーティストとして星野源もリミックスで参加している。原作の懐かしいダンスビートをクラブ仕様に再構築した本作には、まるで古今東西のダンス・ミュージックを一度に追体験したかのような不思議な気分にさせられる。
星野の参加は、今年の2月頃、デュア・リパの本国制作チームが直接オファーし彼が快諾したことで実現したのだという。THE FACEのインタビューによれば、
「デュアのリミックスを手掛けている際は、何日も何時間も毎日PCの前で作業をしていて、それこそ寝ないでご飯を食べるのも惜しんでやっていたのに、辛い瞬間が一度もなかった」
と話している。こうしたコメントからも、彼が非常に熱心にこの企画に取り組んでいることがうかがえる。参加したのは「Good In Bed」のリミックス。この曲を選んだのは星野自身なのだとか。原曲について彼はこう述べている。
「(原曲の「Good In Bed」について)原曲を聞いた時にリミックスのアイデアがババっと浮かんだ。80年代前半のソウルミュージックのエッセンスと、80年代前半のストレンジな電子音楽のイメージが浮かんで、それらとデュアの現在性を全部混ぜちゃえって思ったんだ」
こうした方向性の通り、彼がリミックスした「Good In Bed (Gen Hoshino Remix)」は、原曲のビンテージな質感を持ったクラシックなピアノが小刻みに明滅していたり、初期の電子音楽を彷彿とさせる可愛らしいアナログシンセ音が背後に加えられていたりなど、現代的な手触りの中にもレトロフューチャーな魅力が詰まったものになっている。そして、どことなくエキゾチックな雰囲気があるのもポイントだ。原曲にはないこの独特の異国感〜東洋色こそ彼のリミックスによる最大の恩恵だろう。こうしたグローバルな企画に彼が参加した意義をサウンド的にも感じ取れる。
思い返せば、自粛期間中の日本で最も強い存在感を放ったアーティストが星野源であった。人びとを楽しませた「うちで踊ろう」のムーブメントの火付け役である彼が、同じようにステイホーム期間中に世界を賑わせた彼女の企画に参加したのも、ある意味必然なのかもしれない。
本作の全体を見渡せば、マドンナとミッシー・エリオットが歌う「Levitating」の華々しさや、ぐっとテンポが落とされることで終盤への架け橋となる「Physical」でグウェン・ステファニーがなびかせる妖艶な歌声であったり、「Kiss and Make Up」で怪しくバックアップするBLACKPINK、そしてラストを締め括る「Break My Heart」においてデトロイトのレジェンド、ムーディーマンがまとめあげる洒脱なタッチなど、豪華な顔ぶれがそれぞれの個性を余すことなく発揮している。
デュア・リパの当プロジェクトによって、奇しくも世界のポップアイコンがゆるやかに繋がり、どことなく世界中が一致団結しているようでもある。そうした意味でも意義深い作品と言えるだろう。世界のポップミュージックシーンの俯瞰図として、間違いなく必聴の一作だ。
■作品情報
デュア・リパ『クラブ・フューチャー・ノスタルジア / Club Future Nostalgia』
2020年9月11日(金)配信リリース
ダウンロードはこちら