『ZIPANG弐nd』インタビュー

ピアニスト 堀江沙知率いるSANOVAが持つ、自由な発想と特異な視点 アルバム『ZIPANG弐nd』に込められた“二面性”を紐解く

「何事においても、いいところと悪いところを半分ずつ見ている」

――それで言うと「渋谷」はものすごい楽曲ですよね。ピアノソングという概念すら逸脱していますし、いろんな音を1つの箱のなかでごちゃ混ぜに料理したような感じで。最初に聴いた時にはすごく驚いたし斬新だなって思ったんですけど、この曲はどうやって生まれてきたんですか。

堀江:ほとんど楽器のソロ合戦みたいになってる曲なんですけど、中学生・高校生の頃に友達と遊びに行っていた街が渋谷だったので、「遊びに行くんだったら渋谷」みたいなイメージからでき上がりました。ごちゃごちゃしている人混みとか、いろんな会話が耳に入ってきたりとか、渋谷のイメージを膨らませながら、通りを歩いているときのちょっとワクワクした感情が入っていると思います。

渋谷 Music Video -【SANOVA】

――これまでの流れでいうと、渋谷って現代社会の象徴みたいな過密都市でもあるので、そこに対してワクワクを見出しているのは意外でした。

堀江:雑多でごちゃごちゃしている街だけど、そこに遊びに行く感じというか......いい面と嫌な面が両方混ざってると思います。

――作品全体のメッセージ性も含めて、物事のいい側面と悪い側面、両方をちゃんと見なきゃ駄目だっていう考えを強くお持ちなんじゃないかと思うんですけど、いかがですか。

堀江:そう思います。映画(『癒しのこころみ~自分を好きになる方法~』)の挿入歌になった「幸せ」にもいろんな感覚があって、例えばよくも悪くも妥協する感覚が入っていたりとか。1曲の中にダークな部分と明るい部分がどっちもあると思います。

――もしかしたらその二面性が、さっきおっしゃっていた苦悩と解決にも繋がってくるのかもしれないですよね。「幸せ」っていうタイトルがついていても、すごく切ない旋律の楽曲になるのは堀江さんのソングライティングの個性だと思うんですけど、そういう部分が芽生えてくるのはどうしてだと思いますか。

堀江:ああ......難しいですけど、日々そういう考えで生活しているからかもしれないです。誰か人のことを見るときも、常にいいところと悪いところを半分ずつ見ている気がします。私生活でも、「今日これが嫌だったけど、これはよかった」っていうふうに考えていたりとか。映画を観ることが大好きなんですけど、友達と「ここは良かったけど、ここは悪かった」っていうのをいつも喋ったりするので、思考回路がそうなんだなって。

――そういうやって議論すること自体が楽しいってことでしょうか。

堀江:楽しい。でも、良い/悪いの感想で意見が分かれて、いつも友達と喧嘩になる気がしてますけど(笑)。

――ははははははは。

堀江:言われて思いましたけど、何を見ててもそうですね。お笑いも好きで、勝手な好みですけど、「コントのここが良くてここが悪い」っていうのはいつも言ってます。

ーーそれは物事の良し悪しを分析することで、自分の理想に近づけたいっていう感覚なんでしょうか。

堀江:そうかもしれない。何においても、常に自分にとってベストなものを探している感じはあります。映画だったら「自分が作るならこうしたい」って思いながら観ますし。自分が作った音楽に対しても「ここが良かったけどここが悪い」っていうのが常によぎるので、でき上がった音源を聴くと半分の悪い部分がずっと頭の中をぐるぐる回って、寝るときに毎回イライラする、みたいなことはありますね(笑)。

――今回のアルバムに対しても感じているんですか。

堀江:はい、毎回作るたびに思うので。マスタリングが済んだらとりあえず私の仕事は終わりなんですけど、そうなるとしばらく聴けなくなりますね。気になっちゃうから発売まで聴かないようにして、CDが発売したときにもう1回聴き直して「まあいっか」って客観視できるようになる(笑)。時間が空けば素直に反省して次に行こうっていう気持ちになれるんですけど、作った直後に聴いちゃうと、もう後悔がすさまじいので......。

――(笑)。でも、人生かけて最高の作品を作るために、悪い面にもしっかり向き合って次に活かしていこうっていう想いが根底にあるんですよね。

堀江:そうですね。有名な映画監督さんが「満足できる作品は一生作れない」って言ってたり、一流のミュージシャンも「満点のライブなんて今まで1回もない」って言ってたりするので、そういうものなのかなっていう気持ちもあるんですけど。でも、作れるはずだっていう期待もあるので、いつか100点満点の作品を生み出したいです。

――それこそ音楽や芸術に関しては、いい面も悪い面も見ることがいい方向に作用していくと思うんですけど、逆に日常生活の中で絶えず両面と向き合っていると、精神的に疲れてしまうこともあるじゃないですか。そこについては堀江さんはどうなんでしょう?

堀江:例えば世の中に悪いニュースが出てきたとしても、それって一面的な見方にすぎなくて、「本当はこうなんじゃないかな」っていろいろ思ったりするので。それをパッと見て怒るんじゃなくて、本当の裏側がわからないから怒らない、というのが多いかもしれないです。両方を見るから落ち着くというのはどうしてもあるかな。友達と会ってても、いい人すぎると怖いんですよね(笑)。逆に悪いところが見える方が安心します。

――確かにそれはわかる気がします。さっきの「渋谷」の話にしてもそうですけど、SANOVAの音楽は一面的に見える物事に、もうひとつの新しい見方を提示する作品になっていますよね。

堀江:ありがとうございます。渋谷って人との距離が近いですよね。ごみごみして嫌いな人も多いかもしれないですけど、人が喋ってる声や周囲の会話が目まぐるしく聞こえてくるのって、私は結構好きなんです。カフェとか行っても、あえて人の会話が聞こえるところに座って「この人どういう生活してるんだろう」とか考えたり(笑)。人を観察するのは好きですね。それが「渋谷」の1つのモチーフになっているので、「うるさくもあり面白い!」みたいな感じで、楽しんで聴いてもらえたらいいなって思います。

――そういうところからインスピレーションが湧いてくるのはとても面白いですね。今回、日本というテーマを通して、過去から現在、現在から未来というふうに時間軸が繋がってきたわけですけど、次に作りたいものへの展望も見えているんでしょうか。

堀江:歌ものにもっとチャレンジしていきたいなって思います。すでに『JAZZ-ON!』という企画で声優の方に2曲提供しているんですけど、これからもっとたくさんやりたいなって。

――それは楽しみです。ご自身で歌うこともあるんでしょうか。

堀江:いや、私は歌が上手くないので(笑)。もし歌が上手かったら、たぶん今ごろシンガーソングライターになってたと思うんですけど。曲作りを磨いてオーケストラとかも交えたりしてみたいと思っているので、いろんな形でSANOVAの音楽を広げていきたいなと思ってます。

JAZZ-ON!(ジャズオン!) 星屑旅団 - 「響鳴スペクトラム 星屑旅団JAZZアレンジバージョン」short ver.
JAZZ-ON!(ジャズオン!) SwingCATS - 「ふたりのバラード」short ver.
SANOVA『ZIPANG弐nd』

■リリース情報
SANOVA『ZIPANG弐nd』
2020年8月5日(水)リリース ¥2,300+税
配信・ダウンロードはこちら

<収録曲>
01 ZIPANG弐nd
02 背水の陣
03 京都
04 花火
05 AI再起動
06 モンスターのテーマ
07 幸せ
08 空知らぬ雪
09 渋谷
10 敵は本能寺にあり

■関連リンク
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