『ZIPANG弐nd』インタビュー

ピアニスト 堀江沙知率いるSANOVAが持つ、自由な発想と特異な視点 アルバム『ZIPANG弐nd』に込められた“二面性”を紐解く

 ほんの少し聴いただけで、全身を使って楽器を弾く躍動感溢れるサウンドの虜になった。SANOVAとはピアニスト・堀江沙知が率いるインストプロジェクトであり、ピアノを主軸にジャズ、ファンク、ハウス、ラテン、フュージョン、R&Bなど様々なサウンドを取り入れ、ジャンルの垣根を超えた音楽を奏でている。何よりの魅力は、演奏者の身体の動きが目に浮かぶほどダイナミックな演奏、そして四季折々の風景を彩るような情感豊かなメロディであろう。8月5日にリリースされたニューアルバム『ZIPANG弐nd』は、そんな自由な発想で楽曲を作り上げていくSANOVAの魅力を存分に楽しめる素晴らしい作品だ。と同時に、前作『ZIPANG』と地続きになるコンセプトや、世の中にアンチテーゼを唱えるような隠れたメッセージも盛り込まれているなど、聴き込むほどに味わい深い作品に仕上がっている。SANOVAの音楽の核を紐解くべく、堀江と語り合った。(編集部)

SANOVA 5th Album『ZIPANG 弐nd』全曲ダイジェスト映像

「ピアノってこんなふうに演奏していいんだと思った」

――新作『ZIPANG弐nd』を聴いて、ピアノのダイナミックな側面と静かで美しい側面、両方を器用に使い分けて表情豊かな楽曲を書かれる方だと感じたんですが、堀江さん自身はSANOVAの音楽をどのように捉えていますか。

堀江沙知(以下、堀江):キャッチーでちょっと複雑なサウンドを取り入れた“和製ジャズ”とよく言われるんですけど、自分ではあまり意識していなくて。今は型に捉われず、いろいろな音に挑戦したいなと思ってます。

――堀江さんは以前、ミシェル・カミロや林正樹の音楽をルーツに挙げていましたけど、そもそも音楽とはどのように出会っていったんですか。

堀江:生まれたときに母親がピアノを買ってくれていたので、幼い頃からずっとピアノは演奏していました。映画音楽が好きでよく聴いていて、大学入る前くらいにミシェル・カミロさんの音楽と出会って衝撃を受けました。ミシェル・カミロさんって丁寧に言うとラテン音楽の方向性なんですけど、その時はジャズだと思い込んでいたので、それをきっかけにジャズを勉強し始めてのめり込んでいって。ジャズ研に入っていろいろ学んでいく過程で、今度はファンクとかラテンとかフュージョンとかのジャンルも好きになっていったので、結構ごちゃ混ぜではあります。

――そのジャンル分けできないごちゃ混ぜ感こそがSANOVAの魅力になってると思うんですけど、プロジェクトとして始動しようと思ったのはどんなきっかけがあったんですか。

堀江:林正樹さんのライブを観てからローディーをやるようになったんですけど、その過程で「オリジナル曲を作ったほうがいいよ」って言われて作り始めたのがきっかけです。最初は自分の曲を世に広めようとか思ってなくて趣味で作っていたんですけど、こじんまりしたライブをちょこちょこやっていたら、レコード会社の人がライブを観に来てくれるようになって。プロジェクトとしてやっていかないかというお話をいただいて、そこからデビューと同時にSANOVAが生まれました。

――SANOVA以前は堀江さんの名義で活動されてたと思うんですが、当時はどういう音楽性だったんですか。

堀江:SANOVAの1stアルバム(『Cloud9』)の曲が多かったかな。きっかけがミシェル・カミロさんとか林さんの宴[u-ta-ge]っていうピアノトリオバンドだったので、私も自然とピアノトリオをやりたいっていう気持ちがあったので。

SANOVA 『Cloud9』 PV 「Graceful Day」〜「Lady Luck」〜「Cloud 9」

――なるほど。そもそもそういった音楽にグッときたのはどうしてだったんでしょう?

堀江:ミシェル・カミロさんのライブを観たとき、あんなに楽しそうにピアノを演奏している人を初めて観たんです。遊んでいるようにプレイする姿や、みんなが笑い合ってお喋りするかのように弾いているのがすごく衝撃的で。ピアノってこんなふうに演奏していいんだなって思いました。

 林正樹さんとご一緒したのは、もともと岩瀬立飛さんのローディーの方が友達で、「立飛さんのローディーを見学に行かないか」って誘われたのがきっかけだったんですけど、そのときに観たのが、林正樹さん、箭島裕治さん、岩瀬立飛さんによる宴[u-ta-ge]のライブだったんです。演奏してるのにちょっと笑わせちゃうみたいなライブで、ちょっとコミックバンドみたいな感じだったんですけど、「意味がわからないけど何かすごい!」と思って、すぐその場で「弟子にしてください」って言いました。それでローディーをさせていただくことになって、それぞれのプレイのすごさというか、シンバル一発で泣けるような音を出すことの美しさとか、聴いたことのないフレーズが出てくる凄まじさをどんどん思い知っていきました。でも、全体の音としてはすごくハッピーで、ライブに行くのが幸せっていう気分になったので、自分もそういう音楽ができたらいいなと思いましたね。

ーー今のお話を聞いていると、堀江さんが求める音楽の理想形は、楽しさを体現するものなんでしょうか。

堀江:そうですね。音を聴いてすごくハッピーになるもの。だから自分のライブを観たり音楽を聴いてもらった人には、幸せになってほしいっていう気持ちはあります。

SANOVA『東海道メガロポリス』Music Video Full Ver.

「中盤までに苦悩があって、後半で乗り越えるような展開」

――先ほどごちゃ混ぜという言葉も出ましたけど、SANOVAの音楽にはジャズの要素だけじゃなく、何か情景を喚起させるような、美しくてノスタルジックなメロディもふんだんに入っていますよね。

堀江:林さんのライブを観ていると自分が別世界に行ったような気がして、景色が移り変わる感覚あったので、もしかしたら影響を受けているのかもしれないです。いつも歩く道でも、自分の曲を聴いたら何か違う世界に見えるように意識したりとか。あと、曲を作るときは今思っていることをそのまま音楽にしている感じなので、日記をつけるような感覚に近いです。録音ボタンを押してすぐ弾いて、そのまま曲になることも多いから、ちょっと前に作った曲はもう作れないなって思います。

――日記とおっしゃいましたけど、日常で刺激になるものや心に留めておきたいと思うのはどういうものなんですか。

堀江:えー、なんだろう......以前は映画を見終わった瞬間とか、旅行から帰ってきた瞬間に曲作りたいと思ったり、出かけた帰り道に譜面をメモしたりしてましたけど、最近はそういう起伏がなくても、普段のまま曲にできる気がします。朝起きた瞬間とか、眠くて寝たいときに曲ができちゃったりとか。やっぱリラックスしてるときって作りやすいですね。お風呂入ってるときとか思いつきやすいし。

京都 Music Video -【SANOVA】

――失恋とか後悔とか、マイナスな出来事がある方が曲ができやすいっていう話もよく聞きますけど、堀江さんはむしろ逆なんでしょうか。

堀江:いやいや、そんなこともなくて。怒ってるときも結構できたりしますよ。「この野郎!」って思っているときに書いた曲もいっぱいあります(笑)。

――そうなんですね。今回のアルバムにもあるんでしょうか。

堀江:「モンスターのテーマ」はめちゃくちゃ怒ってるときに作りました。対象の人物をモンスターだと思ったら、すぐに「モンスターのテーマ」っていうタイトルが浮かんできて(笑)。

――(笑)。その「モンスターのテーマ」が特にそうだと思うんですけど、今作はタイトルのストレートさと曲のエネルギーがすごく強いですよね。『ZIPANG弐nd』という作品名からしても、前作『ZIPANG』との対比を意識されてるのかなと思ったんですけど、いかがですか。

堀江:コンセプトとしては、前作が過去から現在までの日本で、今作が現在から未来の日本という、ざっくりとした構想は作っています。もともとオリンピックをきっかけに、日本をテーマにした作品を作ろうと考えていて。日本の歴史や日本ならではの文化もすごく好きなので、ディレクターさんと話し合って日本をテーマにしようって決めました。

――例えばジャケット写真を見ると、前作は晴れやかでしたけど、今回はディストピア的な雰囲気が漂っていますよね。そういう不穏な空気感は「モンスターのテーマ」や「AI再起動」などの楽曲からも感じていたんですけど、どんな意図があったんでしょうか。

堀江:ジャケットに関しては、毎回描いてくださっているmochaさんにイメージを伝えて、あとは好きに描いてもらっていて。前作のとき、私がウユニ塩湖に行って演奏したことがあったので、それを描きたいってmochaさんが言ってくれたのと、作品のテーマをお伝えしてあのようなジャケットになったんですけど、今回は「闇と光を入れたい」っていうのを伝えて描いてもらったんですよね。

【絶景】ウユニ塩湖(ボリビア/Uyuni Salt Lake,Bolivia) - SANOVA(堀江沙知)ウユニ塩湖でピアノを弾く

――自分が『ZIPANG弐nd』を聴いて、まさに感じていたことが“闇と光”だったんですよ。もっと正確に言うと、“闇の中の一筋の光”というイメージだったんですけど、どうしてそれを思いついたんでしょうか。

堀江:伝わっていてすごく嬉しいです。一概には言えないんですけど、現代に生きる人や未来に向けた想いをテーマにしたかったのが大きいかもしれないですね。情報化社会というか、インターネットが発達しているなかでよくも悪くも感じていること、生きやすさと生きにくさみたいなものです。

――現代ではデジタルなデバイスを通してやり取りすることがほとんどですし、生々しさを感じられないコミュニケーションも多いですよね。でもSANOVAの音楽って、生々しさとか感情のぶつかり合いを大切にしていますし、淡白な情報化社会の流れに抗っているような印象も受けるんですけど、そう言われるといかがですか。

堀江:そこに直接結びつくかはわからないですけど、最近ってコロナ禍でネット配信のライブが増えたじゃないですか。オンライン上でコメントも読めるかもしれないけど、私はライブやるんだったらちゃんと自分の音楽を好きになってくれた人と対面したいっていう気持ちはありますね。やっぱり生の音は全然違いますし、いろんな理由があって配信ライブは控えています。

ーー「AI再起動」なんて、タイトルからしてデジタル社会への皮肉が強い1曲ですよね。

堀江:そうですね。今回はコロナの影響もあって、ドラムだけ顔を合わせて生で録ることができなかったんですけど、自分で打ち込みやシンセサイザー入れたりするのをチャレンジしてもいい曲かなと思って、やり出したら試行錯誤してるのが楽しくなった1曲でした。テクノとかクラブミュージックっぽい雰囲気をわりと取り入れていて、効果音も他の曲に比べると結構入ってます。後半に向けて、這い上がるような展開にしていたりとか。

ーー1曲のなかでの展開はかなりダイナミックでユニークだと思うんですけど、そこにはどういう意識があるんでしょうか。

堀江:1曲の中盤までに何かしらの苦悩があって、後半で乗り越えるような展開はよく考えているかもしれないです。光が見える展開を後半に置くようにしていて、楽曲を“解決する場所”みたいにするというか。それが本当に最後の最後に出てくる場合もあるし、全部ではないんですけどそういう曲が多いかもしれない。

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