KEIJU、表現者として力強く走り続ける決意 『T.A.T.O.』は自分自身の在り方を堂々と打ち出した作品に

 KEIJUが、7月29日に1stアルバム『T.A.T.O.』を発売した。

KEIJU『T.A.T.O.』

 遡ること2018年1月。KEIJUは、自身のメジャーディール契約を祝するイベントを開催したのだが、そこで披露された楽曲こそ、2019年2月発売の『heartbreak e.p.』収録曲「so sorry」や、今作でついに完成した「Remy Up feat. IO」のデモバージョンだった。また、2018年夏には自身のInstagramにて、プライベートでのドライブ映像にあわせて、同じく今作収録の「Play Fast feat. Gottz」のフックを公開したことも。『heartbreak e.p.』発売当時こそ、これらの楽曲も収録されるかと思われたが、その全貌はこれまで明かされぬままだった。

 というのも、KEIJUは2017年頃までの客演参加曲などで知名度を上げながらも、そのサウンドは自身の目指す方向性と異なり、理想とのギャップに思い悩んでいたという。また、その後に発売された『heartbreak e.p.』も、リスナーの心に重暗くもたれるような内容で、当時こそ彼はほとんどの楽曲ストックを捨て去り、前述した「Remy Up」などはもう日の目を浴びないまま終わることさえ多からず危惧されていた。

 そこから、精神面での紆余曲折や制作の中断を挟みながらも、周囲のサポートに後押しされて、『T.A.T.O.』は約4年の歳月を掛けてようやく完成を迎えた。つまり、同作はリリース時点ですでに、KEIJUやファンと長年を共に過ごしてきた作品といえる。

 そんな『T.A.T.O.』は、“Tiny Anthem, Tiny Oracle”(=小さな小さな讃歌、小さな小さな神のお告げ)を意味する造語で、自身の音楽がファンにとってのアンセムとなり、ポジティブなメッセージを届けたいという願いを込めたとのこと。実際に同作は、前作時に感じた“くたばっている感”を抜きながらも、シリアスな生き方を歌うタイトなラップに心打たれる一枚に仕上がっている。

 また、アルバムの共同プロデュースとミキシングを担当したThe Anticipation Illicit Tsuboiは、その全体像について「前作『heartbreak e.p.』から『T.A.T.O.』の最後の最後まで全部繋がってる」と解説(参照)。詳細は後述するが、作品を締めくくる「Remy Up」についても「ノリでセルフポーストするような部分を完全排除し1から自分と向き合い正直に表現することは簡単そうで一番難しい。1字たりと違う表現をしたら失敗する境地」と称賛を贈っていた(参照)。ちなみに今作では、KEIJUがまるで目の前に立っているかのように感じられるほど、粒度の高いボーカルの生々しさを感じられるが、この質感に優れたミキシングはIllicit Tsuboiの持つ技術の賜物といえる。

 そんな彼の評価通り、盟友のオカモトレイジ(OKAMOTO’S)をドラム演奏に迎えた2曲目「Blonde」や、ダンスホールレゲエ調の4曲目「Hold You Down feat. MUD」など、アルバム序盤ではボースティングを繰り出しながらも、曲を経るごとにその要素は徐々に姿を潜めていく。むしろ、この作品は先に進むにつれて、KEIJUが大切なものを失った過去に想いを馳せ、その上で表現者として力強く走り続ける決意を歌っていると気づけるのではないだろうか。

KEIJU – Bound For Glory (Official Video) / Album "T.A.T.O."

 なかでも、6曲目「Civility and Integrity」では、彼の根底にある孤独や死生観を前面に表現。同曲では、トラップビートを下支えに、上物にはアコースティックなサウンドをのせながら、けたたましい銃声が幾度となく響き渡り、その瞬間ごとに何かをリセットするような印象を与える。ありがちなトラップサウンドに収まらない、素朴ながらもインパクトを残す一曲だ。

 あわせて、同曲のリリックには〈増えてく物より減る物が愛おしい〉など、前作EP収録曲「get paid」に通ずるラインも。続く「Play Fast feat. Gottz」でも、彼の哲学といえる“やることをやるだけ”というひたむきな精神性が描かれていく。どちらの楽曲にも、『heartbreak e.p.』時代に特有だった“影”を感じられるが、その根底に横たわる死生観は、当時に比べて何倍にも希釈され、楽曲としての聴きやすさがますます保たれていた。

 そこから、今作のタイトルナンバー「T.A.T.O.」を経て、11曲目「Bound For Glory」に。同曲は、Charaの名曲「Junior Sweet」をサンプリングしたトラックの上で、ストリートに根ざし、愛する人への愛情、尊敬と感謝を歌う、彼の精神性が目一杯に詰まった内容だ。そんな栄光への高らかな“宣誓”を掲げるに相応しいこの楽曲には、DJ RYOWやNeetz(KANDYTOWN)といった、総勢4名の錚々たるトラックメイカーが参加。アルバムのピークタイムを飾る1曲として、確かな貫禄を感じさせる。

 それでも、続く「I Get Lonely」からは時間軸を巻き戻し、過去に失ったものを歌い上げていく。次曲「Remy Up feat. IO」でも、大切な友人と過ごした日々を叙情的に振り返っており、ギターの太めな音色も遠くから物悲しい雰囲気を運んでくるようだ(この友人とはきっと、YUSHIのことだろう)。KEIJUの歌声もシンガーとラッパーの間を歩くように、メランコリックなオーラを纏っている。

 また、「Remy Up」について、彼は冒頭で触れた2018年開催のイベントでの披露時に、まだリリックを書ききれておらず、いつか完成したらファンに改めて届けたいと語っていた。そんな彼にとって憧れの存在であり、同じKANDYTOWNのなかでもYUSHIへの想いが人一倍に強いIOが、当時のKEIJUが言葉にしきれなかった部分を埋めるべく自身のバースを捧げたと想像すると、聴き手の我々も感傷的な想いに浸らざるを得ない。この曲をもって『T.A.T.O.』はしめやかに幕を閉じる。

KEIJU – Remy Up feat. IO (Official Audio) / Album "T.A.T.O."

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