17歳とベルリンの壁、バンド像を刷新する挑戦のアティテュード 立体的な構築美と歌の存在感が光る『Abstract』を聴いて

17歳とベルリンの壁、バンド像を刷新する姿勢

 2つ目の変化は、『Abstract』ではシンセサイザーや打ち込みを大々的に導入したことだ。 シンセサイザー自体は予てから楽曲制作に導入してきたが、今作ほどシンセサイザーに比重を置いた制作は初めてだったという。

「音作りにはかなり苦戦しました。特にエレクトロやチルウェイブ的な要素を、サウンドだけでなくアレンジ面で落とし込むことが難しかったです。当たり前のことではあるんですけど、全てのサウンドをしっかり作り込みました。プリセットの音色をそのまま使ったり、他の曲で使用した音色の使い回しなどはしていません。同じフレーズを複数の音色でレコーディングして、ミックスの段階で最適な音色を取捨選択することで、より楽曲に合ったサウンドにできたと思います。ギターの音作りと仕組みや手法こそは違えど、心地良いサウンドを探求していくことは変わらないのでコツコツと進めていきました」

 「パラグライド」ではバンドアンサンブルによる疾走感やストレートなメロディに、 リズミカルなフレーズが加わることで楽曲に華が生まれる。一方「誰かがいた海」では、 断続的な電子音からシューゲイズギターへとバトンが渡されると、 まるで大きな波が覆いか被さるようなインパクトと、胸がぎゅうとなるような切なさが同時に訪れる。シンセサイザーが、楽曲にダイナズムとこれまでとはまた違った心地良い浮遊感を生み出すことで、簡潔なバンドアプローチにも立体的で壮大なサウンドスケープを実現した。

17歳とベルリンの壁 - 誰かがいた海 [MV]

 そして3つ目の変化が、TsurutaとEriko Takano(Vo&Ba)による“歌”だ。 元よりTsurutaとTakanoの無機質なツインボーカルは絶妙な相性で、SUPERCARにおける中村弘二とフルカワミキを彷彿とさせる。これまでポップなボーカルメロであっても、どこか淡々とした歌である印象が強かったが、今作では他楽器の細かなニュアンスが浮かび上がるのと同様に、歌声にも随所に色や感情が映るようになったと感じる。「十年」ではAメロからサビにかけて動きのあるボーカルメロディが採用され、Tsurutaの歌声は温かく穏やかに伸びる。彼の歌声の魅力を堪能できる1曲だ。

スーパーカー「Lucky」

「私個人としては意識を変えたつもりはなかったです。『十年』の歌入れ時はエンジニアの西村(曜)さんがものすごくこだわってくれました。自分ではいいテイクを出したなと思っても、西村さんからOKが出ないこともありました。後日メンバーから聞いたのですが、西村さんは“バンドとして新しい挑戦をしているのだから、高いクオリティにしなくてはいけない”とハードルを高く設定してくれていたみたいです」

 西村が言う通りバンドにとっては新しい挑戦であり、楽曲の構築が変われば歌の聴こえ方も変わる。その結果、2人の声はより“歌”としての存在感を発揮し、すべての楽曲の中心にしゃんと構えるようになった。メロディの盛り上がりやキャッチーなフレーズもさらに増えたことから、J-POPらしい印象も受ける。

 歌が大きくなれば、楽曲そのもののイメージも大きく変わってゆく。ここでキーとなるのが、Takuji Yoshida(Gt)のエモーショナルなギターと、Junichirou Miyazawa(Dr)の変幻自在かつ安定感を兼ね備えるドラミングの存在だ。この2人がバランサーとなることで、シューゲイザー・ドリームポップというジャンルを基軸としても、オルタナティブやエモ、ポップスといった幅広いジャンルを取り込みながら、1つのジャンルでは括ることができない音楽へと進化させることができたのだ。

 例えば、Galileo Galileiが大胆にエレクトロサウンドを取り入れた始めたきっかけとなる『PORTAL』をリリースした際、作品を通して自身の新しい可能性を見出し、バンドとしてのイメージや立ち位置、方向性までも大きく変動し、これまでとは違った形でメインストリームに躍り出ることになった。それと非常に近しい部分が今作には感じられる。 シューゲイザー・ドリームポップという1つのフィルターを通しながらも、よりポップに昇華することで、これまでの“17歳とベルリンの壁”というイメージを刷新し、自身の限りない可能性を提示する作品となった。最新形の17歳とベルリンの壁の「Abstract=あらすじ」を表すのだ。

Galileo Galilei「Imaginary Friends」

 17歳とベルリンの壁は、『Abstract』のリリース後の8月29日に渋谷O-nestでワンマン公演を予定している。ライブ活動を行うには厳しい状況が続く中、通常動員可能人数の5分の1程度の席数に限定して、万全の体制を取った上で行うとのことだ。万が一政府や東京都の方針が厳格化され、公演の開催が厳しいと判断された場合には、映像収録という形でワンマンライブを実施する予定だそうだ。

 17歳とベルリンの壁のライブでは、各楽曲にさまざまなアレンジが施され、音源とはまた違った魅力を味わうことができる。彼らのライブを待ち遠しく思うリスナーも多いだろう。 最後に、また以前のようにライブ活動が再開できる日を見据え、今後ライブにおいてやってみたいと思うことを尋ねてみた。

「5人や6人など、バンドの編成を増やして演奏してみたいです。例えば『Abstract』の曲ではコーラス、シンセサイザー、ギター、パーカッションなどが演奏できる方がいれば、またライブでも違った表現ができるかなと思っています」

17歳とベルリンの壁 - Oneman Live "Act" リハーサルドキュメンタリー

■宮谷行美
ライター。音楽メディアにてライター/インタビュアーとしての経験を経た後、現在はフリーランスで執筆活動を行う。BELONG Media、HMV&BOOKS onlineへの寄稿や、Ringo Dathstarr、Swervedriverなどの国内盤解説を担当。
Twitter:@PIKUMIN_0502

17歳とベルリンの壁『Abstract』

■リリース情報
17歳とベルリンの壁
4th Mini Album『Abstract』
2020年8月5日(水)発売 ¥1,500(tax out)

<収録曲>
1.楽園はない
2.パラグライド
3.街の扉
4.凍結地
5.誰かがいた海
6.十年

■ライブ情報
17歳とベルリンの壁 -Oneman Live-『Act』
2020年8月29日(土)渋谷TSUTAYA O-nest
18:30スタート/Ticket ¥2,500(+1drink)
※会場の通常動員可能人数の1/5程度となる55名前後での開催

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