安室奈美恵、浜崎あゆみ、西野カナ……ティーンに支持されるアーティストの時流 安斉かれんブレイクから考える“歌姫の系譜”

安斉かれん『僕らは強くなれる。』

 新型コロナウイルスの影響で、音楽ライブやイベントのみならず、テレビ番組の収録が軒並み中止となった2020年上半期。私たちの生活から娯楽が奪われていた中で、あるドラマがSNSを賑わしていた。4月に放送がスタートし、今月頭に最終回を迎えたドラマ『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日×ABEMA共同制作)。2019年に発売された小松成美による浜崎あゆみのノンフィクション小説を原作とした本作は、最後まで世間の注目を集めて幕を閉じた。三浦翔平と共にダブル主演を務めたのは、新鋭・安斉かれん。彼女は歌手デビューからわずか一年で、浜崎あゆみをモデルにした主人公・アユ役に大抜擢された。このドラマがヒットしたのは、田中みな実や水野美紀らの怪演、昭和的な展開が新鮮だったことに加え、安斉が現在のティーンのみならず、あゆ世代ド真ん中の視聴者をも虜にする“歌姫の素質”を持っていたからだろう。

 その時代ごとに現れ、音楽シーンを彩ってきた歌姫たち。昭和の時代も松田聖子、中森明菜らが流行に敏感なティーンの心を掴んできたが、“平成の歌姫”として君臨したのは、2018年に惜しまれつつも引退した安室奈美恵だった。彼女は沖縄アクターズスクールでの厳しいレッスンを受けた後、ダンスパフォーマンスグループ・SUPER MONKEY’Sのメンバーとなり、安室奈美恵 with SUPER MONKEY’S名義でユーロビートのカバー曲「TRY ME 〜私を信じて〜」を発表。同曲は70万枚以上を売り上げ、グループはブレイクを果たした。同じ頃、TRFや華原朋美をプロデュースしていた小室哲哉に出会い、安室はソロアーティストとして改めてデビューし、1995年『太陽のSEASON』をリリース。すらりとした8頭身ボディに整った小さな顔、本格的なダンスに抜群の歌唱力……当時の空気をリアルタイムで体感していない筆者もその頃の映像を見れば、いかに彼女が鮮烈なデビューを飾ったのかがわかる。90年代に入ると安室は瞬く間に時代を象徴するアイコンとなり、彼女の細眉やミニスカート、厚底ブーツを真似した“アムラー”と呼ばれる女性が急増した。

安室奈美恵 / 「SWEET 19 BLUES」Music Video (from AL「Ballada」)

 彼女に続いて、女子高生のカリスマ的存在になったのが浜崎あゆみだといえるだろう。10代前半は女優活動を行なっていた彼女は、松浦の誘いをきっかけにエイベックス所属アーティストの仲間入りを果たす。その辺りのエピソードは、“事実に基づくフィクション”とはいえ、『M 愛すべき人がいて』の中でも忠実に描かれていた。当時の彼女を知らない人にとっては意外かもしれないが、あゆは一足先にブレイクしていた華原朋美と比較されることが多く、バッシングを受けることも多かったという。そんな逆光にも負けず、1stアルバム『A Song for ××』でオリコン1位を獲得。90年代後半から00年代前半にかけて、あゆは渋谷を中心とする“ギャル文化”を牽引した。テレビで二人のステージを目にしていたティーンは、彼女たちの存在がそれは輝かしいものに見えたに違いない。それでなくとも当時は、阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件で、重苦しい空気が世間を纏っていた時代。ギャル文化を象徴する渋谷でも、援助交際やおやじ狩りが頻発していた。若者が安室やあゆの服装やメイクを真似していたのも、もしかしたら彼女たちが持つ輝きを何とか手繰り寄せようとしていたのかもしれない。

浜崎あゆみ / SEASONS

 どんなになりたくてもなれない存在――そんなカリスマとして活躍していた安室と浜崎だが、当時歌っていた曲は若者の気持ちに寄り添っていた。例えば、安室の人気曲「SWEET 19 BLUES」。〈あの子やあいつ/それよりかっこよくなきゃいけない〉という歌詞には“特別になりたい”という10代特有の焦燥が見え隠れするし、〈だけど私もほんとはすごくないから〉はティーンの憧れだった安室自身を象徴しているようにも思える。あゆが作詞し、ミリオンセラーを突破した「SEASONS」に描かれた〈今日がとても悲しくて/明日もしも泣いていても/そんな日々もあったねと/笑える日が来るだろう〉というフレーズからは、諦念とともに自分を客観視し、前を向こうとする若者の姿がそこにはある。実際、二人もまた私生活における問題、世間からのバッシングなど、その人生は波乱に満ちていた。ティーンは二人を手の届かない存在として崇拝しながらも、歌姫であろうとし続けた彼女たちの姿に勇気をもらっていたのではないか。あゆの自伝的小説がヒットしたのも、想像でしかなかった当時の想いが時を経て明らかとなり、誰もが自分自身の10代を懐古したからだろう。