大森靖子が語る、“考える”ことの重要性 新曲「シンガーソングライター」に込められた真意

大森靖子が語る、“考える”重要性

人の細かい特徴を削られるのが苦手だから、共感という感情を消したいと思っちゃう

ーー大森さんは、「パーティドレス」(2012年『PINK』収録曲)の頃から「楽曲の主人公=大森靖子」と解釈されることに違和感があったと思います。「シンガーソングライター」も、大森さんからのメッセージだとファンは受けとると思いますが、必ずしもそうではないわけですよね?

大森:全部考えてほしくて。だから反語をいつも使っているんです。〈STOP THE MUSIC〉と歌っているのも、「音楽を止めるな」と言われるよりも「音楽を止めろ」と言われるほうが、本当に止めたくないのか、ちゃんと考えるじゃないですか。そういう言葉の使い方をずっとしているんですけど、そういうふうに日本語はもう使われないんだな、って。反語が日本語の面白いところだったのに。

ーーつまり「シンガーソングライター」の歌詞は、なぜそう歌っているのかを聴いた人に考えてほしいという構造になっていると?

大森:なっているし、しています。「音楽との向きあい方を考えて」みたいな曲をたまに私は作るんですけど、そのひとつだと思います。

ーー「シンガーソングライター」が、配信リリースの1曲目になったのはなぜですか?

大森:去年作ってあった「シンガーソングライター」をなるべく早く出したかったのと、「おやすみ弾語り」をやり続けていたら無料で見るのに慣れて、みんなが何も聴いてくれなくなるから、ちゃんと作品として出そう、って。「外に出られる日常って普通だったんだな」って感じるのは、与えられた幸せみたいなものだけど、自分はそれを幸せだと感じられない性分だし、自分で考えて行動しないと幸せだと思えないタイプで。自分で作っていくものを持続的に見せることが、コロナのなかで私がアプローチできることで、毎日続けることに意味があった。けど、みんなもう戻っちゃったから、ちょっと違うフェーズに行かないと、何も伝わらないのかな、って。

ーー「シンガーソングライター」に〈共感こそ些細な感情を無視して殺すから〉という歌詞がありますが、共感されることに懐疑的な姿勢は以前から変わらないものですよね。

大森:危険だと思います。たとえば好きな食べ物で、「ちょっと苦味があってグニャっとしていて、なんか気持ち悪いけど癖になる、好き」というものがあったとする。それを他の人が「これめっちゃ好き」って言いだして、「そうそう、いいよね!」って共感したとき、「気持ち悪いけど」という文脈は削られる。それを省くような共感は好きになれないな。たとえば「信用していたけど裏切られました」みたいな話ってめっちゃされるけど、「こいつって悪いところがあるけど、ここはマジでいいやつで、こういうところで嘘はつかないけど、こういうことは言っちゃうよね、でも好き」というのが「信用」じゃないですか。そういう人間の細かい特徴を削られるのが苦手だから、共感という感情を消したいと思っちゃう。

ーー「シンガーソングライター」のMVはコロナのアイコンが多いから、コロナの状況を受けての歌詞かなと思ったんですが、そういうわけじゃないんですね。

大森:出すのが遅れてコロナになって、こういうことを考えやすい環境になっているし、このタイミングでいいんじゃないかな、みたいな。

ーーMVで、透明なバルーンの中でスマホをいじりなら女性を踏みつけている男性は何の象徴なんでしょうか?

大森:監督の番場(秀一)さんのアイデアだからわからない……。

ーー自粛警察の張り紙や、日の丸に見える最後のシーンも大森さんのアイデアではない?

大森:ないですね。「いいよ、いいよ」って。映像はかっこいいと思いました。番場さんから「違うな」みたいな構想が来たことはないな。

ーー布マスク2枚を顔につけた男女が浜辺を走ってますけど、あれ、前が見えてるのかなって(笑)。

大森:あれかわいい(笑)。

ーー「シンガーソングライター」をリリースして、「今度はこういう誤解を受けるんじゃないかな」というような想定はしていますか?

大森:していますけど、「全員に理解されたい」とか「全員に伝えてちょっとでも世の中を良くしたい」みたいなことを発信するのはZOCでやるので。ソロのような芯を食った活動は、「わかる奴がちゃんとわかればいい」と振りきっています。

ーーそうなると、ソロとZOCの活動は、どちらがポピュラリティーを得ると思いますか?

大森:ゆくゆくはZOCからソロに流れてきてくれればいいかな。

ーー自分のソロの作品の難易度は高いと感じますか?

大森:まぁ、誰だって歳を取ってくるとそうなるんじゃないですかね。「初期みたいな歌詞を書いてほしいのに」みたいなことは、自分も高校生のときに思っていましたし。でも、言葉や音楽でどんどん遊べるようになって、高等技術になっていくわけで、若い子とかは「何言っているのかわからないよ」ってなる。「じゃあ、両方並行してやればいいかな」みたいな。

ーーそう考えると、「マジックミラー」(2015年)ってものすごい構造の曲ですよね。聴いた人がそれぞれに思い入れを持って共感していくけど、それを大森さんはマジックミラーだって言っている。ファンの人って、その構造に気づいていますか?

大森:気づいていない人はいると思います。「『あたしの有名は君の孤独のためにだけ光るよ』って言ったじゃん」って言うんですよ。でも、こっちは「タイトル、『マジックミラー』だけど?」って思うじゃないですか。だけど、ライブに来てる人はさすがにわかるんじゃないんですかね。

ーーそこで気づいていない人も、大森さんは別に否定しない。もし「シンガーソングライター」を聴いて「めちゃくちゃ共感しました!」っていう人が来たらどう思います?

大森:あはは、それはそれでいいんじゃないですか?

ーー逆に言うと、大森さんがどんどん共感を集めて、それを利用して武道館を目指す手もあるわけじゃないですか。それは意図的に拒んでますよね?

大森:あまのじゃくだから?(笑)。ZOCがやればいいんじゃないんですか?(笑)。なんか真摯じゃない気がしちゃう、やればいいんだろうね(笑)。

ーーそうなると、冬に出る予定のニューアルバム『Kintsugi』はどんな作品になりそうでしようか?

大森:日本人の感覚かもしれないけど、人は壊れれば壊れるほど美しくなっていくって思っていて。自分を壊すのが気持ちいいから、もう本当に酷い歌しか作らないって決めました(笑)。傷ついたものの修正を漆でして、それを表では金で見せるっていう、そのフェイク感みたいなものを見せていきたい。あと、「自分のことをもっと歌えばいいじゃん」みたいなこともめっちゃ言われて。歌ってはいたんだけどね。その辺のフォローはできているのかな。

ーー「子育てアカウントみたいな視点にしたほうが売れるよ」と言う人もいるんじゃないですか?

大森:います、います。子供とかバズるに決まってるじゃないですか。でも、私がやりたいのは音楽だから。音楽と育児を関係させたら嫌だなって。

ーー大森さんは「『コロナ以降』のカルチャーに望む、価値観のアップデート」で、「エンタメとカルチャーはやはり似て非なるもの」と書いていましたね。今後もカルチャーをやっていこうと?

大森:ライブで「手を挙げろ」と言われて、懐疑心なく手を挙げられる環境がエンタメじゃないですか。やっぱり「なんで手をあげなきゃいけないんだろう?」って思う心がちゃんと残った状態のライブにしたい。みんなが手を挙げているときでも、「自分は本当に挙げたいのかな?」ぐらいは残していたいんですよね。そこが自分の考えるところのカルチャーだと思うんです。

大森靖子「シンガーソングライター」
大森靖子「シンガーソングライター」

■リリース情報
「シンガーソングライター」
7月29日(水)配信リリース
配信はこちら

大森靖子オフィシャルサイト

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