空音、『19FACT』に込めた“ステージに立ち続ける”意思表明 等身大ゆえの「リアリティ」と「説得力」
閑話休題。ここからアルバムはグッとディープなゾーンへと入っていく。官能的でありながらもどこか透明感と強烈な喪失感を漂わせる、春野のプロデュースによる「水仙」、音数を削ぎ落としスリリングに進んでいくバースがフックで爆発する、朋友NeVGrNをフィーチャーした「Shine like you feat. NeVGrN」などこれまでになかったような深みを感じさせる。そして、再びyonkeyを迎えた「Daddy feat. yonkey」では、ゴスペルっぽいトラックに乗せて「父親」をテーマにしたリリックを歌う。しかも、〈俺がもし父親になったら／君に見せたい／大きな背中〉、〈俺はステージの上／ステージの下には／愛する妻と子の姿〉というラインからも分かるように、この曲は空音にとっての「理想の父親像」がテーマであり、「結婚し子供を授かっても変わらずステージに立ち続ける」という強い意思表明でもあるのだ。
「アルバムの中で、最も文字数が多い」という「HaKaBa」も、自らの死生観というよりは「ステージが俺の墓場」という覚悟を歌った曲であり（〈いっその事／ここを墓場にしようと思うけど〉）、ニューリーをプロデューサーに迎えた「CIRCUS」は、東京と大阪にある同名のライブハウスへの思いを歌う。どちらも空音のパーソナルな思いがきっかけとなっているが、決して独りよがりなものではなく、「俺はこう思うけど、みんなはどう？」と彼に語りかけられているようで、聴いているこちらも思わず自分の半生を振り返ってしまう。
そしてアルバムの最後は、ピアノとトランペットの絡みがドラマティックな「拝啓」。現在の空音が“未来の自分”に向かって語りかけているこの曲のリリックもまた、聴き手である我々の心に強く訴えかける。〈晴れない空／恨んでもしょうがない／まるで見えぬウイルスや自然災害／本当最低／こんな日／だけど／生きてりゃ笑い話になる／こんな日〉というラインは、まさに今コロナ禍で苦しんでいる我々へのポジティブなメッセージといえるのではないか。
10代の締めくくりとして、等身大のアルバム『19FACT』を作り上げた空音。本作は、極めてパーソナルな視点で世界を捉えているからこその「リアリティ」と「説得力」を、我々聴き手とも共有できる「普遍性」へと昇華した意欲作なのだ。
■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。ブログ、Facebook、Twitter
■リリース情報
『19FACT』
発売：2020年6月24日（水）
価格：¥2,700（+税）
＜収録曲＞
01. Fight me feat. yonkey [Produced by yonkey]
02. Flash [Produced by RhymeTube]
03. You GARI feat. SUSHIBOYS [Produced by RhymeTube]
04. Girl feat. kojikoji [Produced by Shun Maruno]
05. 水仙 [Produced by 春野]
06. Shine like you feat. NeVGrN [Produced by RhymeTube]
07. Daddy feat. yonkey [Produced by yonkey]
08. HaKaBa [Produced by jaff]
09. CIRCUS [Produced by ニューリー]
10. 拝啓 [Produced by RhymeTube]
※ストリーミングサービスおよび iTunes Store、レコチョク、mora など主要ダウンロードサービスにて6月24日より配信開始
※音楽ストリーミングサービス：Apple Music、LINE MUSIC、Amazon Music Unlimited、AWA、KKBOX、Rakuten Music、RecMusic、Spotify、YouTube Music
