大森靖子、ファンの孤独を癒す音楽活動への姿勢 『大森靖子2020♥ハンドメイドホーム6♥』開催を機に考察

 このコロナ禍のなか、TwitterのDM機能を開放して、1日に数百通ものDMを受けとる大森から見るファンたちの日々はどのようなものなのだろうか。そもそも大森は、社会の変化に非常に敏感なミュージシャンだ。楽曲でそのときどきの事象に反応してきた。

〈どうせあたらないミサイルで威嚇する〉
(大森靖子「オリオン座」)

〈むかしむかしあるところに男と女とそれ以外がいました〉
(大森靖子「ドグマ・マグマ」)

 北朝鮮の飛翔体発射、あるいはLGBT。大森は社会的な問題に直接言及することはないが、その代わりに作品へと昇華する。その姿勢は、SNSで社会問題に積極的に発言するミュージシャンたちとは明確に一線を画す。コロナ禍で多くの人々がSNSでさまざまな発言をしているが、それが正しいのかどうかは誰が判断するのか。専門性の高い物事への言及には、危険性があることを自覚しない人も少なからずいる。そうした誤解を招きうる「揺れ」を見せないところは、大森のファンへの優しさとも感じられる。Twitter、Instagram、公式LINEなど、現在の大森のインターネットでの発信量は実は決して多くはない。

 だからこそコロナ禍を経てのアルバム『Kintsugi』には期待してしまう。ハードな状況を経ての大森の作品には、必ず彼女なりの「回答」が提示されるはずだ。

 『おやすみ弾語りand投げ銭デコチェキ』は、その名の通り「♥今日のおやすみ弾語り」に対して、投げ銭としてデコチェキ(多く書きこみがされたチェキ)を買えるという施策だ。しかし、そもそも「♥今日のおやすみ弾語り」に対して投げ銭をするとデコチェキが届くのだから、実質無料なのではないか? 投げ銭とはいえ、金銭に対してはしっかりと見返りを与えるのも大森らしい。

 新型コロナはさまざまな形で災厄をもたらしたが、その諸問題は突然沸きおこったことだけではない。以前から存在していた問題が、新型コロナをきっかけにして露呈した部分もあるだろう。人間の感情の揺れ動きに誰よりも敏感な大森が、世界ーー文字通り地球上のこの世界ーーをどう歌うのか。コロナ禍でも動きを止めない彼女が、『大森靖子2020♥ハンドメイドホーム6♥』の過程で何を届けてくれるのか、心待ちにしている。

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

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