トクマルシューゴが示した“リモートならではの良さ” 音楽愛に満ちた『TONOFON(REMOTE)FESTIVAL 2020』を観て

 栗コーダーカルテット&ビューティフルハミングバード、んnoon、長谷川白紙、折坂悠太、そしてトクマルシューゴ。音楽が独創的で、しかも演奏家として秀でており、ジャンルも多彩。オンラインであろうとリモート演奏であろうとその本質は変わらないことを実感した。トップバッターの栗コーダーカルテットのリコーダーの第一音の躍動感に一気にテンションが上がる。室内でイヤホンで視聴しているからこその驚きがある。んnoonはメンバー各人の個性が把握でき、長谷川白紙は生配信の1曲目に「赤いスイートピー」のカバーを配し、リスナーの度肝を抜く。もう1曲は弾き語りによる新作『夢の骨が襲いかかる!』から「シー・チェンジ」を披露。あえて音割れが起こる音作りで、弾き語りと思えないエクストリームな聴感で圧倒した。折坂悠太は独奏と重奏を披露。重奏での「こころ」(新曲)は演奏者の音を重ねて編集したものだが、聴きごたえ十分な上に、ライブで新曲を聴けない今、貴重な演奏だった。トクマルの「一生音楽と歩んでいくだろうなと思う人」という折坂の印象など、各出演者へのコメントもオンラインならではだ。

 ホストバンドであるトクマルシューゴのハイライトは、ストリングやホーンを加えた総勢22名による人気曲「Rum Hee」のリモート重奏。後半の“外伝”に登場した上水樽力による編曲で、力強く有機的なオーケストラセッションとなったこの演奏は前半のハイライトとなり、コメント欄には言葉にならない感謝が擬音や絵文字となって躍っていた。アンコールではトクマル一人で、4月に結婚式を挙げる予定だったという友達に向けての新曲「ウェディング」を弾き語り。人生の門出も延期や中止になる。できなくなったことは寂しいけれど、新しいことを作っていくーーそれはこの『TONOFON(REMOTE)FESTIVAL 2020』全体を包んでいた前向きなムードだ。その後、冒頭に書いた「Canaria」の解禁があり、メンバーミーティングという貴重な場面も公開していた。それにしてもスマホの再生ボタンをせーのでタップするのがこんなに楽しいなんて、やはりこれはリアルタイムで進行しているからこそだろう。

 リモート開催になったことで、神戸の旧グッゲンハイム邸と日本橋の七針を結んでのmmm+稲田誠。病院の診察日の看板など街の景色に規則性を見出し音楽を作る西村直晃。トークのみの出演予定だった上水樽がイベントスタートから思い立ち急遽作ったという出来立てのピアノ曲を披露したり、出演できなくなったノルウェーのBrigtのスロットに急遽、東郷清丸が名乗りを上げたり、そのリアクションをコメント欄で共有できたり。

 配信ゆえに気軽に未知の音楽家と出会えたというコメントも多く、さらに韓国のイ・ランは日本語の翻訳をアナログな手法で見せ、人間の核心をえぐる詞世界にも触れることができた。夜には昼間の配信を再度、トクマルのトークと共に届け、ラストはこれまでのライブ映像をたっぷり1時間近く上映。そこで感じたものはただオフラインのライブへの恋しさではなかった。

 「ライブはいいな。生きてるってことです。どっちでもいいです! リモートはリモートの良さがある」――「Rum Hee」の遠隔重奏のあとトクマルが発した言葉に、今回のフェスの意義が詰まっていたと思う。『TONOFON(REMOTE)FESTIVAL 2020』を通して、彼のあらゆる音楽への執着と愛情はよりあらわになったのではないだろうか。

Shugo Tokumaru (トクマルシューゴ) - Rum Hee (Official Music Video)

■石角友香
フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Qetic」「SPiCE」「Skream!」「PMC」などで執筆。音楽以外にカルチャー系やライフスタイル系の取材・執筆も行う。

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