トクマルシューゴが示した“リモートならではの良さ” 音楽愛に満ちた『TONOFON(REMOTE)FESTIVAL 2020』を観て

トクマルシューゴが示した“リモートならではの良さ” 音楽愛に満ちた『TONOFON(REMOTE)FESTIVAL 2020』を観て
トクマルシューゴ 「Canaria」

 6月7日午後3時にYouTubeのリンクが解禁される形で、トクマルシューゴの新曲「Canaria」がリリースされた。この日開催された『TONOFON(REMOTE)FESTIVAL 2020』の中で初披露され、その4分18秒の間、日本はおろか、世界の様々な場所でスマートフォンを手に自ら回転しながら、この新曲を同時に共有している人が1,000人以上いると思うと非常に愉快な気分になった。はなればなれの日常の中、世界のどこかで誰かと同じように驚きを感じている事実。それはどんな些細な事象も音楽へ昇華するトクマルシューゴという音楽家の特性が、オンラインだろうがオフラインだろうが不変であることの証左でもあった。

 もちろんこの曲のMVが体験的なものであることが、(大袈裟に言えば)“世界同時視聴”をよりワクワクするものにした側面は大きい。「子供のころから鳥を飼っている夢をよく見ます。その夢はどんな世界なのか、どんな感覚なのか体験してもらえたら」という動機にインスパイアされたのだろう、東京藝術大学大学院映像科アニメーション専攻に在籍する気鋭のイラストレーター・アニメーション作家、ゆはらかずきによる360°手描きVRアニメーション。おそらく世界初だというこの手法によるMVはまさに360°の映像体験――例えば、見上げるとどこまでも続く空、見下ろすと足元も空というふうに視聴者に滑空の擬似体験を与える。しかも葛西敏彦による360°ミックスで下を覗き込めば低音が強調されるなど、通常のステレオミックスにはない体感が得られる。

Shugo Tokumaru (トクマルシューゴ) – Canaria (360° VR 4K Hand-Drawn Animation)

 5月にリリースした「Sakiyo No Furiko」が、個人名義としては『TOSS』以来4年ぶりの新曲であり、演奏、録音、編集まで一人で行った原点を思わせる内容で、今回の「Canaria」も同様に全ての楽器演奏をトクマル自身が行っていることから、今の彼が音楽に向かうスタンスが理解できる。架空の国のフォークロアといったムードの三拍子を基本に、アコギのリフとアコーディオンのフレーズが牽引していくが、ここで聴こえる無数の音は行ったことのない桃源郷、さらに宇宙へと我々を飛ばしてくれる。ちなみに使用楽器はアコースティックギター、エレキギター、ベース、チェロ、バイオリン、アコーディオン、のこぎり、フルート、オーボエ、クラリネット、バンジョー、ソプラノサックス、バンブーサックス、トランペット、トロンボーン、鉄琴、トイピアノ、竹琴、ピアノ、スチールパン、木琴、ガムラン、ピアニカ、ドラム、パーカッション、アナログシンセ、拍子木、オモチャという、ファンにとってはおなじみのオールスターだ。〈老いてくカナリア〉というモチーフに、時代の中でいち早く危険を察知し続けてきた者というイメージを個人的には重ねてしまうが、取捨選択され構築された音像を森羅万象に見立てると、このカナリアの生命力が際立つように思える。

Shugo Tokumaru (トクマルシューゴ) – Sakiyo No Furiko (Official Music Video)

 元祖宅録音楽家が何段階もアップデートされた状態を感じるとともに、3年ぶりに所沢航空記念公園で開催されるはずだった『TONOFON FESTIVAL 2020』が、オンラインフェスとして、メイン出演者はそのままに自粛生活スタイルゆえのユニークなライブを行った。なんと午後1時にスタートし、夜の0時近くまで10時間以上、トクマルの自宅スタジオ兼作業部屋をキーに展開。フェスの中止は「一通り落ち込みました」と言いつつ、「リアルタイムで何かやること、まさにライブです! 初めてのYouTuber体験、心臓がバクバクしてます。あ、止まらない方がいいですね(笑)」と、なかなか軽妙なトークで、コメント欄には投げ銭が続々と。投げ銭やグッズ購入の方法や使い道を明確に伝える彼の姿は、大人数のミュージシャンに指示を出し、音楽を作っている姿と違和感がなかった。

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