LOSTAGE、アルバム『HARVEST』で表現する“コミュニティの信頼関係” 「匿名で居場所なんて作れない」

 4月上旬、通算8枚目となるLOSTAGEのアルバム『HARVEST』が暫定リリースされた。本来なら、ライブ会場と奈良にある「THROAT RECORDS」実店舗、オンラインショップのみでのCDとレコード限定販売で、直接コンタクトを取らない限りは聴けないはずだったものが、急遽Bandcampでの配信が行われたためである。前作『In Dreams』以降、極端にクローズドな環境を作ることで自分たちの居場所を確かにしていったオルタナティブロックの雄も、このコロナ禍の前には為す術がない。作品のフィジカルリリースも、今後行われるはずの全国ツアーも未定のままである。

 とはいえ悲観的になれないのは、『HARVEST』の内容が、家から出られない生活にも優しくフィットするものだったからだ。本作で五味岳久(Vo/Ba)はアコースティックギターを弾き、音像はますます柔らかい歌ものへと進化。棘のある攻撃性より、寄り添って分かち合える生活の実感が歌になっている。ローカルであること、その他大勢に追随しないことを是としてきた五味が、今これだけ確かな繋がりを歌にできる理由とは。これは新作のインタビューでありながら、SNS/テレワークの時代にどう振る舞うのかというヒントでもある。(石井恵梨子)

「やりたい音楽をやれたら、それがLOSTAGE」

一一『HARVEST』、当初は5月4日にCDで発売予定でしたよね。

五味岳久(以下、五味):そう、もともとはその予定で準備をしてたんですけど。前回と一緒で、まずCDをライブ会場で売り始めて、ちょっと時間差でレコードを出そう、って感じでしたね。

一一前回と一緒なのは、流通会社を通さないリリース方法に大きな手応えがあったから?

五味:そうですね。今までいろんなやり方でリリースしてきたじゃないですか。どっかのレーベルから出したりメジャーでやったり。そういうのに比べると、自分の仕事として成立するバランスがいいというか、これは仕事になりそうっていう手応えがあった、っていうことですね。

一一もちろん金銭面もあるだろうけど、気持ちの面で大きいのはどんな部分なんでしょう?

五味:お客さんとの距離感ですかね。直接手渡して売ったりすること、販売を委託にしてしまうとなくなってくるから。顔を見て付き合っていくこと。「こういう人が自分の音楽聴いてんのか」ってなかなか確認しにくいと思うし、直接会うことで聴く側の感情移入の仕方も変わってくるだろうし。一番大きいのはそこですね。それを前作以降に感じられるようになって、気持ちもポジティブで。うん、すごくいい3年間でしたね。

一一あと今回のアルバムは五味くんがベースを一切弾いていない。けっこう驚きましたけど、どんなふうに始まった試みなんですか。

五味:えーとね、去年の3月か。大阪の十三ファンダンゴで7日間イベントをやって、最終日は3人でワンマンやったんですよ。それがけっこう達成感あって。やりきった感、みたいな。3人でやれること、とりあえず今あんまないというか、次も録音するならちょっと違うことやりたいなって。そこからの4人編成ですね。俺がベース置いて、サポートベーシストに入ってもらって。やりきって解散っていうバンドもたまにいるじゃないですか。そういう感じでもなくて、単純になんか別のことやろうかって。

五味岳久

一一そこからアコースティックギターを持つのは自然な流れでしたか。

五味:そうですね。弾き語りのライブもバンドと並行してやってたから、そこにバンドにはない良さもあって。今自分がいいなと思う感じを全部混ぜて、一個の音楽に落とし込んだらどうなるかなって。あとメンバーとも話したんですけど、まぁなんか、全力で汗だくでやることに疲れてきてるところも……あるっちゃある(笑)。年齢的なものでしょうけど。だから音楽的な気分転換ですよね。ちょっと河岸を変えたというか。

一一続けるんだけど、とりあえず二軒目、違う店行ってみようと。

五味:そうそう。あんまり重い話じゃない。「もう俺はベースを弾かない!」とかじゃなくて。たぶんね、LOSTAGEっていうバンドの形態にもこだわらなくなってきたんですよ。ヘルプで入ってもらってメンバー4人になってもいい。何人編成でも、自分たちがやりたい音楽やれるなら「それでLOSTAGEで良くない?」みたいな。3人編成にこだわって、やれることが限定されてしまうよりは、可能性のある方を選びたくて。

「自分が“どこから来て今どこにいるか”を匂わせたかった」

一一ベースの堀一也さんは地元の友達ですか。

五味:そうです。奈良のAYNIW TEPOっていう、僕がやってるレーベルからCD出したりもしてるんですけど。僕とはもう10代からの付き合いですね。地元のNEVERLANDでも一緒にライブやってる友達で。さっき言ったように、やることを変えたい気持ちはあったんですけど、そういうときプロデューサーを入れるとか、よくありますよね。第三者の視点を入れるっていう。僕らも同じことなんですけど、有名な人に頼んで広げてもらうよりは、もっと近くにいる奴、地元ノリを入れて下から押し上げていくみたいなイメージで。そっちがいいんちゃうかなって感じでしたね。

一一ジャケットの彫刻も浅村朋伸さん。奈良在住の仏師さんなんですよね。

五味:そう。たまたま店で知り合った仏師さんなんですよ。オオルタイチくんっていう奈良出身の僕と同い年のミュージシャンがいて、彼が連れてきたんですよね。そこで意気投合というか仲良くなって。

一一それで「髑髏彫ってください」と?

五味:そう。材木がけっこう有名な街の出身なんですよ、僕が。奈良の桜井っていうところ。その街に二人で行って材木を選ぶところから始めましたね。材木って木目で表情変わるじゃないですか。まぁ彫刻家の話なんで僕もあんまわかんないんですけど(笑)、「目を見に行きましょう」って言われて。能面とかの材料を扱ってる専門の材木屋さん、去年の夏に行きましたね。

一一面白い。つまりこれ、どこまでも奈良コミュニティで作られてますよね。まぁコーラスのAchicoさん(Ropes)は違うとしても。

五味:ちょっとこだわってやりたいなって。地元というか、自分がどこから来て今どこにいるか、みたいなことをなんとなく匂わせたかった。自分の暮らしも、やっぱり厚みが増してくるじゃないですか。家族が増えたり子供が大きくなったり、あと店があって出入りするお客さんが増えたりとか。暮らしの濃度って、その街にいるほど濃くなっていくと思うんですね。

一一うん。だから音は柔らかいけど、匂いはすごく濃厚で。「僕らはこんなふうに暮らしています」っていう直筆の手紙をもらった感じがする。

五味:あぁ、そうであれば良かった。うん、そういうアルバムにしたいなと思ってた。それもお客さんとの距離感に繋がる話ですけど、ライブで初めて会ってCD渡した人とか、興味持って店を訪ねてくれた人がいて、そこから関係性が始まるわけじゃないですか。ちょっとずつでも。それって村人が増えていくようなことやと思うし、「村人になった人にはちゃんと毎日挨拶していくよ」みたいなことで。「爆発的にこの街を都市に変えたい」っていうのが目標ではないことも、この3年をかけて確認したんですね。もちろん拒絶はしてないですよ、新しい人が入ってくることを。

一一LOSTAGEが目指したものって、そこなんでしょうね。この前Twitterで無人の野菜売り場の写真を出してたじゃないですか。音楽を金に変換することじゃなくて、信頼ありきで生まれる関係性を求めているんだなって、すごく伝わってきました。

五味:そうそう、あの感じなんですよね。やっぱり今、それこそ定額で聴けるところに音楽をポンと置いとけば、月額いくら払ってる人が誰でも聴けますと。まぁ音楽が野ざらしになってる状態じゃないですか。雑に扱われもするし、あと違法のアプリを使って聴いてる人もどっかにいて。そういう状態って、田舎の道沿いにある野菜と同じやと思うんです。盗ろうと思えば盗れる。それでもなんでああいう売り方するかって、やっぱ信頼関係ですよね。あれって別に、田舎のおじいちゃんおばあちゃんが全国に向けて発信してるんじゃなくて、その街の、そこに暮らしてる人に向けてるものやと思うんで。あの距離感とか信頼関係っていうのは、あるべき姿やなと思う。僕がこうありたいってことでしょうね。

一一今はCDが売れないうえサブスクが当然の時代だから、そういう関係の作り方が難しくて。LOSTAGEがやっていること、逆にすごく強く見える。

五味:そうですね。目に見えないもんやけど、けっこう自信はあるというか。「やったな」とは思ってますよ。長い時間かけて築き上げてきたものがあるし、一朝一夕ではないと思う。自分が作ってきたものの中でそれが一番大きい。音楽がそれを繋ぐツールになってくれて、そういう人間関係を作れたっていうのが大きいですね、やっぱり。

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