ケラーニ、キアナ・レデ、ブランディ……2020年を彩る女性R&Bシンガーの新譜5選

すべての戦う母親たちに捧ぐ! ブランディのダンサブルな応援歌
Brandy feat. Chance The Rapper 「Baby Mama」

Brandy feat. Chance The Rapper 「Baby Mama」

 ティーンエイジスターとしての華々しいデビューから早26年。長いキャリアの中でアルバム数は6枚と意外に寡作のブランディだが、シーンにおける彼女へのリスペクトは厚い。年齢を重ねて円熟味を増す歌声は「ボーカルバイブル」として称され、H.E.R.やジェネイ・アイコほか多くのアーティストがラブコールを送る存在だ。

 8年ぶりとなるフルアルバム『B7』に向けて、ようやくギアを上げてきた彼女の新曲は、プロデューサーのヒットボーイと組んだバウンシーなアップテンポ。シングルマザーを指すタイトルの「Baby Mama」だが、つきまといがちなネガティブイメージを払拭するべく、ここでは誇り高き母親を賛えるフレーズとして使われている。すっかり愛妻家のイメージがついたチャンス・ザ・ラッパーの援護客演も相性はバッチリだ。

 カラフルな衣装に身を包み全編にわたりダンスがフィーチャーされるMVは、ミュージカル映画『Sweet Charity』内のサミー・デイヴィスJr.による名演「Rhythm Of Life」へのオマージュとなっているので、オリジナルと見比べてみるのも面白いだろう。つい真似したくなるサビの振付も印象的だ。

 ちなみにジャケットで真ん中に描かれているのは今年で18歳になる娘のシライ。シンガーとしても活動中の彼女の新曲「At Your Best」は、アリーヤの歌唱でも知られる同名曲(オリジナルはアイズレー・ブラザーズ)をサンプリングしており、母親譲りの見事なボーカルワークを聴くことができる(現在はYouTubeでのみ公開中)。今後の活躍が楽しみな大器だ。

Brandy - Baby Mama (feat. Chance The Rapper) - Official Video
Rhythm of Life - Sammy Davis Jr.

マルチな才能を発揮するテヤナ・テイラー、異なるコンセプトで送るWシングル
Teyana Taylor「Made It」「Bare Wit Me」

Teyana Taylor「Bare Wit Me」

 ローリン・ヒルの語りをフィーチャーした「We Got Love」も大きな話題を呼び、アルバムへの期待が膨らむテヤナ・テイラーが新曲「Made It」「Bare Wit Me」を2曲同時に発表。もちろんリリースは<G.O.O.D. Music>からということで、「Made It」ではレーベルのボスであるカニエ・ウエストと再タッグ。Spinners「He’ll Never Love You Like I Do」を早回しした、彼らしいサンプリングが炸裂している。(ちなみにサビのリリックはジュヴナイル「Back That Azz Up」からの引用)

 新型コロナウイルスの影響で、卒業式を行えなかった学生たちへの祝福ソングとなる同曲は、MVにも実際の卒業生たちがリモート撮影で参加。ラストはテヤナからのお祝いメッセージで締めくくる、実にポジティブな作品だ。

 一方の「Bare Wit Me」は、PartyNextDoorやリル・ナズ・Xらを手がけるビズネス・ボーイがプロデュースした濃厚なスローR&B。こちらのMVは1930年代のギャング映画風サスペンスで、どっしりとした仕上がり。見どころは、近年の流行ムーヴとマイケル・ジャクソン「Smooth Criminal」へのオマージュをミックスした後半のダンスパートで、ビヨンセの振付も経験している彼女の、ダンサーとしての凄みがわかるはずだ。(カニエ・ウエスト「Fade」を見たことながない人は必見!)

 なお両MVをディレクションする、スパイク・リーならぬスパイク・ティーとはもちろんテヤナ本人のこと。過去にはモニカ「Commitment」でも監督を手掛けている。そんなあらゆる才能を持ち合わせたスーパーウーマンの最新作『The Album』は今月発売予定。キャリア史上、もっとも幅広い表情をみせてくれることは間違いなさそうだ。

Teyana Taylor - Made It
Teyana Taylor - Bare Wit Me (Official Video)
RealSound_ReleaseCuration@Yacheemi_20200607

◾️Yacheemi / ヤチーミ
ダンサー / DJ / ライター / タコ神様。
国内~ジャマイカでダンスバトルでの入賞を経験後、 ヒップホップ・グループ「餓鬼レンジャー」 にマスコットとして加入。3密のナイトクラブを中心に年間100本近くのステージに立つ傍らで、地上波TVにも幾度か出演。またR&B音楽にまつわる座学や執筆活動も行うなど、独自のフリースタイル・グルーヴ道を歩む七変化系男子。

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