東京少年倶楽部、『空の作りかた』に込めた自然体の想い “10代の終わり”を詰め込んだドキュメント作品を紐解く

 『空の作りかた』の、オールディーズから日本のロックまでさまざまな影響源を感じさせるサウンドの幅と、とりあえず思ったことをコードに乗せて歌うのが最優先というようなシンプルなメロディは、使い古された言葉でいえば「初期衝動」ーーいや、衝動というよりも「やむにやまれず出てきてしまった」というような手触りに満ちている。曲によってはノスタルジックだったり牧歌的だったりする歌詞でも、どこかに満ち足りない思いとそれに対するフラストレーションが潜んでいる。ポップで耳馴染みのいいメロディでも、その奥底には鋭い棘が埋まっている。そのアンバランスさこそが東京少年倶楽部というバンドに僕が惹かれる理由だ。「何もない」が「これしかない」に逆転する瞬間の眩しさが、このミニアルバムにはみっちり詰め込まれている。

「バンドを組んでからの時間を、僕ら4人も聴いてくれた方も感じるミニアルバムにしたいなという思いが強かったです。それを4人で悩みながらひとつのものにしていくということに重きを置いて作れたことが嬉しかった」

 松本は『空の作りかた』に込めたものについてそう語ってくれたが、まさにここには彼らがバンドを結成してから――いや、それ以前から抱いていた感情を、4人で分かち合い音楽にしていく物語がくっきりと刻まれている。つまりこの作品は「10代」というどうしようもなく不完全燃焼な時期をくぐり抜けた先で歌われるドキュメントなのだ。「死ぬまでの暇つぶしに生きてるよう」だったメンバーが集まり、その思いを音と言葉にして鳴らした、人生で一度きりのドキュメント。これを作ったことで、それまでの過程がすべて正解になる――そういう作品だと思う。

「10代で信じられる友達や尊敬できる人達に出会えたから今の僕がある。何歳になってもいい時代だったなと思えるような10代を過ごせました。20代になって1番感じることは、髭が伸びるのが早くなりました(笑)」

 そんな松本と東京少年倶楽部の「10代」から今までの日々を昇華したミニアルバム。「僕は同世代に何かを言えるほどできた人間でもない。みんなそれぞれ置かれた環境で必死に頑張ってるように見えますし、街を歩いてて同い年くらいの人を見かけると『自分も頑張らないとな』って思わせてもらう機会の方が多いです」という松本だが、きっと彼と同じような気持ちを抱いて日々を生きている同世代はたくさんいる。そんな人々に、この音楽は深く届くはずだ。

 いや、同世代だけではない。この『空の作りかた』は本来であれば4月にリリースされているはずだったが、新型コロナウイルスの影響の中で発売延期を余儀なくされたという経緯がある。彼らがこの作品を引っさげて臨むはずだった6月から7月にかけてのツアー『夢中飛行TOUR 2020』も全公演延期となった。

「ギリギリのところで耐えて不安を募らせながら日々過ごしている人がたくさんいる状況で、僕はお金を持ってるわけでもないし、頭も良くないし、たくさんの人に知られているわけでもないので、力になれない悔しさを感じています。ニュースを見て絶望する日ばかり、この状況を変えようと頑張っている人を見たりすると、なんで家にいる自分が暗くなってるんだよと腹立たしくなったりもするので、せめて明るくいたいなと思ったり。その間を行ったり来たりしています」

 と松本は最近の思いを言葉にしてくれたが、他のすべての音楽がそうであるように、鬱屈した日々の思いを輝かせて「僕らの空」を見せてくれるような彼らの音楽は、それ自体がひとつの「エール」だという気がする。再び彼らの音楽がライブハウスで鳴る日を夢見ながら、今も僕はこのミニアルバムを聴いている。

■小川智宏
元『ROCKIN’ON JAPAN』副編集長。現在はキュレーションアプリ「antenna*」編集長を務めるかたわら、音楽ライターとして雑誌・webメディアなどで幅広く執筆。

東京少年倶楽部『空の作りかた』

■リリース情報
東京少年倶楽部『空の作りかた』
発売日:2020年6月17日(水)
レーベル:No Big Deal Records
品番:NBPC-0078

-収録曲-
1. flipper
2. lollin’ lollin’ 
3. ぼくはかいじゅう
4. stand by me
5. 西武新宿駅、改札を出て左
6. 1998

■ツアー情報
東京少年倶楽部『夢中飛行 TOUR 2020』
※全公演延期。振替日程は後日発表

■関連リンク
東京少年倶楽部 公式HP
東京少年倶楽部 公式Twitter@Tokyo_BBB_Club

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