東京少年倶楽部、『空の作りかた』に込めた自然体の想い “10代の終わり”を詰め込んだドキュメント作品を紐解く

 〈頭の中ウインカーはずっと定まらないまま/退屈が嫌いで人生の夏を見つけに出よう〉(「flipper」)――という一節から始まる、東京少年倶楽部の初全国流通ミニアルバム『空の作りかた』(6月17日発売)。何度聴いてもその瑞々しさと純粋さに心が動く、すばらしい作品である。

 2017年7月に京都で松本幸太朗(Vo/Gt)、三好空彌(Ba) 、古俣駿斗(Dr)の3人によって結成された東京少年倶楽部(現在はgyary(Gt/Key)が加入し4人組に)。昨年のオーディション『RO JACK for ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019』で優勝するなど注目を集めるようになるなかで、彼らは10代を終え20歳になった。

 『空の作りかた』に封じ込められているのは、そんな10代の終わりにかけて誰しも感じる、どこにも行けないけどどこかに行きたい、焦燥と不安と希望と情熱、そして怒りがごたまぜになった心だ。松本が書くメロディと歌詞は、まるで呼吸するかのようにその心を言葉と音符に変え、目の前の景色に重ねていく。無邪気で自然体で、だからこそ真実を射抜いているような、そんな音楽だ。

東京少年倶楽部『flipper』Music Video

 フジファブリックの「茜色の夕日」に衝撃を受け、「バイト代がちょっと多かった月に、アコギを買ってみた」というきっかけで音楽を志した松本が、たまたま知り合ってウマが合ったメンバーと遊びの延長で組んだバンド(最高のバンド名もノリで決めたそうだ)。そんな何気ない成り行きで、言葉を変えれば「運命的」ともいえる巡り合わせでスタートしたという東京少年倶楽部だが、その根底にはこんな思いがある、と松本はいう(以下、発言はすべて彼へのメールインタビューより)。

「今、何をしたらいいかわからないような……心ここにあらずという感じ。音楽をやる前から、なんなら小さい時からずっとそんな気持ちでいます。『僕には何もないな』という思いが強いです」

 〈いつかきっと旅に出るのさ〉と歌う「ぼくはかいじゅう」、〈体がちぎれてしまうほどの速さをいつも探してる〉と歌う「stand by me」。冒頭に引用した「flipper」の歌い出しもそうだが、松本の書く楽曲の主人公はいつでも「ここではないどこか」を探している。バンドを結成したのも、もしかしたらそれを見つけるためだったのかもしれない。松本はバンドを組んだときの気持ちをこう振り返る。

 「はじめにWOMCADOLEの樋口(侑希)さんに誘われて歌った路上ライブで古俣に出会いました。その後に古俣の紹介で三好に出会ったんですけど、今思い返すと出会った時は、3人とも何もなくて、死ぬまでの暇つぶしに生きてるような感じでした。3人の共通が音楽が好きなことだったから自然な流れでバンドになったのかなと思います」

 〈永遠に続くジグソーパズルに飽きてきた時エンドロールから始まる映画眺めてた/心にグッとくるこんな曲が流れ出したんだ〉――まさに「ぼくはかいじゅう」に歌われているようにして、彼らは音楽と出会い、バンドを始めた。たとえば、ミニアルバムの最後に収録された「1998」で、彼はこう歌っている。〈革命を覚えたのは みんなが嘘をつき投げ散らかした恐怖を/整理する人が殺されかけた時だ 熱にうなされる時は今でも夢に見るんだ〉。ほかの楽曲とは少し毛色が違う「暗さ」と、その感情が合唱によって光に変わっていくようなアレンジは、バンドだからこそ鳴らせたものだろう。その意味では彼らにとって、このバンドを始めたことは間違いなくひとつの「革命」だったのだと思う。

東京少年倶楽部 - 1998【Music Video】

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