高橋李依、多彩な音楽性への対応力 イヤホンズや『LISTENERS リスナーズ』などから考察
イヤホンズで培われた幅広い音楽性を歌うスキル
また、その対応力の高さはイヤホンズの活動において強化されてきた可能性が高い。同ユニットにおいては非常に多彩な音楽性への対応を要求され続けてきており、この5年間は高橋含むメンバー3人の悪戦苦闘の歴史でもあった。さまざまなアプローチの試行錯誤を積み重ねてきた結果、意識せずとも臨機応変に対応できる基礎体力が備わったと見ても、あながち見当違いではないはずだ。
声優のシンガー活動において「ジャンルを限定せずに幅広い音楽性の楽曲を歌う」というスタイルは極めて一般的なものであると言えるが、ことイヤホンズに関してはその幅広さが若干常軌を逸しているところがある。ミュージカル調の楽曲やロックオペラなどを看板メニューにしている時点であまり普通とは言えない上に、イヤホンズの最新シングル曲「チュラタ チュラハ」(2019年)の異常性は群を抜いている。全編ウィスパーボイスをフィーチャーしたジャズテイストの実験的な楽曲で、これをシングルとしてリリースしてしまう攻撃力の高さは声優界随一だ。一応ハッキリとしたキュートなサビメロがあるため、メジャーフィールドに放つポップミュージックとしての体裁は保っているものの、「サビさえポップならいいんでしょ」とでも言わんばかりのアバンギャルドさは痛快ですらある。
このように、あさっての方向へ突き抜けた極端なプロデュースワークに揉まれ続けてきた高橋にとって、今さらブレイクビーツやオルタナティブロック程度では“挑戦”のうちにも入らないかもしれない。イヤホンズとは、声優シンガーユニットであると同時に、特殊な訓練施設のようなものでもあるのだ。
『からかい上手の高木さん』で見せたナチュラルテイストな歌声
蛇足ではあるが、高橋のソロ歌唱をまとめて楽しめる過去作の一例として、『「からかい上手の高木さん」Cover Song Collection』にも触れておきたい。2018年放送のTVアニメ『からかい上手の高木さん』では、いきものがかり「気まぐれロマンティック」やMONGOL800「小さな恋のうた」といったJ-POPの名曲の数々がエンディング曲として起用され、そのすべてを高橋がヒロイン・高木さん名義で歌唱した。それらの楽曲をアルバムとしてまとめたものが、1期と2期でそれぞれ1作ずつリリースされている。誰もが知るヒット曲を集めた良質なカバーアルバムとしての側面もあり、アニメをまったく観ていない人でも楽しめる作品だ。
体裁としてはキャラソンであるため、ここでの高橋も『LISTENERS リスナーズ』同様、あくまでキャラになりきって歌っている。であるが、日常を舞台にした作品に登場する普通の女子中学生というキャラクター性ゆえに、あまり作り込まれていないナチュラルテイストな歌唱を聴けるのが本作の特徴だ。「素のりえりー(高橋李依)が少し誇張して歌ったらこうなるんじゃないか」的な聴き方も可能だろう。また、HYのカバー「AM11:00」で彼女のラップが聴けるのもトピックのひとつ。イヤホンズ「あたしのなかのものがたり」とはまたタイプの違った、ラップ然としたラップにも注目してもらいたい。
■ナカニシキュウ
ライター/カメラマン/ギタリスト/作曲家。2007年よりポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」でデザイナー兼カメラマンとして約10年間勤務したのち、フリーランスに。座右の銘は「そのうちなんとかなるだろう」。