メジャーデビューシングル 『Altern-ate-』インタビュー

Hikaru//が明かす、ソロプロジェクト始動の舞台裏「Kalafinaの10年がなければ、H-el-ical//はなかった」

「KalafinaのHikaru」と「H-el-ical//のHikaru//」の物語

ーーところが先ほどのHikaru//さんの予想をいい意味で裏切って、2019年5月公開の「pulsation」は現在再生回数7万以上。公開当時ももちろん、界隈がちょっとザワつきました。

Hikaru//:「pulsation」から数曲はHikaru//の名前を伏せて、H-el-ical//という名前だけ出していたんですけど、すぐにYouTubeのコメント欄で「KalafinaのHikaruさんですか?」っていうメッセージをいただいて(笑)。

ーーまさに「KalafinaのHikaruさん」の影響力を考えたら、そりゃバレますよ(笑)。

Hikaru//:まずは正体不明のH-el-ical//というアーティストとして楽曲を上げてみて、一二三に正式に所属することになった時点で「H-el-ical//はHikaru//のソロプロジェクトです」って明かしたんですけど、そのときにも「やっぱりそうだと思ってました」っていうメッセージをたくさんもらいました。

ーーただ7万再生あるということは、その一方で本当にH-el-ical//の正体が誰かわからないどころか、Kalafinaの存在も知らないままに愛聴していた人たちもいるはずですよね。

Hikaru//:それもすごくうれしかったんですよね。もちろんKalafinaのHikaruがあってこそのH-el-ical//だし、Hikaru//なんだけど、H-el-ical//での楽曲配信はソロプロジェクトとしてのスタートだったので。いちアーティストとしてのH-el-ical//の楽曲が好きだって言ってくださる方がいたのは自信になりました。

ーーその「pulsation」のリリース後やH-el-ical//の正体を明かしたあとにも精力的にYouTubeで楽曲を発表していますけど、全曲、作・編曲を手がけているグシミヤギさんとはどのように楽曲制作を?

Hikaru//:最初の2曲はさっきお話したとおり、私をイメージして書いてもらったんですけど、そのあとは「東南アジアっぽい曲」とか「ライブで盛り上がりそうな曲」とか「ちょっと大地っぽい曲」とか、そういう抽象的なお話をさせてもらってます。

ーー話を聞いていて「すごいな」と思ったのが、確かにいちリスナーの耳にもH-el-ical//のディスコグラフィには「東南アジアっぽい曲」や「大地っぽい曲」があることがわかる。つまりグシミヤギさんはHikaru//さんのオーダーに120%の回答を出していると思うんですけど、失礼ながらそのオーダーっていうのは……。

Hikaru//:我ながら雑にもほどがありますよね(笑)。

ーーはい(笑)。なのになんでグシミヤギさんはその“雑なオーダー”に満点以上の回答を出せるんだと思います?

Hikaru//:なんでなんだろう? グシミヤギさんはいつも「H-el-ical//の曲を書くようになって自分の引き出しが増えた」っておっしゃってくださるんです。いつもムチャ振りをしているのに、ちゃんと「東南アジアっぽい曲」や「大地っぽい曲」を書いてくださるんですよね。だいたい1曲レコーディングしたら、「次はどんな曲にしようか」っていう話をグシミヤギさんと冨田さんとするんですけど、そのときに私が「東南アジアっぽい曲」みたいな抽象的なことを言うと、冨田さんが「じゃあこういう感じの曲かな?」って具体的なアーティスト名や楽曲名を出してくれる。そういうフォローがあるからなのかもしれないですね。

ーーで、Hikaru//さんは、H-el-ical//としての活動開始からちょうど1年になる今月、シングル『Altern-ate-』をリリースします。Kalafinaとして日本武道館2Daysのような大舞台を踏む人にとっても、ソロデビューってやっぱり心持ちが違うものですか?

Hikaru//:全然違いますね。だってKalafinaじゃないんですもん(笑)。これまでは梶浦さんに曲も歌詞も書いてもらって、WakanaさんとKeikoさんと一緒に歌って成立している音楽を作っていて、それをたくさんの方に愛していただいたわけですけど、今度はHikaru//オンリーじゃないですか。だから不安しかなかったです。

ーーH-el-ical//のYouTube動画が注目されて、昨年末の神奈川県民ホールでのライブが大盛況に終わっていてもなお?

Hikaru//:あの日のライブは皆さんのおかげで素敵な時間をいただきましたが、「Altern-ate-」をリリースする今はまた緊張と不安でいっぱいです(笑)。

ーーそのライブで、ソロとしてメジャーデビューすることと、デビュー曲が現在放送中のアニメ『グレイプニル』のオープニングテーマになることを発表しました。

Hikaru//:はい。

ーーで、『グレイプニル』のオープニング曲の「Altern-ate-」はこれまでのH-el-ical//名義の楽曲同様、Hikaru//さんの作詞ですけど、H-el-ical//としての活動前に作詞のご経験は?

Hikaru//:ないです。歌詞を書きたいという気持ちはありましたけど、Kalafinaは梶浦さんの楽曲を歌うユニットだったので。

ーーであれば、作詞歴1年?

Hikaru//:はい、作詞はまだ1年生ですね(笑)。

ーーじゃあなんで、こんなにテクニカルな言葉を紡げるんでしょう?

Hikaru//:えっ!? 本当ですか? ありがとうございますっ!

ーー詞の中に何度となく登場する〈二人で一つ〉というフレーズは、着ぐるみマスコットに変身するアニメの主役・加賀谷修一と、その中に入るヒロイン・青木紅愛の関係のことを歌っているんでしょうし、一方で〈猫の足音〉〈岩の根〉〈鳥たちは生唾飲む〉〈魚さえ息潜めて〉〈髭が棘みたいにいたい(彼女はもういない)〉〈熊の腱〉というリリックは、どれも『グレイプニル』の元ネタである北欧神話のキーアイテムですよね。

Hikaru//:はい。そこまで汲み取っていただけて、すごくうれしいです(笑)。

ーーそうやってアニメとその元ネタにちゃんと寄り添っている。だから「この人、歌詞を書くのが上手いなあ」って思ったんです。

Hikaru//:深読みが好きなんです(笑)。もともと私はアニメやマンガが好き……というか言ってしまえば、ただのオタクなんですけど……。

ーーInstagramを見ると一目瞭然ですよね(笑)。10冊くらいのコミック本の表紙を並べた写真や、アニメ『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』のライブCDのジャケットを撮った写真を投稿してますし。

Hikaru//:バレバレですよね(笑)。でもだからこそ自分がアニメソングの歌詞を書くときにも、いわゆるアニメソングっぽい要素がほしいと思っていたんです。私が作詞をしたころには原作のマンガが6巻まで出ていたんですけど、その6冊を何度も何度も読み返しながら自分の好きなセリフや印象的だったシーンをイメージさせる言葉を組み上げていったりとか。原作マンガ自体が素晴らしい作品だったので作詞には迷わなかったんですけど「アニメ・マンガ好きだからこそ書ける歌詞を書きたいな」とは思っていました。

ーーしかも〈二人で一つ〉は、Hikaru//さんとスタッフやお客さんからなるプロジェクト=H-el-ical//の決意表明とも読める。『グレイプニル』の物語の中にはHikaru//さんの想いを重ねられるシーンやセリフもあった?

Hikaru//:はい。アニメを観たり、マンガを読んだりする目的の中には、ファンタジーの世界に浸って現実逃避するみたいなものもあるんですけど、逆にアニメやマンガから目を離したあと、現実に戻ったときの勇気をもらうため、勉強させてもらうためっていうものもあって。「この作品のここは自分にも当てはまるな」「こういうときはこういう行動をすればいいのか」という学びがあるんです。『グレイプニル』であれば、Hikaru//という人は理想のHikaru//像を追い求めて歌っているんだけど、壁にぶつかることはあるし、それを仲間の力を借りてでも乗り越えなきゃいけない瞬間っていうのはあって。そうやって目の前の困難や悩みに立ち向かう登場人物の姿は私と重なるな、共感できるな、と思いました。

ーーただ不思議なのが、これまた歌詞の中に再三出てくるし、原作マンガやアニメにも出てくるセリフではあるんですけど、〈この物語の主役じゃない〉ってHikaru//さんには似つかわしくない言葉なんじゃないかな? とも思うんです。

Hikaru//:そうですか?

ーーだってKalafina時代もそうだし、H-el-ical//での神奈川県民ホールのライブもそうだけど、常にステージの真ん中に立っている人じゃないですか。

Hikaru//:ただ、それこそKalafinaで学んだことなんですけど、主メロじゃないところを歌うこともあるじゃないですか。WakanaさんやKeikoさんがリードを取っているときはハモリを歌うことになるんですけど、そこで自分の立ち位置を考えるんです。ちゃんとリードとのバランスをとることが大事だし、とはいえちゃんと「Hikaruが歌っている」ということはお客様に伝わらなきゃいけない。常に「今の自分の役割はなんだろう?」ということを意識して舞台に上がっていたので、マンガやアニメの中の〈この物語の主役じゃない〉っていう言葉も自分にとっては共感できるものだったんだと思います。

ーー一見ネガティブな言葉のように響くんだけど、実は主役じゃなくてもステージに上がる意義はあるし、そこで輝くことはできるというポジティブなメッセージだ、と。

Hikaru//:主役だけでなく、その周りにいる役も物語を紡ぐには必須ということですね。

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