『Answer』インタビュー
家入レオ、葛藤の末に見出した“答え”は「ひとりぼっちになる勇気」ーー初のEP『Answer』を語る
シンプルで洗練されたサウンドに乗せて“あたらしい僕”を清々しい声で歌い上げる。家入レオの新曲「Answer」から聴こえてきたのは、デビューから9年目を迎えて、またひとつ大きな扉を開け放った彼女の喜ばしい現在地だった。
5月13日にリリースされる『Answer』はカップリングにエレファントカシマシの「悲しみの果て」や山口百恵の「秋桜」といった名曲カバーを5曲収録し、初のEPでのリリースとなる。今回のインタビューでは13歳で歌手を志し、日本のポップミュージシャンとして駆け抜けてきた彼女が経験したここ数年の苦悩や、約1カ月の海外旅行で取り戻した自分自身など、この革新的な1曲「Answer」が生まれた経緯をじっくり語ってくれた。(上野三樹)
「同じことを繰り返しているように見えても、その時々で全然違う場所にいる」
――今作「Answer」はレオさんにとってEPという形態では初めてのリリースになります。カバー曲を含む新たなアプローチの作品になりましたが、どういうアイデアから始まったものでしたか。
家入:私とスタッフさんたちとで集まって、8周年を無事に迎えることができて9年目をどう走っていこうかという話をしている時に、また新たな目標や課題が見つかって。13歳の時に音楽の道に進みたいと思ってから、夢が叶ったというよりもネクストステージに来ているんだなということを感じたんです。これから新しい挑戦をたくさんしていきたいなという時に、じゃあまず作ったことのなかった形態、EPをリリースしてみようと。
――今は家入レオとしてネクストステージに来てるんだなということを感じていたんですね。
家入:2019年はかなりターニングポイントでしたね。前作シングル『未完成』を作り終えたところまでが一区切りで、そこで「抜けたな」って感覚がすごくありました。調子が良い時はいいんですけど悪い時もあり、それが3〜4年続いた感じがあったんですけど、今年に入ってだんだん勘を取り戻してきたというか。この「Answer」という曲にも込めているんですが、今の自分に何がプレゼントできるんだろうと考えた時に、ひとりぼっちになる勇気をプレゼントしないと手遅れになるぞと思って。というのも、ずっと「どこに行けば私は私らしくいられるんだろう」と思っていたけど、やっぱり自分に足りないものがあったんだと思う。ちゃんと土台をもう一度作り直さなきゃいけない時期に来てるなっていうのを、自覚したんだと思います。
――調子が悪い時があったというのはメンタル的に?
家入:そうですね。「クォーターライフ・クライシス」という言葉があるんですが、20代後半から30代半ばにかけて自分で自分の価値を問いすぎてしまう現象のことを言うんです。例えば、大学を卒業して最初の2〜3年は会社に慣れることに精一杯だけど、そこを過ぎるとこの会社で自分は何がしたいんだろうと考え始めたり、地元の友だちは結婚して子供を授ったりして新しい人生が展開し始めたりする中で悩んだり焦ったりする。私は人より少し早めに社会に出ていたので、クォーターライフ・クライシスが20歳を過ぎたあたりからきていて。やりたいことをやらせてもらっているんだけど、ちゃんと力を出し切れているんだろうか、チャンスにちゃんと乗れてるんだろうかというのを考え始めてたんだと思います。
――「未完成」を作って区切りをつけられたのは、どういう感覚でした?
家入:悩んでいても仕方がないなという気持ちが大きかったです。もちろん、3〜4年悩んでいる間にも何度も自分の中で答えが出たりしていたんですけど、それでも悩んでしまう。自分を変える大きなきっかけになったのが「未完成」の制作と同じタイミングでありました。
――「未完成」はドラマの内容にしっかりと寄り添いながら、なおかつご自身が今歌うべきことにも向き合って作ることができたと思うんですけど。それって実はなかなか難しいことじゃないですか。
家入:それができる理由はふたつあって。ひとつは私は運が良いということ。私はタイアップのお話をいただくことが多いので「ちゃんと自分がやりたい音楽をやれてるんですか?」ってよく聞かれるんですけど。不思議なことに、タイアップの曲と自分がやりたい音楽が鳴らせる環境が合っていることが多いんです。もうひとつは脚本を読み込んで、ドラマのプロデューサーさんとたくさん話してコミュニケーションを取るから、この台詞だったらこういう曲が流れてた方がいいなとか考えたりもします。その両方が大事な気がする。自分がやりたい音楽を鳴らすことはもちろん大事だけど、作品のファンの方にも面白いと思ってもらえることを表現したい。ただ曲を作りたいだけならひとりで作って発表していくスタイルもありだと思うので、そういう求められている中にやりたいことを織り交ぜる化学反応を自分が楽しめているというのはあるのかもしれないです。
――新曲「Answer」はサウンドも声も言葉も、全てが清々しく新たな幕開けを感じさせる仕上がりで、初めて聴いた時には鳥肌が立つほど、聴いていて嬉しい感触がしました。この曲はどんな制作でしたか。
家入:嬉しかったです、私も。「やっとここまで来た!」というか。たとえば、夜明け前の一番暗い時に歌っているのが「未完成」だとしたら、朝日が見えてきた中で久しぶりに歌詞を書けた感覚だし、今回は作曲にも携わったので。私はたぶん、「音楽が好き」というのは変わらないんですけど、その都度、音楽スタイルは変わっていくタイプだと思うんですよね。それこそ昨年リリースしたアルバム『DUO』は、自分で作詞作曲した曲は2曲だけど他はアーティストやクリエイターの方たちに提供していただいた曲で。提供していただきながらも自分でディレクションして、家入レオはこういう風に見せた方が魅力的に映るとか、みんながより喜んでくれるはず、という気持ちで制作に関わったんですけど。そこを通過したからこそ、今は自分で1枚のアルバムを作り込みたいという原点に戻ってきていて。次のアルバムはそれを軸に制作しようと思っているし、いきなりアルバム『DUO』からそこに飛ぶよりは、「Anwer」というワンクッションを挟んだ方がみんなにもストーリーが伝わりやすいかなと思いました。
――なるほど。新しい幕開けとしての1曲が今なら書けると思った?
家入:書きたい、と思いました。この曲の最後のサビで〈笑って また泣いて 繰り返してゆく〉というフレーズがあるのですが、笑ったり泣いたりして同じことを繰り返しているように見えても、その時々で全然違う場所にいる。シンガーソングライターとしてデビューした17歳の頃に作ったアルバム『LEO』があり、いろんな過程を経て、次のアルバムはまたシンガーソングライターとしての自分が戻ってくる作品になると思う。原点回帰だね、って周りの人は言うかもしれないですけど、違うんです。それまでの全ての過程があって、また選択した場所だから。だからアルバム『LEO』の頃とは違う私だし、それは生きていくこと成長していくことの「Answer」な気がします。
――「未完成」に続き、「Answer」の作詞は岡嶋かな多さんとの共作ですが、作詞家さんと一緒に言葉を紡ぐ感覚はいかがですか。
家入:回を重ねるごとに良くなっていきますね。岡嶋さんとは音楽的なことは本当に話してないんですよ。仕事の話、専門的な話も必要だけど、それよりもその方自身が、どういう音楽が好きで、どんな美学を持っていて、どういう食べ物が好きなのかとか、そういうパーソナルな部分を理解していないと、そもそも一緒に作品は作れない気がしていて。だから岡嶋さんがどういう風にこれまでの人生を歩まれて来られたかとか、自分のことももちろん、色んなことを話しました。そうすることで「だったら今、表現するならここの語尾は女性らしさよりもっと中性的な感じですよね」とか、制作においてもチューニングが合っていくんです。そういうことをしないと、表面的なカッコ良さとかは出せても、そこに人間的な味やコクが宿らなくなると思います。岡嶋さんは歌詞における私のこだわりポイントもすごくわかってくださっています。
――そしてこの曲はアニメ『メジャーセカンド』第2シリーズ(NHK Eテレ)のオープニングテーマとしての役割も制作する上で考えられたと思うんですが。レオさんご自身が小学生の頃にアニメを見ていたというお話も面白いですね。
家入:はい、小学生の頃の私は活発で、野球もサッカーもしていたので楽しく見ていました。今回の『メジャーセカンド』では女の子も野球をするんですが、そこにジェンダーレスな時代性も感じました。アニメは子どもにとって道徳心も育ててくれるものなので、そういったところも含めて、あらためてこの作品の素晴らしさを感じました。そして今の私自身が悩んでいる「壁を越えたい」という想いはこの作品のメッセージと同じ気がしたんです。何かに打ち込んでいる――その対象が野球であり、私にとっては音楽でありと違うだけで。野球だってずっとみんなで集まって練習していればいいのかと言ったらそうではなくて。ひとりひとりが家に帰って壁打ちしたり素振りをして、ひとりひとりが孤独になることでチームで集まった時に最強になる。私自身もずっと家で歌詞を書いていたりすると、どこにも属していない気がして夕暮れを見るといたたまれない気持ちになったりするんですけど。でも、そうした孤独な作業の先でしか、みんなとは繋がれないんだなと思いますし。
――そうした孤独な時間もポジティブに捉えられるようになってきたのかもしれないですね。
家入:そうですね。本当に繋がるって、そういうことなんだと思いました。