緑黄色社会、アルバム『SINGALONG』収録曲から放たれるエネルギー 繰り返し聴きたくなる強みを分析
緑黄色社会――ボーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボードという構成の4人組のバンド。ポップスとロックの境目を行き来するサウンドの自由度と、長屋晴子(Vo/Gt)の圧倒的なボーカル力が魅力だ。彼らがメジャー初となるフルアルバム『SINGALONG』をリリースした(ちなみに愛称は“リョクシャカ”)。
2017年1月にリリースされた1stミニアルバム『Nice To Meet You??』以降、次々と作品を世に送り出してきたリョクシャカ。約3年の間に、ミニアルバム3作、アルバム1作、EP1作、シングル3作(デジタル配信シングルを含む)と、かなりハイペースである。しかも、作品を追うごとに、楽曲のクオリティがアップしている。2013年に『閃光ライオット』で準優勝を獲得して以降、曲作りとライブを通して、しっかりバンドや自分たちの音楽と向き合って来たことが、この3年で結実し、本作『SINGALONG』で、一気に芽吹いた印象だ。その様は、例えるなら、ジャックと豆の木の如く。ぐんぐん真っ直ぐ伸びて、あっという間に雲を突き抜けていくような勢いがある。
さて、おさらいはこれくらいにして。最新アルバム『SINGALONG』について触れていこう。
フェードインする無機質なブレイクビーツの響きから、水面に落ちた水滴の様に、繊細なコーラスワークが広がっていく。包容力あるキャッチーなフレーズを〈ナナナ~〉で繰り返す。ライブでの“シンガロング”に直結するようなフレーズだが、クワイアを思わせるメロディとアレンジが面白い。リョクシャカの思う“シンガロング”が、他のバンドとは少しニュアンスの違う“シンガロング”であることが、明確に伝わってくる部分だろう。そして最後は、混沌とした渦を思わせるサウンドで終わるーーこれが、本作のオープニングを飾るオーバーチュア「SINGALONG」だ。
1分20秒の短い時間の中で、じつにドラマチックなストーリーを描き出している。この最初の1曲からもわかるように、サウンド面、ルーツ面だけに注目すると、リョクシャカの曲は、1曲の中でも音楽的な情報量がとても多い。ここから、メンバーのルーツや個性が異なることが推測できる。
さらに彼らは、メンバー4人全員が作曲を手掛けている。ゆえに、曲調のバリエーションも多彩。だが、特筆すべきは他にある。各作曲者が同じ方向を向いているということだ。メロディのわかりやすさ、サビの開放感、さらにメランコリックになってもマイナーにならない絶妙なコード進行などに、徹底したこだわりが伺えるのが、その証拠と言えるだろう。前述した情報量の多さを感じさせないサウンドメイクも、おそらく同様。メンバー同士がお互いを信頼し合い、バンドの方向性について、しっかりと共有しているからこそ成り立っている楽曲ばかりなのだと思う。
そして、この多彩な楽曲群をがっちりまとめているのが、長屋晴子のボーカリストとしての存在感である。1曲1曲、じつに、生き生きとした歌声を響かせている。クリアな声質を持っていながら、高音でもキンキンしないのが最大の魅力だ。キーンと抜けるようなハイトーンを苦手とする音楽リスナーは、いつでも一定数、存在する。そこが無い長屋の歌は、声質そのものがマジョリティに刺さるものであり、このバンドの普遍性とスケール感を担っている。
……と、長屋の歌について持論を展開してみたが、エビデンスも必要ですよね。というわけで、本作の中から見えて来る長屋というボーカリストのすごさを具体的に書き出してみたい。