オンライン上のフェスやイベントが果たす意義 『BLOCK.FESTIVAL』『新生音楽 MUSIC AT HOME』を観て

新たな音楽と出会う場となった『新生音楽(シンライブ)MUSIC AT HOME』

 離れて暮らすことを余儀なくされている人々の気持ちを歌の力でつなげるコンセプトのもと行われた『新生音楽(シンライブ)MUSIC AT HOME』。3月24日に高野寛と原田郁子(クラムボン)が無観客ライブをYouTubeで生配信したが、その後緊急事態宣言が出されたことでミュージシャンが自宅で録画した動画をリスナーと共にリアルタイムで楽しもうという企画へ変化した。4月12日に行われたイベントは高野寛と緒川たまきが音声で自宅から司会を務め、17組18名の貴重なオリジナル動画が配信された。

 ライブは4組×4ブロックで構成。1組目・曽我部恵一の、いつどこであれ24時間表現者といった佇まいに引き込まれる。優河、高田蓮、青葉市子と、いずれもアコギ弾き語りで逆に各々の存在感が窺えた。青葉はこの日のために「星の指先」という新曲を書き下ろして披露した。続くブロックでは浜崎貴司(FLYING KIDS)、寺尾紗穂、おおはた雄一、青柳拓次(LITTLE CREATURES)が登場。3つ目のブロックでは、今春高校2年生になったばかりのKEEPONや、角銅真実、スネオヘアー、折坂悠太とbutajiが登場。唯一のコラボとなった折坂、butajiの2人による「トーチ」のハーモニーは貴重だった。

 最後のブロックには暗闇に近い部屋から君島大空が「夜を抜けて」を歌い、上の世代から「すごい子を発見した!」というコメントも。最年長の鈴木慶一は最もアグレッシブな構成を見せ、塩塚モエカ(羊文学)はシンプルな弾き語りを聴かせ、そして愛犬を観客に歌う七尾旅人はこの状況を反映した新曲「今夜、世界中のベニューで」を披露した。どのアーティストもパーソナルな場所でのシンプルな歌と演奏である分、その人自身がより浮き彫りになった印象だ。締めは高野寛が「確かな光」を演奏。それぞれの孤独に寄り添う新しいタイプのオンラインイベントで、溜まったストレスを涙で洗い流した人も多かったことだろう。

 高野は同イベントは投げ銭システムにせず、気になったアーティストがいたらストリーミングで他の曲も聴いてみる、各々のサイトに飛んでグッズを購入することなどで、活動をサポートして欲しいと話していた。控えめなアプローチだが、新しいアーティストとの出会いは確実にあったはず。『シンライブ』がレコメンドする信頼感も確立していくだろう。

『新生音楽(シンライブ) MUSIC AT HOME』4月12日(日) 18:45開場/19:00開演

 今後、さらに増えていきそうなオンラインイベント。医療従事者へのアムネスティーである『One World』は世界の音楽ファンをリアルタイムでつなぎ、連帯する感覚をもたらした。日本でライブ活動を主軸に置く規模感のアーティストにとって、オンラインイベントはオフラインライブの代替物ではないが、活動を支える原資を得る手段でもある。その意味で、LINE LIVEのコインを用いたドネーションを可能にした『BLOCK.FESTIVAL』のあり方には継続の可能性を感じる。また、ceroの有料ライブ配信のプラットフォームに用いられた「ZAIKO」も、イベントに応用可能だろう。ライブへのリアクションとして追加で投げ銭できるシステムなので、オンラインなりの参加感と、より多くアーティストへ還元できることの意義も大きい。引き続き、イベントの主旨に応じた柔軟なビジネスモデルが模索されることだろう。

■石角友香
フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Qetic」「SPiCE」「Skream!」「PMC」などで執筆。音楽以外にカルチャー系やライフスタイル系の取材・執筆も行う。

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