オーディションプロジェクト「Promimi」が広げる“才能見つける楽しさ” nana music黒川恭氏、日本コロムビア石田浩太氏に聞く
披露する機会のないスキルを発信できる
ーー単に新しい音楽や才能ある人を見つけて、それを一般の人におすすめするということであれば、音楽媒体の編集者や音楽ライターがやっていることでもあるわけですけど。
黒川:そういうプロの方はそれをビジネスにしていますよね。僕らが求めるキュレーターは、ビジネスでやっている人ではないというところが大きいです。だからキュレーターには、自分が本当に良いと思ったタレントを気楽にトスアップすることを、一つのエンタメとして楽しんでほしい。“人の才能を見つけるという新しい遊び”を、弊社としては提供したいと思っています。もちろんプロでやっていらっしゃる方に参加していただくことは全然かまいません。
ーー素人の目線が求められていると。
石田:10代系のイベントに行くと、すごく面白い方がたくさんいるので、入り口として大事です。ただそれを人に見せるものとして作ることに関してはやはり音を作るプロや演出をするプロなどが入ったら、もっとエンターテインメントとして成立するものになるんじゃないかと思って。「Promimi」はそこを上手く融合したプロジェクトなんじゃないかと思います。
黒川:これはタレントユーザー視点の話になりますが……YouTubeやライブ配信サービスでは、プロの手を借りることなく人気が出たりそれが仕事になっている人も多いですけど、それができるのはやっぱり限られた人なんです。そもそもYouTubeやライブ配信で歌をやること自体が、普通の人にとってはとてもハードルが高くて勇気がいることで。YouTubeだと映像を撮って編集する必要があって。もちろん撮ったものをそのままアップすることも可能ですけど、YouTuberさんのクオリティが非常に高いので、そのなかに入っていくには画質が良くするためとかレコーディングするための機材を揃える必要があって。でも「cue」は動画を撮る必要はないし、「nana」と連携することでスマホひとつあればレコーディングした歌を張り付けることができます。機材を揃えたりレコーディングしたりしなくても、スマホひとつでデビューに向けたスタートラインに立てます。そうやって間口が広がることによって、YouTubeやライブ配信にハードルを感じている人がどんどん入ってきて、そこで新しいマッチングが創出できたらと思っていますね。
ーーキュレーターが間に入って、実際にタレントユーザーと企業のマッチングに成功した後は、そこに「cue」はどのように関わっていくんですか?
黒川:「cue」はあくまでもタレントユーザーとスカウトユーザーをマッチングするためのプラットフォーム提供なので、それ以上はタッチしません。スカウトユーザーとタレントユーザーに直接やりとりをしていただき、その内容にはまったく関わらないんです。もしそのマッチングでデビューが決まっても、弊社が版権を持つとかそういうこともありません。でも「cue」のサービスで企業さんとマッチしてデビューする人が出れば、サービスとしては大きな意義があると思うので、ぜひ出てきてほしいです。宣伝にもなりますし(笑)
ーーYouTube発やニコニコ動画発のように、「cue発のメジャーデビュー」が当たり前になるようにと。
黒川:クラスメートというユニットなど、「nana」発でメジャーデビューされた方はすでにいますから、可能性は大いにあると思います。
ーー認定マークを与えるかどうかの審査はお二人だけで?
石田:黒川さんと僕と、あとコロムビアのスタッフ数名でしたいです。昨年弊社で開催したオーディション「Project110」での経験なんですが、審査員が多すぎるとバランスを取ってしまう傾向が出てしまうんです。
黒川:丸くなっちゃうんですよね。
石田:オーディション方式の善し悪しをすごく問われる結果になりました。そういう反省点もあって、審査員は少数精鋭が良いんじゃないかと。だから、本当に変わった子に参加してほしい。一つのジャンルだけめちゃめちゃ詳しくて、それ以外は一切ダメみたいな(笑)。
黒川:R&Bだけなら1万曲聴いて誰よりも耳が肥えているという子とか。もしそんな子がいたらそれはすごいスキルなんだけど、そのスキルを披露する機会って世の中にはないわけです。あってもプレイリストを作って公開するくらいしかない。そういう子が素人のなかから探し出してきたR&Bシンガーがいたら、絶対に聴いてみたいじゃないですか。しかも本人はそれをレコード会社に推薦できるわけだからすごく画期的なこと。面白くてチャレンジングな新しい取り組みだと思っています。
石田:実際のところ、どうなるのかやってみないと分からないのですが、温度感を感じたいですね。商業音楽という観点からは、いろんなところに目を向けるべきだと思っているので、とても意義があると思っています。
クリエイティビティが欲しい
ーーネットの口コミからヒットが生まれるというものとも、ちょっと違うんですよね。
黒川:ネットの口コミはみんなの力でヒットを生むものですけど、それよりも選ぶことにセンスを持った人から、ヒットが生まれるというイメージが近いんじゃないかと。100万人が良いと言ってるから良いのではなく、たったひとりのセンスのある人が良いと言ってるから良いみたいな。
ーーセンスがいかに尖ってるか。
石田:最初は「え?」って思われても、それがだんだん良いよねってなっていくかもしれないし。ただこういうタイプのオーディションだとボカロ曲が多くなりがちなので、ひとつのジャンルに限らず、いろんなジャンルからスペシャリストが出てきてほしいですね。
ーーキュレーターが企業にトスアップする際に、推薦コメントも付けられるんでしょうか。
黒川:コメントを付ける機能はありません。サービスを始めるにあたって、参加企業さんからアンケートを取ったのですが、「いらない」という声が多かったんです。企業さんから「つけて欲しい」と需要が高まれば、仕様を変更することもあるとは思います。
ーー企業側は、まっさらな状態で音楽を聴きたい?
黒川:変にバイアスをかけたくないのもあるでしょうし、「推薦コメントを書く時間を使ってもっと探してほしい」という声もあって。とは言え数を打ちゃ当たるでは困るので、打席数よりも打率に重きが置ける仕組みを模索中です。今のところはトスアップする本数に制限を設けてはいませんが、それもオーディションがスタートしてから状況によって変わる可能性もあります。
ーー「cue」は新たな才能発掘の場であり、キュレーターは自分の個性を発揮する新しい場になる。こういったSNSから生まれる音楽シーンの今後については、どう思いますか?
黒川:自分がやる気になれば動画をあげてそれが仕事になるという今の時代は、インターネットがもたらしてくれた世界ですごくすてきなことだと感じています。その一方で本気にならなければ打席に立つことが難しいのも事実で、それが「cue」というサービスを立ち上げた原点です。きっとその両輪が回ることで、本当に幅広い人たちに機会を与えることができて、きっとそれは音楽シーンにとっても有益なことじゃないかって思っています。
「cue」には企業でも登録できて、エリア検索もできるので、例えば地元のカラオケ大会の主催者が出場者を探すこともできるわけです。タレントユーザーのなかには、プロになりたいというよりは自分の歌の価値を知りたいという人もいるだろうし、上はメジャーデビューから例えばカラオケ大会まで、色んなゴールがあれば良いと思います。
ーー「cue」がモデルケースとなって、似たようなサービスが増えるかもしれない。
黒川:そもそも弊社には「nana」があり、それと連携することで可能になっているサービスなので、こういうサービスを作りやすい土壌があったと思います。でも、同種のサービスが集まって界隈を盛り上げることができたらそれは面白いと思いますね。
石田:ネットにはチャンスがあって夢がある。でも便利な一方、検索すればすぐ答えが出てしまうので、想像したり考えたりすることが少なくなっている。オーディションを開催する側の経験から、最近はクリエイティビティに課題のある方が増えていることを感じていて。例えばギターはめちゃめちゃ上手いけどアドリブが下手とか。バンドもテクニックがあるしコード進行も凝っているけど、その先のクリエイティビティが欲しいと感じています。音楽業界に限らずクリエイティブの業種には想像力が必要で、育成アーティストにも、そのことはいつも話しています。ただみんな演奏はめちゃめちゃ上手いですけどね、わざわざ楽器店に教則本を買いに行かなくても、YouTubeで見てすぐ練習できるわけですから。「cue」にタレントユーザーとして登録する方は、その部分を追求して欲しいですね。
黒川:きっと今回募集するキュレーターのなかでも、そういう目に見えないクリエイティビティを見抜けるかどうかは差がつくポイントかもしれないですね。
石田:今回のオーディションでトスアップしてもらった曲は、僕は全部聴きますので、タレントユーザーさんにもキュレーターさんにも頑張ってほしいです。