Plastic Tree『十色定理』が示すバンドの現在地 静と動、伝統と革新が散りばめられた音楽性に注目

 アルバムの冒頭を飾るのは、長谷川のペンによる「あまのじゃく」。7分を超える大作で、シンセやギター、自然音などが織りなすアンビエントなオープニングが2分ほど続き、満を持す形でバンド演奏が始まるというドラマティックな展開だ。彼らがフェイバリットに挙げるThe Cureにも通じるような幻想的なギター、突然転調するサビ、そして有村による美しく艶やかなファルセットボイスなど、「これぞPlastic Tree」と言いたくなるような要素が詰まっている。一転して「メデューサ」は、先行シングル曲「インサイドアウト」と双璧をなすエイトビートを基調とした、ソリッドかつ疾走感溢れるロックナンバー。細かいブレイクや、機関銃のような佐藤のドラミングはライブで盛り上がること必至だろう。

Plastic Tree/「あまのじゃく」MUSIC VIDEO
Plastic Tree/「メデューサ」MUSIC VIDEO

 最新シングル曲「潜像」に続く「C.C.C.」は、有村が作詞作曲を担当した本作の中で最もポップな楽曲。まるでDinosaur Jr..のようなジャンクなギターカッティングに導かれ、90年代のマッドチェスター・ムーブメントを彷彿とさせるグルーヴィなリズムが雪崩れ込む。そして、跳ねるようなメロディライン、広がりと奥行きを感じさせるギター・オーケストレーションが聴き手の心を一気に解放する。途中、有村の声を一文字ずつ左右にパンニングするなど音響的な遊び心もあって楽しい。かと思えば佐藤が作詞作曲を手掛けた「remain」は、アーシーなギターリフを全面に出した異色なナンバーで、アルバムの中で重要なアクセントとなっている。さらに、ケレン味たっぷりのシンセリフとハンドクラップを導入した、“プラ流ディスコ”とでもいうべき「スウィング・ノワール」、シンセのアルペジオを大々的に取り込んだエレクトロ・チューン「Light.Gentle.and Soul.」など、これまで同様、否、これまで以上に振れ幅の大きさ、引き出しの多さを見せつけているのだ。

Plastic Tree /「C.C.C.」MUSIC VIDEO
Plastic Tree/「remain」MUSIC VIDEO
Plastic Tree /「スウィング・ノワール」MUSIC VIDEO
Plastic Tree/「Light.Gentle.and Soul.」MUSIC VIDEO

 そして、静と動を行き来しながら怒涛の轟音ギターを重ねていくシューゲイズ曲「月に願いを」を経て、ギターの煌びやかなアルペジオがどこか晴れやかな余韻を残す「エンドロール。」をもってアルバムは幕を閉じる。ファンが求める「Plastic Treeらしさ」に応えつつも、新たな試みや実験的なアプローチを積極的に行いながら、バンドの定義を常にアップデートし続けてきた4人。そのアティチュードは本アルバム『十色定理』でも健在で、伝統と革新の両軸があったからこそ、結成から27年目を迎える今もなお、彼らは進み続けているのだろう。

Plastic Tree/「月に願いを」MUSIC VIDEO

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。ブログFacebookTwitter

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