K-POPカバーダンスが日本の若者を魅了する理由 ブームは“憧れ”から“一体化”のフェーズへ
韓国なら自分の夢が叶えられると思って海を渡る若者は、実は以前からそれなりにいた。古くはガールズグループのひな型を作ったと言われるS.E.S.のシューや、後にソロで活動するSugar出身のアユミ(伊藤ゆみ、元ICONIQ)など、例をあげればきりがない。また、日本で成功を収めたUNIONEのJINも、10代の頃は韓国でプロになろうとYGやSMといった大手芸能会社のオーディションを受けたそうだし、K-POPイベントの司会でおなじみのNICE73(ナイスナナサン)も、かつて韓国の事務所と契約し現地でシンガーとなっている。
しかし昔と違うのは、今はK-POPアーティストになるためには歌とともにダンスもかなりのレベルを要求されるということだ。これは2010年代に入ってから顕著な傾向であり、日本で最初に巻き起こったK-POPブームをけん引した少女時代やKARAなどの活躍によるところが大きい。
現在のK-POP支持層の大半はこうしたグループをネットやテレビを通じて物心ついたときから親しんできた世代である。しかも学校ではダンスの授業も当然のようにある。それゆえに日本の若者の多くがK-POPのきらびやかなパフォーマンスに魅力を感じてカバーしようとするのもうなずける。
最近さらなる変化を実感することがあった。それはオーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN』(GYAO!/TBS系)で誕生したボーイズグループ・JO1のメンバーだ。サウンドもビジュアルもK-POPの要素を取り入れている。もちろんそれだけでは驚かないが、普段の会話のノリも韓国的だったことに新鮮さをおぼえた。例えば「ケミ(케미)」。ケミストリーの略で、「お似合いのカップル」「仲良しペア」という意味だ。韓国でよく使われる言葉だが、彼らはさらりとトークの中に入れてしまう。
K-POPというジャンルはダンスを筆頭にメイクやファッションなど、さまざまなものが憧れの対象となってきたが、今の若い世代はK-POPアーティストの普段の立ち振る舞いや話し方さえも吸収しようとしているのだろう。単なる“憧れ”から、同じような存在になりたいという“一体化”へ。日本のK-POPブームは早くも第2のフェーズへ進もうとしているのだ。
■まつもとたくお
音楽ライター。ニックネームはK-POP番長。『ミュージック・マガジン』や『ジャズ批評』など専門誌を中心に寄稿。ムック『GIRLS K-POP』(シンコー・ミュージック)を監修。K-POP関連の著書・共著もいくつか。LOVE FM『Kore“an”Night』にレギュラーで出演中。