とけた電球、みなぎる野心と信頼の証 新体制初EP『WONDER by WONDER』を語る

とけた電球、みなぎる野心と信頼の証

ポップスとしての強度とフレーズの新しさ

境直哉

ーーそして後半3曲は恋愛についての歌で、このバンドらしい王道ポップスの強みもちゃんと押し出していますよね。前半2曲には新しさを出していきたいっていう想いが表れているから、そのコントラストが今作の大きな魅力だと感じました。5曲のバランスについてはどう思われますか?

境:やっとそういうことができたなって思っていますね。僕が弾くのはキーボードですけど、結構ギターロックが好きなんですよ。UKっぽいサウンドが好きだけど、そういうものに対する憧れって元々このバンドでは出せなかったし、趣味でいいかなっていう感覚だったんですけど、それを出せたのが「トライアングル」と「未来」だったのかなって思います。逆に後半3曲に関しては、アシッドジャズとかAORみたいな得意なパターンをやっていたり、あとはポップスとしていきものがかりが好きなんですけど、そういうJ-POP的な楽器の重ね方、展開の作り方って伝統芸能的ですごく美しいと思うんですよね。その追求はこのバンドでやっていきたいですし、「ドラマ」とかはそういう趣向が凝らされている曲かなって思います。

ーーラストの「恋の美学」にも今の話に通ずる部分がありますよね。優れたJ-POPであり、ファンクのテイストもありつつ、アウトロのセッション感ある演奏を聴いているとロックバンドとしてのカッコよさも兼ね備えていて、いろんな要素が詰まってる楽曲だと思います。

よこやま:「恋の美学」は僕がサポートの時からでき上がってた曲なんですけど、自分が弾いたものに対して岩瀬から「もうちょっとファンクっぽくペペッてやってよ!」っていう注文があって(笑)、それを自分なりに上手く消化できた曲でした。おっしゃっていただいたアウトロのところは、みんな好き勝手に楽しんでる感じなので、演奏って楽しいんだぜ! っていうバカみたいなことも言えるし、歌とのバランス含めていい感じに調和した曲だと思います。

ーーわかります。ここまで楽しさが真っ先に伝わってくる曲も新鮮ですよね。

よこやま:僕らってスタジオでそれぞれを囃し立てる瞬間とかがあって(笑)。髙城にみんなで「お前もっとやっちゃえよ!」って言ったりとか。

岩瀬:髙城が一番それ言われてるかもしれないね。もっとすごいフィル叩いてよ! とか(笑)。

髙城:(苦笑)。

よこやま:でも、そう言われてもみんな自然にできるんですよね。

髙城有輝

ーーそこに関して髙城さんはいかがですか。「恋の美学」に限らず、「トライアングル」ではサビ裏でものすごくカッコいいフレーズを叩いてますよね。

髙城:それこそ、みんなから「すげえのやってよ」って囃し立てられた延長ですね(笑)。歌が軸だっていうのが共通認識だからこそ、難産なフレーズでした。フュージョンとかジャズファンクも好きなので、ついついそういうフレーズやっちゃうんだけど、みんなからわかんないって言われると「大衆に迎合しなきゃいけないのか。やれやれ」ってなる(笑)。

全員:ははははは。

髙城:でも最近エンジニアさんに「曲が呼んでるものをやらないのは失礼だよ」って言われて、その言葉を大事にしているんですけど、「恋の美学」のサビ前のフィルとかは、この曲があるからこういう解釈なんだなって思いながら叩くことができて。あとは、こうだいがフィルとかバスドラムの抜けたところを結構気づくから怖いんですけど(笑)、どこに何の音を入れるか、一音一音まですごく丁寧に作れたなっていうのは実感しました。

とけた電球の未来「バンドは自分の存在意義」

ーー今作のアンサンブルの変化を象徴しているのが、今の髙城さんのお話だったと思います。今作を経たことで、とけた電球はどうなっていくと思いますか?

境:こうだいが入ってから、こういうアレンジや曲がいいんじゃないかっていうディスカッションができるようになったので、ここからもっともっと深めていけるんじゃないかなって思います。1年後くらいにこのEPを振り返った時に、面白いEP作れてよかったなって思えるんじゃないかなって。

よこやま:そうだね。この『Wonder by Wonder』は僕が入って初めてのEPだから、変化の要因が割と自分にあるのは自覚していて。中学から一緒のメンバーもいるけど、いきなり慶応でもマンドリン部でもない僕が入ってきたから(笑)、今までと違う要素だし、認めてもらえるかって不安に思いながら作ってたところはあって。でも、こうして言われたことを聞くとすごく安心するし、すでに自分の中の自信に繋がってますね。もっとみんなで楽しくやりつつディスカッションもちゃんとして、バンドに寄り添えるようにずっと作って行きたいなって思える1枚になりました。

髙城:自信になったっていう意味では僕も同じですね。「焦がれる」は初めて映画とコラボさせていただいて、脚本読んだ上で作ったものをこうして出すことができたし、バンドの得意なところとか「ここはこう行くよね」っていう共通認識を再確認できた部分もあって。「未来」みたいな歌をちゃんと歌えるバンドだし、「ドラマ」や「恋の美学」みたいなポップスもあるし、その振れ幅をちゃんとやれたのがすごくよかったです。岩瀬が「未来」を一番歌いたい歌だって言ってたのも印象的だし、彼が歌う意味、バンドとして出す意味がすごくあると思います。

ーーそういうストーリーが見えるから素晴らしい作品ですよね。岩瀬さんはいかがですか。

岩瀬:今回は楽曲に対する不安というより、聴いた皆さんがどう受け取るかっていう不安が結構あったんです。でも、僕らがこうして変わろうとしてる過程をちゃんと形にできるのが、音楽とかCDのいいところだと思っていて。どんどんサブスクに移行するとは思うんですけど、これから僕らが新しいCD出した時に「変わろうとしてる過程で、こういう作品もあったんだな」っていうふうに、形として愛して欲しいなって思います。僕の心境も変化するから、もっと明るい方に行くかもしれないし、暗い方向に行ってしまうかもしれないですけど、音楽を続けてたら人生よくなるっていう希望はずっと変わらないと思うので、そこから出てきた楽曲がみんなの希望になったら嬉しいなと思いますね。

ーー岩瀬さんは最初に「自分のためにしか歌っていない」っておっしゃってましたけど、今作ができたことで、誰かのために歌いたいっていう想いも芽生えてきたってことなんでしょうか?

岩瀬:いや、実はそこは変わっていなくて。やっぱり僕は自分のため、バンドのために歌ってるんです。とけた電球って、そのまま僕だと思っていて。僕は「とけた電球の岩瀬賢明」なので、とけた電球を面白がってくれてるってことは、そのまま僕のことを面白がってくれてるのと同じだと感じるんですよね。

ーーバンドと一心同体なわけですよね。

岩瀬:だからバンドが変わっていく過程を楽しんでもらえたら、僕がみんなから必要とされてる人間なんだって思えて、自分の自信に繋がるんです。

ーーバンドを通して、自分の存在意義を感じられると。

岩瀬:そうですね、まさに存在意義です。僕がとけた電球の岩瀬賢明であることに意味があるんだなってちゃんと納得できるし、それが頑張る根源になる。だから自分のために歌ってますけど、人からいいなって思ってもらえないと意味はないので。みんなが楽しんだり好きでいてくれるのが僕らの力になって、バンドが大きくなっていけばいいなって思います。

とけた電球『WONDER by WONDER』

■リリース情報
とけた電球 2nd EP『WONDER by WONDER』
3月4日(水)発売 ¥1,800円(税抜)

<収録曲>
1. トライアングル
2. 未来
3. DRAMA
4. 焦がれる
5. 恋の美学

■ライブ情報
『とけた電球ワンマンライブ 2020「オクターブ」』
3月29日(日)OPEN 17:15/START 18:00
料金:前売り¥3,600(ドリンク代別) ※SOLD OUT

とけた電球ホームページ

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