『ALL THIS LOVE』インタビュー
DJ Mitsu the Beatsが語る、インスピレーションの源から昨今のビートシーンまで
GAGLEの制作スタイルとgrooveman Spotからの影響
ーー以前HUNGERさんが、Netflixのオーディション番組『リズム+フロー』を観ていて、ラッパーがプロデューサーと意見を交換するやり方がとても新鮮だったと言っていて、GAGLEは各々が職人的に自分の領域で仕事をし、他の領域にはあまり干渉しないスタイルだというお話をされていたのが印象的でした。MitsuさんはGAGLEの制作スタイルについてどう考えていますか。
Mitsu:そうですね。もしかしたら初期の頃は、HUNGERのラップに対して「これじゃあちょっと」とか「こういうふうに書いてほしい」と言ったかもしれないけど、今はまったく無いです。「こういうビートでやりたい」って言ったら、だいたいHUNGERも「あ、いいね」って反応して、それにラップを乗せて返してくれるんで。もう超シンプルな感じです。曲作りに関してはMu-Rはそこまで関与してないです。二人に任されてるんで、ホント、HUNGERとの一対一というか。まぁでも、Mu-Rも意見はもちろん言ってくれるし、最終的な砦のような感じですね。第三者的な耳でも聴いてくれるし。録ったデモの判断は、もちろんしてもらうし、『Vanta Black』の時はけっこう、Mu-Rに聞いたかな。
ーーそれは、お二人ともテクノとか、同じ音に傾倒していた時期だったからですかね?
Mitsu:そうですね。あれはけっこう奇跡的に、Mu-Rがテクノをすごい掘ってて、その影響を受けて僕も掘ってたんです。それで、HUNGERもそれについてこようとしてて、いろんなの聴いてて。だから、うまくいったというのはあるかもしれません。
ーーGAGLEとMitsuさんのソロ作どちらも、基本的な姿勢としてオーセンティックなものや耳に心地よいものを突き詰めていながら、各作品に数曲程度はエクスペリメンタルなものも意識的に取り入れている印象があります。自分たちの作品にそういったエッセンスを取り入れるかどうかの判断はどのようにされていますか。
Mitsu:その時の気分なんですよね、全部。自分の中のブームがあって、急にずっと四つ打ちのビートを作ったり、そこから四つ打ちをヒップホップに活かして次の3日間はそればっかり打ち込んだりとか。「今週はピアノをサンプリングしたいな」って思ったらずっとピアノの曲を作ったり。そのスタイルがどんどん変わっていって、たとえば今だったら、またジャジーな音に戻っていってるかな。
ーーご自身の中にそういうリズムがあるんですね。
Mitsu:ずっと同じだと飽きちゃうんですよね。だから、『Vanta Black』に入ってる曲は8割くらいが2014年の曲なんですよ。その頃にどハマりしていた音の作り方で。
ーー4年前の音を2018年にアップデートして、みたいな感じですか?
Mitsu:そうですね。それが基になっていて、いろいろ音を足したり変えたりはしてるけど。自分で調べてもビックリしました、「2014年?!」って(笑)。
ーー『Vanta Black』のリリースパーティー(2018年・渋谷WWW)にお邪魔したんですが、その中で印象的だった一幕がありました。Mitsuさんがいろんなビートを引っ張り出してかけている時に、HUNGERさんに「それ、大事なやつだからとっといたほうがいいんじゃないの?」と制止されていたんです(笑)。Mitsuさんはそれ以外にも、楽曲のステムデータを公開されたりしていますよね。
Mitsu:(ステムデータ)前にそういうのやりました。『Celebration of Jay』(2014年)を出したあとに全曲のデータをBandcampで公開して、でもそれはやりすぎだって誰かに言われて今は引っ込めちゃったんですけどね。
ーーMitsuさんの意思としては、そういった音のネタやデータをオープンにすることに躊躇は無いということですか。
Mitsu:全然ないですね。そこからサンプリングされてもいいし、作り方を学べるじゃないですか。そういうの面白いなと思って、教則的な意味で出したんです。他にもドラムパーツをBandcampで売り続けているんですが、Bandcampの中では自分のトップセールスはドラムキットなんですよ。今でも週1くらいで買ってくれる人がいて、それって実際自分も使っているから即戦力になるんですよね。2000円くらいで売っているんですが、そのドラムを使ってみんなの曲がよくなればいいなと思うし、たとえば808のドラムを使うのは分かるんですけどみんな808しか使わないのはもったいないな、と思うんです。違う機材のも使ったらいいのにって。いつもドラムに関しては研究してるんで、使ってくれればいいなって。データを公開したりするのも、教則的な意味が大きいですね。
ーー今、このビートメイカー/プロデューサーのドラムがいいなって感じられる方はいますか?
Mitsu:身近な存在ではありますが、やっぱりgrooveman Spotのドラムはすごくオリジナリティがあるなと思います。それはたぶん自分で音色を作り込むからだと思うし、スネアとかも聴けば「これ、グルスポ(grooveman Spot)だな」ってすぐ分かるんですよね。budamunkもカチッとしたスネアとベースがすごくいいし……やっぱり仲間内に多いですね。
ーー楽曲のインスピレーションを受けるのも、身近な方からが多いですか?
Mitsu:それは昔からありますね。グルスポは特に昔から……これはすごく遡る話なんですけど、大学生で21くらいの時かな? 1996年にMPC2000っていう機材が出て、その時に自分で買ったんですよ。周りが誰もクラブに行ってなくて、仲間もいない状態の中一人で曲作りしてて。そんな中、仙台の大学に水泳で入ったんですが、水泳部の同学年にラップしてる奴がいて。そいつがクラブに連れて行ってくれて、そこでバリバリプレイしていたのがgrooveman Spot=当時高校3年生のグルスポくんで、近寄れなかった。もう、カリスマDJみたいな。仙台にはWILD STYLEっていうクルーがいて、RHYMESTERやキングギドラがライブするときに一緒に出ていたりしたんです。WILD STYLEっていうお店もあって、グルスポがそこで働いてて。最初はホント、もう相手にもされてなかったですね。
だけど、初めて作ったビートを聴かせたら、そこから互いに作った音を聴かせ合うようになって一気に仲良くなりました。それで自分も鍛えられたし、そこが自分のインスピレーションの元になっています。グルスポはそのあと東京に出てしまったんですけど、未だに僕が何のネタで音を作ったとか覚えてるんですよ。
ーー大学1年生のMitsuさんから見た高校3年生の時点でgrooveman Spotさんにはすでに光るものがあったわけですね。
Mitsu:めちゃくちゃかっこよかったですよ。その時からグルスポは研究熱心で、DJプレミアのビートをまるっきり再現したり、あとは歌詞カードをすごく熱心に読んでたりしていて、曲名全部覚えてるんですよ。そういうのも凄いなって思ってました。自分はめちゃくちゃテキトーなんで、曲名とか全然覚えてなくて。たまに「こういうこすりネタある」ってグルスポに聞いたら「これは○○に入ってるあの曲がいいんじゃないか」ってアドバイスをくれることもあります。だから、グルスポには本当にいろんな影響を与えられましたね。