嵐、デジタル戦略の狙いは? コラボ企画、インスタ活発化、ドキュメンタリー……これまでの活動を解説

デジタルにおけるコラボ戦略

 デジタルにおける強力な戦略の1つに、コラボレーションがある。多くのYouTuberもコラボ動画がファン層拡大の契機となっており、ジャニーズJr.も有名YouTuberとのコラボや、グループを超えた企画などをおこなっている。

 しかし嵐ともなれば、彼らのイメージを毀損しないコラボ相手を選定することは容易ではない。著名YouTuberとコラボをすることで親しみやすさの演出は可能だが、アイドル性が失われるリスクもある。コラボの有効性を活かしつつ、嵐ならではのパートナーを選定することが重要となるが、そこで出てくるのが国外の著名アーティストだ。R3habは、世界的なDJであるが、元f(x)のアンバーやEXOなどK-POPにおける人気アーティストとのコラボ楽曲も手掛けてきた。

 DJによるリミックス自体は、2016年頃からのK-POPが積極的に取り入れてきており、大きく2つのメリットがある。1つは、最新のサウンドによって国内のアイドルファン以外にも楽曲の魅力を訴求できる点であり、もう1つはグローバルのファンダムを拡大する契機になる点だ。R3hab自身も、K-POPとのコラボに限らず、「Karate」(R3hab & KSHMR)や「Sakura」など日本語の名を冠した楽曲をリリースするなど、アジア圏に関心を持っているアーティストであるが、世界トップクラスDJとのコラボによって、嵐をこれまで認知していても楽曲をストリーミング再生することがなかった層や、国外のファンを拡大できる余地はある。

 活動休止を目前に控えた嵐が、新たな層を開拓する論理には違和感を覚えるかも知れないが、過去の音源が繰り返しストリーミング再生されるデジタル時代においては不自然なことではない。CDやグッズ、ライブなどが大きな収益源の時代とは異なり、過去の楽曲や動画であっても発掘されるチャネルは多い。

 加えて、デジタルにおいて嵐の影響力が強まれば、後輩グループの成功にも繋がる。YouTubeやSpotifyなどはレコメンデーションが強力だが、嵐をきっかけに事務所の後輩グループを知り、ファン化していくシナリオも考えられる。従来であれば、TV番組での共演が事務所によって重要な戦略であったが、現代であればデジタルでのレコメンデーションがそれである。

おわりに

 以上にように、楽曲「Turning Up (R3HAB Remix)」は嵐のデジタル戦略にとって、一つのエポックメイキングとも言える。ジャニーズの歴史にとっては大きな転換であったとは言え、SNS解禁はスタートに過ぎず、その成長こそが大きな試金石である。

 当然ながら、デジタル化にはリスクも伴う。デジタルに多くのコンテンツが流通することで、アーティストが持つブランド価値や希少性は相対的に下がるかもしれない。またデジタルの文脈で重視される親しみやすさは、反面として偶像性を奪っていくかもしれない。あるいは、すでにデジタル化に成功しているK-POPなどの後追い感を抱くファンもいるかもしれない。

 Netflixによるドキュメンタリー(『ARASHI's Diary -Voyage-』)も、等身大で苦悩するアイドル像という意味で大きな衝撃を与えたが、世界的なアーティストとのコラボは、ジャニーズが音楽性としても、そしてデジタル時代における成長戦略としても、新しい時代に適合していく意思をまざまざと宣言した瞬間であった。後発ながら日本で最も成功しているアイドル事務所の威厳を見せつけるのか、それともデジタル化が抱えるリスクに足元をすくわれるのか、彼らの戦略に注目が集まる。

■石田健
大学院での研究生活を経て、株式会社マイナースタジオを創業。2015年に東証一部上場企業に企業売却、現在も同社代表として経営をおこなう。また個人ではエンジェル投資家としても10社程度に投資、各種媒体でニュース解説などもおこなっている。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程(政治学)修了。

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