EMPiREが6人で果たした“リベンジ” MAYU EMPiREの歌声轟いた念願のZepp DiverCity公演レポ

 そうした、いわば負の緊迫感を打破したのが、「きっと君と」だった。

 〈何にも持ってない この手で掴むよ〉NOWが掠れ声で歌いきると、静まり返る会場にひゅうっと花火が上がった。LEDに映し出されたまばゆい光を背に、宙を見上げながらたっぷりと息を吸い込んだMAHOが歌いだす。

〈もう止められないの戻りはしないの 涙堪えて歩き出す今日は〉

 和情緒溢れる旋律を、情感たっぷりに麗かに歌い上げると、先ほどまでの空気が一気に変わった。MAHOの歌に皆がハッとさせられた瞬間だった。そこからの「Black to the dreamlight」、「ピアス」、先述の「EMPiRE originals」と、続けて彼女の歌に引き寄せられるように、会場にいる全員が同じ方向へ、最高のライブへと向かって行ったのだ。

 そんな場面を思い出しながら、再び「きっと君と」を目の前にする。NOWが素直な澄んだ声で歌いきると、あの日と同じ花火が上がった。すると、あのときよりもおおらかにしなやかで美しく、舞うようにMAHOが歌った。そのままの優雅な趣をMiDORiKOが、YU-Kiが、次々と受け取っていき、最後の節はMAYUがしめやかに歌い閉じた。雅やかな後奏の中、YU-KiがMAHOのことを愛おしそうに後ろから覆いかぶさるように身体を寄せたのは、どこまでが決められた振りなのか正直わからなかった。

 その得も言われぬ情景は「Black to the dreamlight」へと引き継がれていった。無機質なグリッチサウンドの中でもがいていく6人は、青く染められたステージの中で強くしっかりと地を足につけて歌う。続く「ピアス」。オリジナルメンバー、YUKA EMPiREの脱退発表に始まった2019年、EMPiREの激動の1年を象徴するような曲だ。Zeppに轟いたのは、さまざまな想いが昇華され、グループとともにまたひとつ大きくなった歌、ドラマチックでエネルギッシュな「ピアス」だった。

 MAYU不在というアクシデントが、さらにEMPiREを強くした。それを感じたセクションだった。そう思わせてくれたきっかけは、紛れもなくMAHOの歌だ。

 「EMPiREを引っ張っていく存在になりたい」――自分でも手応えを感じたかのように、この日の最後の挨拶でMAHOは語っていた。利発的な性格から自然と姉的ポジションにいた彼女だが、我先立つ意欲的な想いをはっきりと口にしたのは、これが初めてだと思う。その言葉がなんとも頼もしかった。

 「SO i YA」からの怒涛のラストスパート。2019年3月の24時間イベント『EMPiRE presents TWENTY FOUR HOUR PARTY PEOPLE』の最後に披露された「SELFiSH PEOPLE」へ。あれからまだ1年経ってないことに驚きを隠せないが、最初は半ばヤケにも聴こえた辛辣な言葉の絶叫も、今となってはライブの起爆剤となるキラーチューンと化している。デジタルに塗れた狂気の中、歌いきってぶっ倒れた6人が、脈打つ鼓動のリズムで再び立ち上がり、ギターの小気味良いカッティングが鳴った途端、会場全体がハッピーなオーラに包まれた「S.O.S」。今やEMPiREの愛溢れるアンセムとなった「MAD LOVE」、そして本編ラストは勇敢に明日へ向かっていく「A journey」。会場全体が拳を突き上げ、迸る感情のすべてを出しきった。

 12月のツアーファイナル後、今度はMAHOがインフルエンザに見舞われるというアクシデントがあったものの、モチベーションともにベストな状態でリベンジに臨むことができたと思っている。12月30日に出演した佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)の主催するライブイベント『AYAKARNIVAL 2019』では、完全にアウェイと言ってよい場ながらも、EMPiREらしい孤高のステージで多くの観客の心を掌握した。年が明けて1月3日は、所属事務所WACKのグループが一堂に介する『WACKなりの甲子園』。“BiSHの妹分”と呼ばれ、先輩についていくことに必死だった彼女たちが、いつのまにか多くの後輩グループを引っ張っていく存在になっていることをあらためて感じた、貫禄あるステージだった。こうした大きな舞台が、今回のリベンジ公演への大きな弾みになったことは言うまでもあるまい。

 ツアーファイナルで最後の最後に踊り狂った「Have it my way」は、メンバー5人とエージェントが作り上げた最高のダンスフロアだった。この日のラストももちろん、「Have it my way」である。あの日と同じクラウンダンサーが入り乱れ、皆が我を忘れて“現実逃避”したダンスフロア。どっちが良かったかなんて聞くのは野暮だ。どっちも最高だったのだから。

 5人で臨むことになったツアーファイナル、そこから6人で挑んだリベンジ。同じ会場で、同じセットリストで、同じ演出で、同じエージェントとともに迎えた2日間は、短期間ながらもEMPiREが強くなっていく様と、新たな可能性をまじまじと感じられたライブだった。

 前夜に雹を降らせた(?)ものの、“雨女”から“晴れ女(自称)”を宣言したこの日のYU-Kiの言葉を借りれば、Zeppでのワンマンライブは結成当初からオリジナルメンバーのYUiNA EMPiRE(現・CARRY LOOSE)とYUKAとともに決めた目標のひとつ。メンバーは変わってしまったけど、この6人でステージに立てたことが本当に嬉しかったという。だが、これはまだ目標のひとつに過ぎないのだろう。4月からは次の全国ツアー『SUPER FEELiNG GOOD TOUR』が始まる。“さらなる高みを目指して”、EMPiREは走り続けていく。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログTwitter

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