TXT、ITZYら次世代の台頭、“プデュ”シリーズが与える影響……DJ泡沫×NICE73が語り合う、K-POPシーンの展望

 昨年もBTSはじめ、TWICE、BLACKPINK、IZ*ONE、SEVENTEENなど数々のアーティストの大規模な日本公演が開催され、今や一過性のブームから定着した文化になりつつあるK-POP。そこで今回は“2020年以降のK-POPシーン”をテーマに、当サイトでK-POPに関する記事を執筆するDJ泡沫氏(写真右)と、K-POPイベントのMCや作詞・作曲家として活躍するNICE73氏(写真左)による対談を行なった。初対面の二人だったが、取材は大きな盛り上がりを見せた。

 前編ではこの10年ほどでのK-POPの広がりや、K-POPアイドルの歌詞の特徴、BTSの弟分・TXT、TWICEの妹分・ITZY、そして一世を風靡したオーディション番組『PRODUCE 101』シリーズについてまでをじっくりと話し合ってもらった。(編集部)

K-POPの広がりとシーンにおけるBTSの特異性

ーーお二人はどんな経緯でK-POPに興味を持ったのでしょう?

DJ泡沫:2009年ごろ、SUPER JUNIORの「SORRY, SORRY」がヒットする前あたり、KARAの人気が出てきた時期から、mixiなどのSNSでK-POPが話題になり始めて。友達が「これ面白いよ」って年末の歌謡祭(編集部注:SBS、KBS、MBCの地上波3局の音楽特番)の動画を見せてくれたりして、興味を持って聞くようになりました。もちろん、東方神起などは日本のテレビにも出ていましたしもともと知ってはいましたが。学生で時間もあったので2008年〜2009年くらいに色々見始めました。

NICE73:私は韓国語を勉強しはじめたのが1997年〜1998年ごろで、その時に「歌を聴きながら勉強しましょう」となって。当時、ソテジワアイドゥルが解散したあとで、H.O.T.の時代でした。すごく格好良いと思って聞き始めたんですけど、私の場合はアイドル、音楽というよりも韓国語の方が先でしたね。自分が実際にCDを買い出したのは2000年代前くらいかもしれないです。

DJ泡沫:今の話を聞いて思い出したんですけど、私にとって一番最初のきっかけは、SHINHWA(神話/シンファ)をテレビで見たことだと思います。中高時代に洋楽が好きだったので、MTVなどで海外のミュージックビデオをずっと流している番組を見ていたらSHINHWAが出ていて。それを見て、男らしいイメージでサウンドも洋楽っぽかったから、日本のアイドルとちょっと違う、アメリカのアイドルみたいだなと思ったんです。後で韓国のアイドルと知りましたが、当時は“K-POP”という言葉はあまり使われていなかったように思います。SHINeeや2PMがデビューした2008年、第1次K-POPブームのころからではないでしょうか。

NICE73:海外に輸出されるようになってからですかね。それまでは“韓流”などと呼ばれていた気がします。

DJ泡沫:元々は香港などで“J-POP”が先にあって、CDショップの棚で分類する時に、韓国のポップス=K-POPと名付けられたという韓国の記事を読んだことがあります。2007年にWonder Girlsの「Tell me」がYouTubeでバズった時から、K-POPという言葉が世界に広まり始めたという説が濃厚なようです。

ーーK-POP自体、この10年くらいで一気に広まったジャンルですよね。特にBTSは2018年ごろから世界的な人気を得ている印象です。

DJ泡沫:そうですね。実際、2014年ごろから北米や南米を含むワールドツアーを開催しているので、実は地道にキャリアを積んでいるんですが。ファンたちがアメリカの「ビルボードソーシャルチャート」の1位にさせよう、とハッシュタグを付けてツイート運動をしていて2017年には『Billboard Music Awards』でトップ・ソーシャル・アーティストを受賞した。それでアメリカのK-POPファン以外からも、ジャスティン・ビーバーに代わって賞をとったこの外国のグループは何だろう? と注目されたんだと思います。ただ、ここ1年ではっきりしてきたのが、BTSの人気がそのままK-POPというジャンルの人気と必ずしもイコールというわけではないのかもしれないなと。ジャンルとしての認知度は確実に広がっていると思いますが。

ーーなるほど。NICE73は作家としても活動されていますが、シーンの変化などは感じますか?

NICE73:作家目線から言うと、コライト形式になってから、基本的に韓国でも日本でもヨーロッパの作家たちと一緒にやることが多かった。一方、アメリカの作家は基本的にSMの作品のためにコライトしていることが多い印象で、最近LAにはK-POPコライト専用のスタジオも多くできているそうです。でも、近年はSM以外にも自分たちの曲を売れる、という感覚があるみたいです。私が韓国にいた15年以上前くらい、SMには、北欧、特にスウェーデンの作家が曲を提供していたんですけど、それがEXOがデビューした頃くらいからアメリカの作家に代わって。だから、韓国のアイドルを見ると世界市場を予見できるっていう意識があるらしく、それを狙っているというのはよく聞きます。

DJ泡沫:もともとJ-POPに曲を提供している作家が、K-POPを手がけるようになったパターンもありますよね。J-POPだと日本市場が主だったのが、K-POPの曲だと海外にもアプローチするので意識が変わるのかもしれません。日本は歌詞の内容や何語で歌っているかにこだわる層が多いように思います。海外は、英語の発音などを気にする人もいますが、基本的に歌詞よりも楽曲自体のノリの方が重視される傾向がある気はしますね。ちょうど時期的に10代の間でエモラップが流行した影響もあるのか、BTSの歌詞の世界観に言及する欧米のファンは多いですが、母国語である韓国での評価やイメージとは違う捉えられ方だったりしますし。とはいえ、韓国では詩が人気の高い文学ジャンルですし、詩人の言葉をリリックに取り入れているアイドルもいますよね。

NICE73:でも本当に最近ですよね。キム・デジュン大統領時代、もう国が潰れるかもという時に、ポップスの歌詞でどうにか若者の心を保持しようという雰囲気があって。韓国ではその辺りから歌詞を気にするようになったのかな。それまでは、「널 사랑해(ノォル サランへ=あなたを愛してる)」、みたいな歌詞ばかりでした。そのあと、2NE1などが"女性の権利拡大"というか"女性だって強いのよ"といったメッセージを歌い出して……というのが大まかな流れかと。

DJ泡沫:女性アイドルでも恋愛や女性の地位以外にも歌の題材はあると思うんですけど、日常のことを歌ったりする歌はあまりないですよね。日本だと是非は置いておいて、男性が女性目線、女性が男性目線で歌ったりというのもありますが、韓国の歌詞にはそういう視点や複雑なレトリックなどはまだあまりない気がします。韓国語自体が役割語があまりなくて、日本語と比べて性差がないとか言語的な違いもあると思いますが。でも、一時期変わった擬音を歌詞に入れるというのは流行りましたよね。

NICE73:ポップス、とりわけダンスミュージックに関しては本当にそういう歌詞がないですよね。そういう中だからBTSが目立つのかも。“お前の夢はなんなんだ?”って。

DJ泡沫:BTSも歌詞がソテジやH.O.T.の時代から変わってないとは言われていましたね。それでも当時は新人アイドルだし年齢的にも共感できるものだったかもしれませんが、今の立場で当時のノリで歌うのは難しいみたいですよね。周囲からの捉えられ方が変わってくるので。彼らくらいのスターになってしまうと、逆に歌える内容がだんだんと狭くなってくるのかも。

NICE 73:だから結局BIGBANGみたいに、“俺は誰にも理解されない”“俺はいつも一人”って歌うようになってしまう。あとは、ファンダムが歌詞はもちろん、MVや衣装を口うるさく言ってくるのも問題かなと。

DJ泡沫:スタイリストとか細かいところまで調べますもんね。BTSはクリエイションの面では新しいことをやっているというわけではないけれど、これまでの人気アイドルやアーティストの良い部分をそれぞれ取り入れてる感じがします。だから、グループならではの特徴と言われると、はっきりとはないのかもしれない。ただ、それ自体が特徴で個性になってるんだと思います。あと、Twitterをメンバー共同にしたのは画期的でしたね。今も更新スピードが活発だし、V LIVE(編集部注:ライブ配信サービス)だけでなくてちゃんとYouTubeなども定期的に更新していますし。

TXT、ITZYは次世代を担うグループに?

――なるほど。2019年は彼らの弟分・TXTや、TWICEの妹分・IZTYもデビューしましたね。今後、次世代を牽引していくようなグループになりそうでしょうか。

NICE73:TXTは期待値が高かった分、デビュー作がちょっと弱かった印象です。でも、ある番組で彼らがSHINeeの「Replay」をパフォーマンスしていて、涙が出るくらい素晴らしかった。なんで彼らがこんなにすごいっていうことを今まで表現できなかったんだろう? って思うくらい。王道のアイドルソングであるデビュー曲「CROWN」はともかく、他の曲は歌詞やサウンドに妙に“BTSの次っぽさ”を出しているから、もっと彼らに似合うものがあるはずなのにな、って改めて感じて。だから“縛り”のようなものから解放してあげられると、本当に“次世代”になれると思いますね。

DJ泡沫:彼らの想定ライバルはNCT DREAMとかかもしれませんね。Big Hitなりの可愛らしい感じのフレッシュなボーイズグループ。BTSの頃とは取り巻く状況が変わっているし、 韓国の若者も以前よりはみんな個人主義になってきていますし。 歌詞は、個人的な世界での自分との対峙といった内容で「CROWN」とかはまさにそうですよね。BTSのデビュー当時とはかなりコンセプトが変わっています。

NICE73:でも、日本のファンダムでいうとBTSにハマってBig Hitが好きだから、そのままTXTも応援するという流れがあるじゃないですか。

DJ泡沫:その流れはあると思います。日本のファンは特に、どこの事務所も後輩グループを応援しようという雰囲気はありますよね。韓国のファンは同じ事務所のグループでもライバルだから、先輩グループが後輩グループの宣伝に駆り出されるとあまり良く思わないこともありますけど、日本のファンはいわゆる箱推しも多いですよね。同じ事務所の中で争ってもしょうがないという考えがあるのかも。だから、日本はBTSとTXTは掛け持ちする人は結構いるだろうと思います。TXTは5人というトレンドの少人数で抑えているし、サウンドではBTSも多くプロデュースしているSlow Rabbit氏やADORA氏などがメインで参加しているけど、色は変えてきてますよね。楽曲に関してはまだメンバーたちが制作に深く関わっているわけではないですし、デビューしたばかりですからやることの幅もそこまで広くなくて良いんだろうと思いますが。

NICE73:でも「Replay」が本当に良かったから期待です。

DJ泡沫:逆に言うと、「Replay」がハマったっていうのがミソなのかもですよね。そのイメージならすでにSHINeeと同じSM所属のNCT DREAMがいるわけで。Big Hitならではのパフォーマンスの特色が何なのかまだはっきりしてないのかも。例えばSMやYG、JYPだったら後輩が出てきても、どこか独特の事務所の雰囲気があって先輩の曲がハマるというのがあったりしますけど、Big Hitはまだそのイメージが固まっていない。歌詞の内容など世界観では独自のものがあると思うのですが、サウンドやコンセプトに関してパッと見てすぐわかるような事務所独自のものはあるかって言われると、正直まだわからない。でも、逆に言えばこれからどうとでも変化できるということかも。

ーーITZYはどうでしょう?

NICE73:私は、ITZYがすごく好きで。サウンドもビジュアルも良い。今まで、JYPはアジア、特に日本とのつながりが強かったから、日本、アジア市場との接点を考えてアーティストを生み出してきましたが、これはとうとう世界市場に目を向けて作ってきたな、と。サウンドがすごく攻めてて。音で言うとEVERGLOWも良かったんですが、彼女たちの曲はヨーロッパに売り出そうという、DJが作ったサウンド感がしました。でも、ITZYの「ICY」はアメリカに対して「どう、これ?」って言っているような感じがして、格好良いなって。あと、実際に応援していて、すごく良い子達なんですよ。それって、スターになっていく上ですごく大事な要素。ガールズグループがなかなか売れない中で、ITZYはいけるんじゃないかな? と感じました。パク・ジニョン氏が関わったという「달라달라(DALLA DALLA)」は、実際彼がどれくらい作ったのかはわからないですけど、“彼女たちに作るから僕も参加する”という大きい意思を感じます。

DJ泡沫:私も、ITZYは2018年から2019年にデビューしたグループの中では突出してると思います。曲も今までのJYPサウンドのイメージを変えるぞという勢いを感じました。「달라달라(DALLA DALLA)」に関しては、タイミング的にどうしても先にリリースされていたBLACKPINK「DDU−DU DDU−DU」がよぎるというか、“JYPも流行りっぽいガールクラッシュをやったんだな"というのを歌詞からはまず感じました。だけどティーンが惹かれるようなトレンディさがあるし、スタイリングも露出しすぎないで10代っぽいフレッシュさはあくまでも忘れずに、でも他のグループにはないようなラグジュアリー感を、という感じがある。個人的にはこれまでラグジュアリー感があるガールズグループといえばYGのイメージで、どちらかといえばJYPはスポーティーなイメージでした。ITZYはキリッとしてスポーティーではあるけど、まさに今までとは少し「違う」。個人的には年齢が若すぎるかなって思ったんですけど、韓国アイドルのデビュー年齢はどんどん若くなっているし、これからファンになる子たちのことを考えたらちょうど良いのかもしれません。

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