美空ひばりの歌声はなぜ時代を超えて人の心を震わせる? 『紅白』AI歌唱で復活する「あれから」を機に考察

感動を呼ぶ命を削った歌声

 AI美空ひばりが歌う「あれから」は、没後30年を迎えた今年9月に放送された『AIでよみがえる美空ひばり』(NHK総合)で実現した。NHKやレコード会社に残る膨大な音源・映像を元に、最新のAI技術によって、美空ひばりを現代によみがえらせる試みだ。プロデュースと作詞を「川の流れのように」を手がけた秋元康が手がけ、作曲を佐藤嘉風が手がけた。AIの開発には、初音ミクなどで有名なボーカロイドを手がけたヤマハのエンジニアが携わり、AIが自ら考える領域を増やすことで格段に美空ひばりに近づくことができたという。SF映画ではないが、シンギュラリティの一歩手前で生まれた奇跡の歌声だと言えるだろう。

 そんな「あれから」の歌声は、30年ぶりに届いた懐かしい家族からの手紙のように身近で実に温かい。平成という時代を振り返りながら、この30年の様々な苦難を乗り越えて来たすべての人を労らってくれるような優しさがある。肩をそっと抱くように歌われる表現力、細かいビブラートなど、まさしくお嬢そのもの。中盤にはセリフもあり、少しハスキーさを持った声と語りかける言葉は、空からずっと見守ってくれていたんだなと感じさせ、そこに込められた深い愛情が胸に刺さる。

[NHKスペシャル] AIでよみがえる美空ひばり | 新曲 あれから | NHK

 日本のマリア・カラス、戦後歌謡界の女王、お嬢……美空ひばりを形容する言葉はいくつもある。どれもが彼女の歌のすごさを言い表し讃えたものばかりだ。その人生は壮絶。短いながらも結婚生活を送ったが、数多くの悲しい出来事も経験し、病に打ち勝ち見事な復活劇でファンを感動させたこともある。そうした自身の人生や経験と重ねながら歌われる美空ひばりの歌は、彼女の人生そのもの。“人生を賭して”という言葉はよく聞くが、美空ひばりほどの命を削った歌声は、聴いたことがない。だからこそ時代を越えても、唯一無二なのだろう。改めて彼女の歌を聴けば、そのひとつひとつが、彼女の命の一片なのだということを感じるだろう。

■榑林史章
「THE BEST☆HIT」を経て音楽ライターに。オールジャンルに対応し、インタビュー本数は延べ4,000本。現在は日本工学院で講師も務める。

美空ひばり(AI 歌唱)『あれから』

■リリース情報
美空ひばり(AI 歌唱)『あれから』
CDリリース: 2019 年12 月18日(水)
COCA17777 ¥1,350(税込)
<CD収録内容>
M1.「あれから-シングル・バージョン-」
M2.「あれから-NHKスペシャル・バージョン-」
M3.「あれから-シングル・バージョン-(オリジナル・カラオケ)」
全曲配信中

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