草なぎ剛の純粋さと内側に持つ熱さを痛感 『はっぴょう会』田島貴男&斉藤和義との共演を完全レポート

 純粋で、まっすぐで、その内側に熱さを持つ男。なんてピュアな人なんだろう。2時間20分のライブの間、僕はずっとそう感じていた。『草なぎ剛のはっぴょう会』は、とても心地よく、あたたかい楽しさに満ちた場所だった。

左から奥田民生、草なぎ剛、和田唱(11月27日)

 僕が見ることができたのは開催2日目の11月28日。すでに初日は草なぎと、ゲストの奥田民生と和田唱(TRICERATOPS)との共演ややり取りがSNSを中心に大いに話題になっていた。だから斉藤和義と田島貴男が出演するこの日も、かなり期待を高めながら待つことができた。

草なぎ剛

 2日目も会場は超満員。手元のフライヤーの中には香取慎吾が元旦にリリースするCDアルバム『20200101』の告知もはさまっていた。場内の期待が高まる中、幕が降りた状態のステージに、草なぎが現れる。会場中から拍手。

「『草なぎ剛のはっぴょう会』、開幕です! みなさん、寒い中お越しくださいまして、どうもありがとうございます」

 アコースティックギターを弾き始めた彼がまず唄ったのは「はっぴょうかいのテーマ」だった。その最初のサビのところで幕が落ち、後方にまるで草なぎ自身の部屋のようなセットが出現。歌が進む。このコンサートのために作られた明るい曲調のこの歌、とくに〈Fが押さえられない〉〈コード4つしか知らないけど〉といった歌詞には自然と笑みがこぼれてしまった。

 「すべてはこの歌から始まりました」。そう言って2曲目、ドラムスとキーボードのサポートメンバーとともに草なぎが披露したのは「いま・新しい地図」だった。彼の作詞作曲によるこの歌は新しい地図としての活動の始まりを歌った曲だったが、今夜は自身の門出に重なるかのようだった。この初ライブは、まさに〈いま 扉は開く!〉瞬間だ。

 客席はみんなが座った状態のままで、「つよしー!」「つよぽーん!」と声が飛んでいる。そのあたたかいムードの中、草なぎは「このバンド、まだ名前はついてないんですよ。みんなTwitterとかにつぶやいてください」と笑っている。気がつけば、額にはギターのピックを貼っているようだ。その後、ギターを交換しに来たローディーには丁寧に会釈をし、会場の笑いをとる。「こういうの、初めてなんです。なんか“ぽい”でしょ?(笑)」。あとで思えば、この「ぽい」という言い方は、彼の自覚を見せる言葉でもあった。

 「ギターが好きなので、そういう気持ちを込めて作った曲です」と言って唄ったのは、「僕のギターで」。今度はぐっとテンポを落としたロックナンバーで、鍵盤の響きにはサザンロックの匂いがする。〈何も考えずにギターを弾け 未来が見える〉。そう唄い、ギターを奏でる草なぎ。まるで自分に唄っているかのようだ。

 こうして演奏を聴きながら草なぎについて感じたのは、合間で1953年製のギターのことを話したりするギターへの思いの強さ。それから、歌声がとても素直でストレートであるということだった。

 自分の話で恐縮だが、僕個人はこれまで彼やSMAPに関連した仕事はほとんどしていないものの、ただ一度だけ、希望してSMAPのコンサートに2回ほど足を運び、その記事を書いたことがある。あれは1995年で、あのグループがまだ6人の時代だった。以来、24年ぶりに生で草なぎの姿を見て、あの時、今夜よりもっと大きいアリーナで彼が唄っていた姿と歌声がオーバーラップした。何かの曲のソロパートで、彼の歌声だけが響いた瞬間があって、その声がとてもまっすぐで、純粋さが強く心に残ったものだった。

 もちろん、あの頃と比べると、草なぎも人間として成長しただろうし、時代も、状況も大きく変わった。そして彼がいろいろなことをくぐり抜け、経験し、大人の年齢になったことは誰もが知っている。しかし、その声にある大切なものは、今も存在している。そう感じた。

 MC中、勘違いで曲順を間違えるハプニングがあったものの、草なぎはそれも場をなごませるものに変え、曲を続けていく。「冗談じゃないぜ! という気分の時に作った曲です」という「カメレオン」はバンドアレンジによってサイケデリックなムードも匂うナンバーに変身。グリーンの照明が曲に合っている。

 初めてギターで弾いた曲だという井上陽水の「夢の中へ」は、アコーディオンの響きによって、70年代的なフォークロック寄りのサウンドに。最後のサビのくり返しで「もう一丁!」と叫ぶ。演奏後には水をひと口。「昨日は(水を)飲みすぎて足りなくなっちゃったけど(笑)。今日のほうがリラックスしてる気がする」。

 こうしてちょっと力を抜いた草なぎと、私物ばかりというステージ上のアイテムを見ていると、ここは彼のファイバリットで揃えた空間ということなのがわかる。7台のバイクも、ギター、ブーツの数々も。革ジャン、スカジャン、Gジャンも。額装された高倉健やレディー・ガガのポスターも、The Rolling Stonesの巨大なベロマークも(ケネディの立て看など、数点は友達から借りたそうだ)。そして何より、音楽である。

 次は「渋谷を通った時に“こういう歌を作りたいな”と思って、作った曲です」という「渋谷バラッド」。歌詞にスクランブル交差点も出てくるラブバラードだ。しかし曲を終えた草なぎは微妙そうな表情……「間違えちゃった(笑)」。たしかにギターにちょっと怪しそうな部分があったが、しかし正直な人である。

 ライブは、手拍子が起こったビートナンバー「twist shake」(「とにかく楽しい!って曲です」)、そして客席に「(歌詞の)〈LaLaLa〉と〈ShaLaLa〉を唄ってください」とリクエストした「I Love Pure」で、温度が上がっていく。後者のサビ部分の歌詞は、明らかにザ・スパイダースの「バン・バン・バン」をオマージュしたもの。また、ピュアであることについて唄いながら、大人になっていく自分を見つめた歌でもある。

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