Honda VEZEL CMソングにも抜擢 世界が色めき立つFriday Night Plansの流儀
またサウンド面においても、心地よい意匠が随所で炸裂。デビュー当初から初のEP作品である『LOCATION -Los Angeles』を発表するあたりまで、すなわち2018年のうちは、間違いなくR&Bが彼女の最優先言語だった。エレクトリックな味付けが芳しい1stシングル曲「Happy Birthday」やブランディ、シアラ、ティナーシェといった歴代のディーヴァを自ずと想起させるセクシャルな「UU」など、洋楽にも引けを取らないオーセンティックな手法は、Masumiの哀愁がかった歌声との呼応も抜群。結果、息つく間もないリリースペースも相まって、この時点で彼女の稀有な存在感は早くも確立されるに至った。
しかしその路線も、翌2019年には早くもアップデートされることに。昨今のR&Bの主流にあたるオルタナティブな質感こそ引き継がれてはいるものの、最新作『Complex』を聴く限り、それはあくまでもエッセンスとしての話。デビュー時からMasumiと共作を続けてきたTepppeiとの本格的なセッションから生まれた楽曲群は、雨上がりの地面のごとく芳醇な土臭さを湛え、ただでさえ危うさを秘めたMasumiの歌声がより一層儚げに響き渡るようになった。前のめりな4つ打ちビートを敷いたエレクトロポップの「Decoy」ですら、2018年には存在していた明るいアップナンバーとは似て非なるアンニュイさを放出しているから驚きである。聞けば本作は、彼女自身が抱えるネガティブな側面との対峙が大きなキーポイントになっているという。デリケートなパーソナリティを臆することなく曝け出した末、退廃的な空気で魅了する。しばしば比較されるビリー・アイリッシュとの共通性を見出すとともに、Friday Night Plansの高度なステップアップにまたしても心を奪われる一作となった。
諸外国とは異なり、日本の音楽チャートは洋楽がほとんどランクインしない傾向にある。だが冒頭でも伝えた通り、Friday Night Plansのチャートアクションはすこぶる好調。つまり彼女は今、まるで逆輸入のような形で、世界標準の音楽を日本人の趣味嗜好に浸透させつつある。これは実のところ、大した離れ業である。気になるCM曲「HONDA」では久しぶりに明快なアップナンバーへ臨んでおり、またここから新たなフェーズへ突入しそうな予感大。彼女のブレイクに乗り遅れないよう、今のうちに耳と脳にその名前をしっかりと焼き付けておいておくことをおすすめする。
■白原ケンイチ
日本のR&B作品をはじめ、新旧問わず良質な歌ものが大好物の音楽ライター。当該ジャンルを取り上げるサイトの運営、コンピレーションCDのプロデュース、イベント主催の経験などを経て、現在はささやかに音楽ライフを満喫する日々。
■リリース情報
『Complex』
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<収録曲>※全5曲
1.Decoy
2.Nameless
3.All The Dots
4.Miss Me?
5.Antiquities