「Your Song」インタビュー

SHE’S「Your Song」インタビュー 3カ月連続リリースの最後に贈る、“激しいからこそ泣ける”応援歌

 3カ月連続デジタルシングルのリリースも11月23日の「Your Song」でラストとなるSHE’S。この前日には大阪で、そして12月には東京でストリングスとホーンを交えたプレミアムなライブ『Sinfonia “Chronicle”#2』を開催。即完売したこのライブへの期待値を含め、SHE’Sというバンドのどのような個性が評価されているのかがわかる事実だ。

 今回も前作の「Letter」に続き、「Your Song」を例にとり、彼らにとっての「いい曲」をメロディ、アレンジ面などからメンバーとともに分析。さらに12月4日には連続リリースの3曲にMaroon 5のカバーも加えたCD『Tricolor EP』をリリース。ストリーミングとフィジカルのバランスに関するバンドのスタンスについても聞いた。(石角友香)

「Your Song」は「メロコアが泣ける」の発想に近い曲

――「Your Song」は様々なSHE’Sらしさが入った曲に思いました。アレンジもデモから変わっていないんですか?

井上竜馬【Key/Vo】(以下、井上):最初からこんな感じでしたね。

――ピアノロックを奏でてきたプリミティブな部分が現在のSHE’Sのイメージで更新されていて。

井上:この曲はSHE’Sのスタンダードというか、これを聴くと「ああ、SHE’Sやなぁ」と感じられるような位置付けになっていくんじゃないかなとは思いますね。

――3カ月連続配信をこの曲で締めるというのは、どんな気持ちがありましたか?

井上:他にも挑戦している曲はいっぱいあったけど、今思えば、SHE’Sの現時点でのスタンダードだと思う曲を最後に選んだということ自体に意思が表れていたし、意味があったんだと思いますね。「Your Song」は、純粋にいいと思う曲をスタッフとメンバーでそれぞれ選んだ中で票数が多かった曲。チームとしてもみんなの届けたいもののベクトルがマッチしてたんだと思います。

――“みんなが届けたいもの”というのは、具体的なアレンジや歌詞面で分解するとなんでしょうね。

井上:うーん……なんでしょう。いい意味で変わらないピアノの雰囲気に、がっつりしたロックサウンド、打ち込みのドラムも入っていて、そういうハイブリッド感が今一番やりたいことなのかもしれない

――まさにそのようなサウンドプロダクションが今のSHE’Sのパブリックイメージになってきていますよね。

井上:ああ、よかったです。直近だと「Dance With Me」や、安藤裕子さんとコラボした「Clock feat.安藤裕子 Remix by Yaffle」のようなダンスミュージックっぽいものから、「Masquerade」のようなアイリッシュなものまで、バンドとしてはあらゆる音楽性に挑戦してきたタームだったので。ここで「Your Song」のような曲がシングルとして出せたらこれまで僕らの音楽を楽しんできてくれた人たちも安心するというか。「あ、SHE’Sや」と思えるような曲が出たらいいよなと思っていたところで。

――サビ前のエレクトロニックなアレンジやコーラスなど、そういった音楽的な挑戦で身につけてきたものが自然に表れていると思います。ところで前回の「Letter」でも聞きましたが、みなさんが「Your Song」を“いい曲”であると感じた理由はなんだと思いますか?

井上:泣きメロっていうのは一つあるかな。「Letter」はメロディも歌い方も繊細で、スローテンポだし、儚いというか、今にも壊れそうなイメージがあって。そこに自分の人間対人間の核を……ちょっと痛みを伴うような言葉を乗せることによって、いい曲として成立していたと思うんです。それに比べると、「Your Song」はビートもがっつり叩いて、ギターの音色も勢いがあるんだけど、ちょっと泣けるようなところがあるというか。

広瀬臣吾【Ba】(以下、広瀬):だからジャンルは全然違うけど、「メロコアが泣ける」みたいな発想と近いものはある。

井上:近いよね。

――エモさみたいなものですか?

広瀬:激しいからこそ泣ける、みたいな。

井上:明るいコード進行でめちゃくちゃ元気でテンポも早い、だけど泣ける曲ってある。そういう音楽は自分の血となっていて、一生好きでいられる。それをSHE’Sの曲の中でも表現したいという思いはあるんですよね。「Your Song」は「The Everglow」(4thシングル曲/2018年11月)のような曲と同じ立ち位置で作った感覚はありますね。

――メロコアが持っている青春感やグッとくるコード進行って、時としてジャンルを超えますよね。この曲はメロコアではないけれど、それにも通じる爽快さはどういったところから生まれてるんでしょう。

井上:サビに開けた時のフレージングやバッキングのノリの作り方をシンプルにしたので、そういったところですかね。どストレートな歌詞とメロディのサビが伝わるように、ギターも重ねて歪ませて思いきり出してます。

服部栞汰【Gt】(以下、服部):例えば僕のギターは1番ではサビまで出てこないんですよ。サビの開ける感じを意識するにあたって、「それだったら入れない方がいいんちゃう?」と。最初はアコギが入ってたんですけど、それもなしにしようって話をして、サビからギターがいきなり出てくるようにしたので、そういった工夫も爽快さにつながってるのかもしれないです。

――全部が全部、音数を減らせばいいってものではないですけど、この差し引きには必然性がありますね。そしてビートが印象的です。

木村雅人【Dr】(以下、木村):そうですね。力強さを意識しつつ、派手に行くところは行って、引くところは引いてっていうバランスがすごくいい感じにまとまったかなと思います。

――コーラスは井上さんが重ねてるんですか?

井上:録りは僕だけですね。

――コーラスが作る空間もアップデートされていますね。前作の「Letter」が内省的なぶん、「Your Song」は聴く人に向かっている感じがして、いい対照を描いていると思います。

井上:ありがとうございます。

――端的に言って、内容は応援歌だと思うし。

井上:そうなんですよ。応援歌ですね。ちょうどこの曲の歌詞を書いていたのが春の高校野球の頃だったかな。サビの歌詞は「Letter」と同じで、初めて書き始めたわけではなく、メモに残っていた言葉を語尾を調整しながら仕上げていったんですけど、何かスポーツに触れたときに書いていたと思うんですね。

――勝ち負けとか善悪ではない、という表現になっていますね。

井上:スポーツって勝ち負けにこだわってなんぼだと思うんですよ。ただ、成功で得られるものも敗北から得られるものもあるから、どっちの結果だとしても次に繋げられるということを伝えたかったんです。その先にいろんな道が続いていることを忘れてほしくないし、自分の好きな時に、好きなように選んで進んでいってほしいという気持ちが大きいですね。“自分にはこれしかない”と思ってしまうのはもったいないから。それは僕もそうだったし。僕の場合は音楽を選んで音楽を始めたけど、例えば来月とか明日、自分の声が一生出なくなったとしても、別にそれで後がないと思うことはない。いろんな可能性はあるから。そういうスケール感の応援歌になったらいいなと思ってますね。大事な転機の時に聴いて思い出せるように。

SHE’S - Your Song 【MV】

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