『白目』インタビュー

SHINGO★西成が伝える、“白目むくほどしんどいことが多い”世の中への前向きなメッセージ

 笑いも涙も喜びも怒りも、すべてズルムケの言葉で歌うSHINGO★西成がニューアルバム『白目』を10月23日にリリースした。今回は洗練されたアーバンなサウンドが要所に顔を出すのが印象的。シックな佇まいのR&B的なトラックもあれば、ピアノとギターだけの伴奏で歌った異色のタイトル曲もある。一方で関西弁丸出しのラップはべしゃり感が一層アップ。これまで以上に耳をつかんで離さない。綴る言葉はあいかわらず人情味に溢れ、こってり濃厚。でも、洒落たサウンドによって後味はスッキリというような感触。浪速のブルースと都会のクールネスのハイブリッドというSHINGO★西成にしか作れない一枚となった。今回のインタビューはラグビー日本代表がスコットランドを破り、初の決勝トーナメント進出を決めた3日後に実施。学生時代にラグビーを始め、社会人ラグビーまで経験している彼に、まずはラグビーの話から聞いてみた。(猪又孝)

今、世の中の人、白目むいてるでしょ

——ラグビー観てますか?(インタビュー日は日本代表がW杯決勝トーナメント進出を決めた3日後)

SHINGO★西成:観てますね。今日の格好もこの通りです(笑)。

——日本代表の活躍はSHINGOさんの目にどう映っていますか?

SHINGO★西成:命を賭けて闘うというのはああいうことなんだろうなと。それと同時に、あまり力を入れずクールに格好良く楽しむっていう姿勢も世の中で流行ってるんやなって。その両極端をラグビーを通じて気づかされたなあ。

——生で試合観戦はしましたか?

SHINGO★西成:花園ラグビー場に行きました。自分を犠牲にしてボールを回すってやっぱりええなぁと生で観て思いましたね。イケてる奴のライブをYouTubeとかDVDで観るのもエエ刺激になるが、やっぱり生で観た方がスゲエ。この前、沖縄で俺のライブの翌日にPUSHIMちゃんのワンマンツアーのファイナルがあって。DJ FUKUと次の曲のことを話し合う予定やったのに、PUSHIMちゃんのワンマンに感動しすぎて、その余韻で1日が終わった(笑)。それくらい衝撃だったし、やっぱりラグビーもライブも生で観るほうが「心に記憶する」からヤバイ。

——今回のアルバム『白目』は、フルアルバムとしては2年半ぶりになりますが、いつ頃から制作を始めたんですか?

SHINGO★西成:基本、昭和レコードは年に1枚くらいリリースするというペースなんです。昭和のメンバーは有言実行してるし、俺もそれくらいでやらないといけないんだけど、前作『ここから…いまから』からの間に、般若とZORNとのアルバム『MAX』を出してるし、『わになるなにわ』というEPも出してるから、自分的にはまだ『わになるなにわ』が自分に染みこむ前に、もうこのアルバムができたくらいの感じですね。

——なにか区切りがあって、今回のアルバムを作り始めたという感じではない。

SHINGO★西成:そうですね。日常でメモっていることをどんどん紡いでってアルバムが出来上がりました。

——制作を進めながら、今作はどのようなアルバムにしたいと考えていましたか?

SHINGO★西成:当初の理想はあったけど、辿り着いたら結局ごちゃまぜ天国。お好み焼きみたいに、材料を切り刻んで全部小麦粉でまとめてエエ具合に焼いて、みたいな仕上がりになったなと。客観的に見ても相変わらずな、ブレないスタイルだなと思います。もうちょっと時代に合わせた方がいいかもしれへんけど、そろそろ俺も自分の役割がわかってきた。さっき言ったような、音楽もあまり力を入れずクールにやるスタイルが流行ってる今、真逆の「こら、いてまえ!」「かかってこんかい!」みたいなノリも自分は相変わらずやっておかないとなと思ってやりました。

——でも、今回のアルバムにはクールな感じがあるなと思ってたんです。たとえば5曲目の「しったこっちゃない」は、チル系のトロピカルハウス風ビートで洒落てる雰囲気がありましたし。

SHINGO★西成:ほんまに?! それをちょっとだけめざしてたんですよ。

——1曲目の「日焼けしたって俺らは黄色い」も、レトロでお洒落な雰囲気のイントロから始まりますし。ただ、そのあとで〈しょせん世の中チンとマン〉と歌い出すからSHINGO節炸裂だなと思ったんですが。

SHINGO★西成:「日焼けしたって俺らは黄色い」を作ってくれたDJ FRIP a.k.a. Beatlabとは渋谷VISIONで会ったんです。いい選曲でいい音かかってて嬉しいなと思って、DJで回してるFLIPに「めっちゃかっこいい。ありがとう。エエ時間もらってるわ」って言いに行ったら「俺トラック作ってるんです。聴いてください」「おぉ、聴かせてや」ってやり取りになって、送ってくれたのがこの曲なんです。

——そういうファーストコンタクトから始まったんですね。

SHINGO★西成:そのトラックが刺激的というか今までにない感じで、最終的にDJ FRIPがセンスよくまとめてくれました。

——一方で、変わらず言葉に耳を持っていかれるアルバムでした。しかも、べしゃり感がどんどん増しているなと。

SHINGO★西成:喋ってる言葉がラップに聞こえるのが究極だと思ってるんです。フロウを今どきの♪ダリッ、ダリッ、ダリッ、ダリッて区切る感じで作ってもいいのに、仕上げはべしゃりになっていくというか。あんまり意識してなかったけど、そんなつもりで作ってなくてもそうなってしまうんかな。

——前作『ここから…いまから』には、1stアルバム収録曲「ILL西成BLUES」の続編的な「KILL西成BLUES」という曲が入っていたし、アルバムタイトルも含めて、キャリアのリスタートを考えていたように思えるんです。ご自身にとって前作はどんなアルバムになりましたか?

SHINGO★西成:俺の地元で見てきた景色とか経験とか、あと出会った人の話とか、育った街へのラブとヘイトを両方出したのが『ここから…いまから』だったんです。今回は、そんなアルバムを出した俺がどう進化したかっていうところがあるから、より喋ってるような言葉、べしゃり感になってきたのかもしれない。『ここから…いまから』より、一層自然な自分の言葉というか。

——今回の『白目』というアルバムタイトルはどんな思いから付けたんですか?

SHINGO★西成:みんな見せてないけど、今、世の中の人、白目むいてるでしょ。時代についていくのに必死で。常識っていうものはずっと続くもんやと俺は思ってたんです。でも、流行りとか時代についていくことを意識しだすと、自分に常識が染みこむまでに常識が変わっていくから「あれ? もう変わったん? もう変わったん?」みたいなことばっかり起こってて。そういうのに使った時間ってすごく勿体ないなと30代後半から思い始めて、この4~5年は時代に合わせる時間があったら、自分磨きに使った方がいいなと思ってるんです。俺はそっちにシフトチェンジしたから、常識に合わせたり時代に合わせたりしてる人を見ると「うわ、しんどそう」  って思うんです。世の中、白目むくほどしんどいことが多いし、俺も白目むいてる。いろんな生き方があって、いろんな価値観がある。でも、白目むいてでも生き抜いていこうって。生きるというより、生き抜いていこう。基本的にはそういうポジティブな意味でつけたんです。

——「白目」という楽曲のプロデューサーに起用したエバラ健太さんは、シンガーソングライター兼ギタリストですが、どういうきっかけで今回お願いしたんですか。

SHINGO★西成:直感ですね。北海道の野外フェスでWATARUくんというアーティストと一緒になる機会があって。そのWATARUくんのライブでギターを弾いてたのがエバラ健太だったんです。それこそDJ FRIPと同じ流れやけど、そこで挨拶して彼からアルバムをもらって聞いたらすごく馴染んだ。それが1年半くらい前ですね。

——そこで聞いたのが、エバラさんが昨年出した『DAYS』というアルバム。

SHINGO★西成:そうです。そこから自分が東京に来るたびに会ってコミュニケーションを取ってました。

【Official Video】SHINGO★西成 / 白目 [Pro. エバラ健太 / Dir. KUROFIN] (P)2019 昭和レコード

——「白目」はピアノとアコギだけの伴奏でビートはありません。どのように作っていったんですか?

SHINGO★西成:(エバラ健太に)丸投げです。そしたら、ピアノ演奏とかギター演奏だけとかのデモが多くて。俺は音符がわからないし、自分から歌を生み出せないぶん、メロディに憧れてる部分があるんです。だから最初、ピアノやギターだけのデモを聞いて、そこに隠されているであろうメロディを探りながら一生懸命やってたんですけど「やっぱりできへんわい!」みたいになって。で、開き直って、鼻歌くらいの自分なりのスタンスでやってみたら、あのメロディが偶然浮かんできたんです。

——異色作ですが、べしゃり感が強いし、伴奏のシンプルさも手伝って沁みる曲でした。

SHINGO★西成:振り返ると、俺もこのオケでよく歌おうと思ったなって(笑)。これまでは音源として仕上がったものしか聞いてなかったけど、2日前にこの曲のインストをもらって聞いたんです。そのときも「よくここにラップを乗せようと思ったな」と。それが素直な感想ですね。

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