乃木坂46 井上小百合が卒業発表 選抜・アンダー・舞台演劇でグループの基盤を築いた功績

 ところで井上は『すべての犬は天国へ行く』で手応えをつかんだ2015年終盤に、グループと個人活動の関係性について次のように語っている。

「乃木坂46ってモデルさんとして活躍してる子もいるし、ラジオのMCをやってる子もいるし、舞台や映像で頑張ってる子もいるし。そのすべてをひっくるめて、ひとつのエンターテインメントであると、いつか思ってほしいなと。(中略)乃木坂46っていうグループがいろんな個性や特技を持ち合わせた、ひとつのエンターテインメントなんだって世の中に知れ渡ったらいいなって。だから乃木坂46を通していろんなことを吸収して発信して、自分の今後、グループの今後につなげられたらいいなと思ってます」(『PF(ポーカーフェイス)Vol.2』2015年、アスペクト)

 これは「アイドルグループ」の肩書を背負いつつ他ジャンルの活動を行なうことに関連して、通常は「アイドル」としてのみ社会に認識されている同グループの枠組みを捉え直す視座を述べたものだ。近年の乃木坂46合同会社が、芸能プロダクションとして卒業メンバーを組織のなかに位置づけつつ、個人としてのキャリアをマネジメントする流れを活発化させていることと重ね合わせると、この展望は面白い。現在の乃木坂46合同会社の動向は、「乃木坂46」をアイドルグループの名義としてだけではなく、グループ活動から離れたメンバーたちをも同一の組織やコミュニティに包摂する名義として捉えるような想像力を喚起する。井上がかつて語った「いろんな個性や特技を持ち合わせた、ひとつのエンターテインメント」としての「乃木坂46」は、たとえばこのようなかたちで結実しうるのかもしれない。

 もちろん、「ひとつのエンターテインメント」を結集させる組織としての乃木坂46という視野に希望を託せるのは、現在の所属先の如何を問わず多くの卒業メンバーたちが、在籍時からそれぞれの適性を模索し、いくつものジャンルに道を切り拓いて今日に至っているためである。そして、乃木坂46が特に注力する分野のひとつである舞台演劇に関しては、その代表的なプレイヤーとして井上が走り続けてきた。グループの一員としての活動を締めくくり新しいフェーズに入る井上のこれからの道のりは、芸能者としての彼女個人の歩みとしてだけでなく、「乃木坂46」という組織の未来像としても、興味深いものになるはずだ。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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