日向坂46はアイドル界の頂点へ向かう SSA公演で見せた、けやき坂46から現在に至る最強&最高の姿
ライブのオープニングで早くも横綱相撲を見せられ、開いた口が塞がらない状態だったが、続く2曲目「ひらがなで恋したい」のイントロが聞こえてきた瞬間に我を取り戻す。この曲が始まった瞬間、会場内に響き渡った歓声はちょっと鳥肌モノだったことを付け加えておく。まさに“ひらがなけやき”時代を象徴するようなこの曲が再び披露されることを、みんな待っていたのだ。しかも、そういった1曲を大会場でのアイドルライブの定番といえるトロッコに乗って披露するのだから、文句のつけようがない。トップアイドルのアリーナライブとして至極真っ当な、正解以外の何ものでもない演出だった。
最初のMCでは影アナを務めた金村美玖、丹生明里、渡邉美穂の埼玉出身組についても触れられる。彼女たちにとっては凱旋公演ともいえるこの日のライブ。しかも、会場には約2万人ものファンが詰め掛けており、日向坂46史上最大規模のワンマンライブとなっているのだから、ステージから見たその景色はなんとも言えないものがあったのではなかろうか。
最初のMCを終えると、「ときめき草」「期待していない自分」「抱きしめてやる」といったエモーショナルな楽曲が続く。けやき坂46/日向坂46が信条として掲げる“ハッピーオーラ”とは異なるカラーだが、先に挙げたようにこのが“むしゃら感”や“ひたむきさ”も彼女たちにとってなくてはならない要素。また、こういった楽曲をただ全力で歌い踊るだけではない、ちょっとした余裕のようなものもわずかながら感じられた。いろんな感情をコントロールしながら、曲ごとに異なる主人公を表現していく巧みな技術が、今の日向坂46の中では育ち始めているのかもしれない。
また、その後のユニット曲では……1期生による「My god」、加藤史帆、渡邉美穂、上村ひなのと各期からの代表メンバーが参加した「やさしさが邪魔をする」、東村芽依、金村美玖、河田陽菜、丹生明里といった個性派が揃った「Cage」、そして2期生&3期生による爆発力の大きな「Dash & Rush」と、それぞれ異なる色合いの曲調で、メンバー一人ひとりの個性が際立つパフォーマンスを楽しむことができた。中でもダンスのみならず歌の表現力も求められる「Cage」では、東村をはじめとした4人の一段と成長した姿を目の当たりにし、個々の歌やダンスに目と耳を釘付けにされたことは特筆しておきたい。
ライブでのパフォーマンスはこの日が初めてだった新曲「こんなに好きになっちゃっていいの?」も、MVで目にしたとき以上のエモーショナルさが伝わってきた。高度なダンスはもちろんのこと、繊細さも求められる歌や憂いなどが求められる表情作りなど、少なくとも「キュン」を発表した当時の彼女たちからは想像もつかなかった進化を遂げていることを、この1曲だけでも十分に感じ取ることができたはずだ。この曲こそけやき坂46時代に放っていた“ひたむきさ”の延長線上のあるものだが、以前と違うのはメンバー一人ひとりが女性として、人間として格段と成長しているということ。つまり、実年齢の成長に合わせた結果がこの曲で歌われている内容や表現しようとしていることにつながっているのではないだろうか。そう思わずにはいられないほどに、この曲のパフォーマンスには胸に迫るものがあった。
ライブ終盤は、今や彼女たちのステージには欠かせない「キツネ」やデビュー曲「キュン」、そしてグループの象徴ともいえる「ハッピーオーラ」とアゲ曲が続く。さらに極め付けの「NO WAR in the future」へとなだれ込み、会場の熱気がピークに差し掛かったところでピースフルな「JOYFUL LOVE」でライブ本編を締めくくる。けやき坂46時代の楽曲をバランスよく挟むだけではなく、「NO WAR in the future」や「JOYFUL LOVE」にも3期生の上村を加えてパフォーマンスすることで今の日向坂46の鉄壁さをアピールするその姿からは、今の彼女たちがけやき坂46結成から現在までにおいて最高/最強だということが伝わってきた。
アンコールでは、1期生による「誰よりも高く跳べ!」、2期生による「半分の記憶」というけやき坂46時代からの定番曲もプレゼントされ、これ以上ないほどに満足した……と思いきや、いくつものサプライズ発表が用意されていたのだから、過剰にも程がある。その中には2020年1月からスタートする日向坂46主演ドラマの情報も含まれていた。今年の夏、彼女たちはこのドラマの撮影に全力を注いでいたのだ。しかも、小坂菜緒に関して言えば、このドラマ以外にも初の主演映画『恐怖人形』が11月に公開予定なのだから、シングルデビュー以降のスケジュールを想像するだけで気が遠くなるものがある。
だが、この事実を知ってようやく理解した。たまアリ公演で見せた表現力の急激な向上は、もしかしたらドラマや映画の撮影から得たものが大きかったからではないか。ここで掴んだきっかけが、大なり小なり今回のワンマンライブに反映されているのではないか……そう考えると、そのスポンジのような吸収力に驚くと同時に、ゾッとすらした。ライブ中のMCひとつ取り上げても、『日向坂で会いましょう』(テレビ東京)や『HINABINGO!』シリーズ(日本テレビ)といったバラエティ番組での経験がしっかり反映されており、起承転結がしっかりした、堂々としたトークを楽しむことができた。一つひとつの仕事での経験が、最終的にはすべてステージに集約されていく……だとしたら、この先の日向坂46の進化はどこまで続くのだろう。
ライブ終盤、キャプテンの佐々木久美がこの日の公演を振り返り「今の日向坂46をすべて出し切れたと思います。でも、私たちはここで留まらずに坂を駆け上っていけるように精進し続けます」と発言している。この謙虚さとひたむきさを忘れることなく、観る者にハッピーオーラを届け続けていけば、日向坂46はいずれアイドル界のトップに到達するだろう。そして、その日はそう遠くないはずだ。
■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。
■セットリスト
日向坂46「3rdシングル発売記念ワンマンライブ」
2019年9月26日(木)さいたまスーパーアリーナ
00. OVERTURE
01. ドレミソラシド
02. ひらがなで恋したい[1期生、2期生]
03. ときめき草
04. 期待していない自分[1期生、2期生]
05. 抱きしめてやる[1期生、2期生]
06. My god[1期生]
07. やさしさが邪魔をする[加藤史帆、渡邉美穂、上村ひなの]
08. Cage[東村芽依、金村美玖、河田陽菜、丹生明里]
09. Dash&Rush[2期生、3期生]
10. 君に話しておきたいこと[1期生、2期生]
11. こんなに好きになっちゃっていいの?
12. キツネ
13. キュン
14. ハッピーオーラ
15. NO WAR in the future
16. JOYFUL LOVE
<アンコール>
17. 誰よりも高く跳べ![1期生]
18. 半分の記憶[2期生]
19. 約束の卵