2ndアルバム『Arch Angel』インタビュー
綾野ましろが明かす、『Arch Angel』で表現したシンガーとしての決意「最終的に戦う相手は自分」
「“考える”ことが、やんちゃだった子供から少し大人になっていく第一歩」
ーー今回のアルバム『Arch Angel』のタイトルやコンセプトは、どのようにして決まったんでしょう?
綾野:チームみんなで話し合っていくなかで自然と“天使”がコンセプトになっていって。それで「白いイメージは外せないな」ということで衣装を真っ白にしました。“Arch Angel”は天使の階級の1つで“大天使”を指したものです。一曲一曲が天使であり、みなさんの感情に触れることのできる楽曲を作りたくて、いろいろな角度の歌詞やサウンドを作っていきました。
ーーなぜ天使を選ばれたんですか?
綾野:小さい頃に「天使になりたい」と思っていたぐらい、昔から天使とか翼というものの存在が自分の中ではすごく大きかったんです。でも結局今は普通の人間なので、だったらいっそテーマを天使にしてしまおうと思って(笑)。音楽で表現しました。
ーー8曲目の「Unleash」から終盤にかけては、特にそのタイトルとの親和性の高い流れになっているように感じました。曲順も、やはり一枚の物語になるということをかなり意識されましたか?
綾野:そうですね。ただ単純にできた順番に並べるとかではなく、物語を思い浮かべてもらえるようなものになっていればいいなと思います。
ーーでは、今回の新曲について楽曲順にお聞かせください。まずオシャレなロックナンバー「TRUE KISS」では、yukaricoさんと共作で作詞も手がけられていますが、どんな世界を形作ろうと思われたのでしょうか?
綾野:今までは基本的に自分と戦っていたり、アニメの世界観に沿っていたりする歌詞が多かったんですけど、この曲ではそこからちょっと離れまして。今まであまり歌ってこなかった、男女の恋愛の駆け引きみたいなものを歌詞にしたいなと思ったんです。駆け引きをして強がりながらもお互い大好きっていう二人がかわいらしいんじゃないかなと思って、妄想しながら書いてました(笑)。
ーーAメロの歌詞のカギカッコの位置がだんだん斜めにズレていっている点も、非常に気になりました。
綾野:そのカギカッコの位置は、この曲の登場人物二人の心の距離感を表しているんですよ。yukaricoさんの曲って、今までも歌詞カードでのギミックみたいなものが多かったんですけど、今回もこだわってレイアウトしていただきました。
ーーレコーディングで歌ってみて、いかがでしたか?
綾野:同じフレーズがよく出てくるんですが、そこでの表情を変えるというのが勉強になりました。たとえば繰り返し出てくる〈キュンと〉っていう言葉を同じように歌うのではなく、感情をグッと入れてみたり、かわいらしく歌ったりといろんなパターンで歌わせてもらって。しかもそれが、どれもその場で「あ、なんかいいねぇ」ってなったんですよ。今まであまり書いたことがない方向性の歌詞での歌声で褒められたので、うれしかったです(笑)。
ーー続いて、先ほど話題に出たミドルナンバー「Unleash」です。この曲はおひとりで歌詞を手がけられていますね。
綾野:はい。タイトルは「解き放つ」という意味がある言葉なんですけど、自分自身の内面にある、抱えていたくない感情を鳥にたとえまして。サビに出てくる鳥を“FEEL”という名前にして、最後はその感情を受け入れることで自由にしてあげられたら……という気持ちの流れを歌詞にしました。
ーーそのサビのサウンドからは、光が差し込んでくるような印象も受けたのですが。
綾野:そうですね。ただ、だからといって明るく歌って終わるというふうにはしていなくて。「囲われたなか、ひとりきりで動けない」という寂しさも描いた曲なので、あえて歌声は切ないままで、最後まで歌っていきました。あと、私の楽曲の中では起承転結がすごく大きい部類に入る曲で、物語として進んでいくようなものになっているんですけど、その一瞬というか一日ぐらいの短い時間を切り取りたかったんです。なのであまり機微をつけず、ぽつぽつと出てくる言葉に淡々とメロディをつけるように歌っています。
ーーそして「caelum」は明るいポップロックではありますが、歌詞にはファンタジックさもあって。〈マーメイド〉や〈気泡(あわ)となる声〉というフレーズもあるので、人魚姫をテーマにしているようにも感じたのですが。
綾野:いや、実はこの曲の歌詞は、自分の実体験を絵本を描くように伝えられればと思って書いたんです。何も考えなくても目標に思い切り飛び込んでいけていた、無敵だった時期があったのに、誰かの目を気にするようになったりビジョンを描くようになるとうまくいかなくなってしまったこともあって……。
ーーまわりに合わせて自分の行動を変に意識してしまって、できていたことができなくなったもどかしさというか。
綾野:はい。それに今でも私、たまに悩みごとがあるときに走り方を忘れちゃうことがあるんです。それって頭の中が整理整頓されてなくて考えすぎちゃうからだと思うんですけど、その“考える”っていうことが、やんちゃだった子供から少し大人になっていく第一歩だったのかなと思うんです。それで、サウンドとすごく合っているように感じたので、この子供と大人の狭間の頃の思い出を書くことに決めました。なので、水の中から見える空の青さのイメージから“天空”という意味のある言葉をタイトルに、歌詞にしていったんです。それを歌えたことで、またひとつ自分も大人になれたような気がしています。