PassCodeの歌声から感じる“人間味”とグループの個性 新曲「ATLAS」を聴いて
PassCodeのニューシングル『ATLAS』が非常に痛快な仕上がりで、初めて聴いてからしばらく経った今も新鮮な気持ちで接し続けている。今年4月に発表されたメジャー2ndアルバム『CLARITY』では、それまでのラウドロック/エレクトロニコアの要素に縛られることなく、ギターロック的手法を導入した「Ray」やオルタナティブロック的な「4」、エフェクトのかかっていないメンバー4人の温かみのあるボーカルが印象的なミディアムバラード「horoscope」などバラエティに富んだ楽曲揃いで話題となったばかり。同作発表後のライブでも表現の幅が広がったことで、グループとしても新たなステージに突入したと感じたファンも多かったのではないだろうか。
そんな彼女たちが『CLARITY』に続いてドロップする新曲「ATLAS」は、進化を続けるPassCodeにとってさらに新たな武器となる1曲といえる。まずこの曲の突き抜けるような壮大さやポップさはこれまでの比ではなく、グループとして新たな魅力を放つこの曲からはメジャー1stアルバム『ZENITH』(2017年8月発売)の頃にまとっていたダークな色合いがまったく感じられない。同曲のMVもこれまでの作風とは一線を画するもので、青空のもと一面緑の芝生の上に設置された白いステージで、夏らしい爽やかな白基調の衣装を着た4人がパフォーマンスする姿を楽しむことができる。
ギターロックを下地にした疾走感の強いサウンドとオートチューンを通した歌声を耳にすれば、従来のリスナーならばこれが“「Ray」を通過したPassCodeの新曲”だとおわかりいただけるだろう。あるいは、PassCodeを知らないビギナーにとっては「ロック色の強い、爽やかで聴きやすいポップチューン」と捉えて安心してしまうのではないだろうか……そう、少なくとも曲が始まって1分40秒までは。
1分40秒を過ぎたところ(MVでは約1分50秒過ぎ)で、PassCodeにおける大きな武器のひとつである今田夢菜のグロウル/スクリームパートに突入する。きっとPassCodeに対して知識ゼロの方にとって、この異物感は驚きに値するものだろう。と同時に、彼女たちをよく知るリスナーからすれば「へっ、曲が始まってからまだスクリーム入ってなかったんだ!」と逆の驚き方をするのかもしれない。従来の武器をあえて違和感として用意するこの手法からは新しさが感じられるし、PassCodeの楽曲がこれまで行き届いていなかった層にまで到達させるための新たな実験のようにも思える。
思えばメジャー1stアルバム『ZENITH』は全体的にアグレッシブで、1曲の中で目まぐるしく転調を繰り返す“PassCodeサウンド”の原点が完成した、「何かに立ち向かうために攻め続ける」作品だった。そういった楽曲群を、オートチューンを用いることでどこかひんやりとした質感を表した南菜生、高嶋楓、大上陽奈子の歌声と、ガールポップという枠を超越した今田のエモーショナルなスクリーム/シャウト/グロウルというある種相反する2つの手法で表現することで、よりオリジナル性を高めていった。どちらか一方だけでは成立しないほど、これらの要素はPassCodeにとってすでに大切な個性になっているのだ(そもそも、普通にアイドルソングやエレクトロポップを表現するのなら、ここまで大々的にグロウルをフィーチャーする必要もないだろうし、その逆も然りだ)。
そんな『ZENITH』を経て、彼女たちは2018年5月発売のメジャー3rdシングル『Ray』で早くも変革期を迎える。ダークでラウドロック寄りだった楽曲が、ここではメジャー感の強い、ストレートなギターロック的手法で表現されているのだ。その傾向は続くメジャー4thシングル『Tonight / Taking you out』(2018年9月)でさらに強まり、早くも新たな武器として確立させる。そうしてたどり着いたのが、この春発表された『CLARITY』というアルバムだったわけだ。