2019.09.24 18:00

PassCodeの歌声から感じる“人間味”とグループの個性　新曲「ATLAS」を聴いて

　こうした進化はメンバーの成長によるところも大きいだろう。4人のシンガーとしての表現力が向上していることは、最新の音源やあるいは最近のライブから十分に伝わってくるし、特に今田の重心が低く、かつパッキリとした芯の感じられるシャウトはなかなか真似できるものではない。と同時に、どこかアンドロイドのような非人間的な色を漂わせてきたPassCodeにとって、今田のシャウトは機械を通していない“もっとも人間味のある”要素だったと捉えることもできる。ピコピコした電子音やケロケロボイス、重低音の聴いたヘビーなバンドサウンドの中で一番の異物感を醸し出しながらも、実は一番体温に近い熱を放っていたのが今田のシャウトであり、変幻自在なサウンド以上に今田が放つエモーショナルさに我々は惹きつけられていたのかもしれない。

　そして、こういったメンバーの成長に応えるかのように、プロデューサー・平地孝次が作り上げる楽曲、サウンドも作品を重ねるごとに進化を遂げている。楽曲や音楽的な変化の過程に関しては上に書いたとおりだが、こと『ATLAS』に収録された新曲3曲（「ATLAS」「GOLDEN FIRE」「Future's near by」）に関して言えば、どれもバラバラな個性を放ちながらも、聴けばそれがPassCodeの楽曲だとわかるものばかり。どれも1曲の中に複数の楽曲の要素が詰め込まれているんじゃないかと思えるほどの転調が用意されており、それらが緻密なアレンジとともに、必要以上に不自然にならないような形でまとめられている。しかも、これら3曲のレコーディングにはYoichi（Gt）、Toshihiro（Ba）、Kid'z（Dr/MY FIRST STORY）とバンドセットのライブでおなじみのメンバーが参加することで、よりナチュラルさを醸し出すことに成功している。

　新境地を見せる「ATLAS」といい、初期からのPassCodeが持つ個性を進化させた「Future's near by」といい、全編英詞で歌われるダンサブルな4つ打ちロック「GOLDEN FIRE」といい、どれもジャンルに捉われない不思議な魅力が備わっている。しかも、こういった楽曲群がレコーディングも共にするバンドメンバーたちとライブで表現されるのだから、PassCodeのライブが楽しくないわけがない。その一部は、YouTubeにも多数公開されている彼女たちのライブ映像からもうかがえることだろう。

PassCode - DIVE INTO THE LIGHT (Zepp Tour 2019 at Zepp Osaka Bayside)

　実際、『CLARITY』を発表してからの彼女たちのライブは、楽曲の幅が広がったことでその表現の幅も広がりを見せ始めている。そこに今回のシングル収録曲のような新たな武器が加わることで、10月9日からスタートする『CLARITY Plus Tour19-20』ではさらなる進化を目の当たりにすることができそうだ。

　「明快さ、光さす道」を意味する『CLARITY』というアルバムがPassCodeを表現者として成長させた。「地図」を意味するワードをタイトルに冠した続くニューシングル『ATLAS』は、そんな彼女たちはまだ見ぬ地平にまで導く地図になることができるのか……答えは言うまでもないだろう。ぜひこのシングルと新たなツアーで、その結果を確かめてほしい。

■西廣智一（にしびろともかず）　Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。