CrazyBoyが掲げる“ダンスとラップの融合”の可能性 ダースレイダー『PINK DIAMOND』評

 三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEのELLYが、CrazyBoy名義による配信シングル『PINK DIAMOND』を8月23日にリリースした。所属事務所であるLDH JAPAN系列のレーベル・LDH music & publishingに移籍後、初めての作品となる同作は、ヒップホップ作品としてどんな価値を持っているのか。シーンのご意見番としても知られるラッパー・MCのダースレイダーが、その魅力を語る。(編集部)

ダンス特有のリズムやグルーヴをラップに落とし込んでいる

 CrazyBoyの新曲「PINK DIAMOND」は、本人曰く“ダンスとラップの融合”をテーマに掲げた作品とのことですが、実際に作品を鑑賞して、まさに看板に偽り無しだと感じました。このような作品が日本のメジャーな音楽シーンにあるのは、とても重要なことだと思います。

 ラップとダンスはもともとはセットだったもので、オールドスクールからミドルスクールにかけてのヒップホップでは、ラッパーがダンサーを引き連れて一緒に踊りながらパフォーマンスするのが主流でした。それが90年代あたりから、ラップがだんだんとシリアス路線になっていき、ダンスとは乖離していきました。しかし00年代になると、ティンバランドやスウィズ・ビーツといったプロデューサーの作品によって、再びダンスを交えたパフォーマンスが主流となっていきます。つまり、ヒップホップにおいてラップとダンスの融合は、周期的に試みられていたことであり、今はまた、そうした表現が求められているタイミングなのだと思います。ビートに対して、どうフィジカルに反応していくかを体現した「PINK DIAMOND」は、その意味で時代にマッチした作品だともいえます。

 EXILE TRIBEは、ダンスによる表現を軸としてきたグループで、三代目 J SOUL BROTHERSの一員であるCrazyBoyのラップもまた、ダンス特有のリズムやグルーヴをラップに落とし込んでいるのが面白いところです。ボーカルを配置するタイミング、攻めるところは攻めて抑えるところは抑える緩急、フリーズするタイミングなどが、ダンスの動きとセットになっていて、アカペラでも踊れそうなほど。ファンの方はもちろんのこと、ダンサーとラッパー、それぞれのシーンから見ても興味深い作品ではないでしょうか。様々なシーンにアプローチできるのも、CrazyBoyの強みだと思います。

CrazyBoy - PINK DIAMOND

 ダンスが中学校の授業で必修化してしばらく経ちますが、ダンスを学び始めたばかりの子どもたちにとっても、CrazyBoyの作品は良い手本になりそうです。彼のMVを観ていると、授業で習ったステップなどをどう使えば、自分の表現にすることができるのかが伝わりますし、そこからダンスを通じたコミュニケーションを学ぶこともできるはずです。日本にも阿波踊りやエイサーといった素晴らしい踊りの文化はありますが、その多くはみんなで同じ動きをするもので、このビートに対して自分ならこう踊る、というものとは異なります。グローバルなコミュニケーションとしてのダンスは、自らが主体となってリズムに反応して表現するものであり、多くの日本人がそうしたコミュニケーションを学ぶと、世界中の音楽ファンたちともっと繋がれると思います。J-POPは歌詞の内容がメロディを重視する音楽で、それはそれで素晴らしいけれど、「PINK DIAMOND」のように良いグルーヴや良いビートという観点から楽しめる作品も、これからはより必要になっていくはずです。

 僕自身がとても影響を受けた、Pファンクの代表的バンドであるファンカデリックの楽曲に「One Nation Under a Groove」というものがあって、その楽曲では「自分のやり方で踊って、そのグルーヴで一つの国を作ろう」といったメッセージを発信しています。ヒップホップは、このファンクの精神の延長線上にあるもので、例えばブレイクダンスなどもビートに対して自分なりのムーブを披露するものです。主体的に自分が何をやるかが大事で、CrazyBoyはまさにそうした精神を、ダンスとラップで表現するアーティストです。そのコンセプトは、LDH music & publishingに移籍したことで、さらに明確になっています。チームで一丸となって、“ダンスとラップの融合”を表現しようとしているのが、ゴージャスな作りのMVからも透けて見えて心強いです。

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