リズムから考えるJ-POP史第8回

リズムから考えるJ-POP史 第8回:動画の時代に音楽と“ミーム”をつなぐダンス

TikTokが加速させる断片的消費

 こうした音楽・ダンス・ミームが絡み合ったコンテンツの消費は、TikTokにまで至ると、ポップミュージックを楽曲単位ではなく、より細かな断片として扱う傾向が強まってくる。

 ただし、楽曲を断片的に扱うという点でいえば、15秒から30秒のテレビCMとのタイアップであったり、およそ90秒程度の長さに制限されるテレビドラマやアニメの主題歌も同じような指摘は可能だ。また、2002年にサービス開始した「着うた」は、当初データ容量の制限から40秒ほどの断片しか楽曲を収録できず、「サビのみ」の形式で配信されることも多々あった。2000年代、日本の音楽配信において着うたが占めていた位置の重要性を考えれば、(後に「着うたフル」として楽曲全体を配信可能になったとはいえ)こうした断片的消費の慣習が与えた影響は過小評価できない。

 しかし、ミームを通じたバイラルなコンテンツ消費においては、とりわけそうした傾向が強くなる。たとえば、Vineならば6秒、TikTokなら基本的に15秒(編集によって最大で60秒まで拡張可能)の間に収まる尺でなければならないし、かつこの尺の中でミームが成立してしまう。だからこそ「Harlem Shake」のように、EDMの「ビルドアップードロップ」構成が重用されたのだし、ヒップホップの短くキャッチーなフックとの相性が良かったのだ。

 TikTokを観察して興味深いのは、しばしばサビやコーラスといった楽曲としての聴かせどころとは異なる箇所がピックアップされて使われていることだ。たとえば、TikTokで人気の女王蜂「催眠術」、神山羊「YELLOW」、ヨルシカ「雲と幽霊」といった楽曲は、TikTok上ではサビではなくAメロが使われていることが多い。どれもほとんどイントロがなくいきなりAメロから始まる楽曲で、音数が少なくシンプルなバックトラックと興味をそそられる印象的な歌詞の組み合わせという点でも共通している。また、尺の制限のためか、意図的にスピードアップされたり、編集されたりすることも多い。

Lil Nas X - Old Town Road (Official Movie) ft. Billy Ray Cyrus

 以上のような特徴的な消費の様式を前提としてもなお、実際にヒットに繋がる例は多い。それゆえ、音楽業界からTikTokへの注目は衰えない。TikTokから生まれたヒットとして最大の例は、アメリカのLil Nas Xが放ったデビュー曲、「Old Town Road」だろう。まったく無名の新人ラッパーであるにも関わらずバイラルヒットとなり、なんとビルボードHot100の連続首位記録を塗り替える見込みだ。日本では倖田來未がカバーした「め組のひと」(2013年)のリバイバルヒットに繋がった。「め組のひと」の場合、TikTokでは大幅にピッチを上げた早回しバージョンが用いられているものの、結果的にこのカバーバージョンの再評価に繋がった。

倖田來未 / め組のひと (1コーラス ver.)

 敷居の低い表現とコミュニケーションの場として、バイラルマーケティングの場として、ヒットを生み出すコミュニティとして、TikTokは重要なプラットフォームになっている。たとえTikTokというプラットフォーム自体の流行が過ぎたとしても、「一曲」という単位や「サビ」という構成上の概念といった従来のポップミュージックの枠組みから逸脱した基準で生み出されたヒットが、楽曲の形を変えていく可能性がある。

■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。ブログ

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